井上千里4
姉ちゃんと雅さんはオレ達と違ってあんまり会わない。オレと夕菜は学校でも会える。それでもまだ一緒にいたいと思う。
姉ちゃんは寂しくないのだろうか。
それもあって、オレは姉ちゃんと違ってスマホが欲しい。高校生になるまでは買ってもらえないから、まだ我慢だ。
姉ちゃんと兄ちゃんは似てると思う。三人の兄弟仲はいいと思う。でもオレと兄ちゃんより姉ちゃんと兄ちゃんの方がいいような気がする。
家族の中で末っ子であるオレが一番下なのは仕方ない。それでも夕菜と付き合うようになって、夕菜に頼られて自信が増したように思う。
兄ちゃんが家を出て、父さん、母さん、姉ちゃん皆が前よりオレを頼ってくれている。面倒だと思う事もあるし、構われることが凄くうっとおしく感じることもある。
でも、頼られることは嬉しかった。
姉ちゃんに彼氏ができた。兄ちゃんよりも年上だ。
オレから見たら、姉ちゃんの彼氏の雅さんは大人の男だ。
姉ちゃんが前ほどオレ達家族を頼らなくなった。それを寂しいと思う気持ちと悔しく思う気持ちがある。
気に入らない。……そう、気に入らないのだ。
姉ちゃんがオレよりも、友達・兄ちゃん・雅さんを頼ることが。
……もしかして、オレ、シスコン……?
そう考えたら、ぶわっと汗が噴き出した。
オレ、ヤバい奴?落ち着けオレ。考え過ぎると間違った方へ行きそうだ。
誰に相談しよう…浮かぶのは海斗兄ちゃんだった。
バイト終わってるかな。電話の子機を持って部屋に入った。
『もしもーし。海斗です』
兄ちゃんが出てくれた。家に居たようだ。
「兄ちゃん?千里だけど、今時間大丈夫?」
帰ってきたばっかりだとご飯まだだったりするかも。
『うん、大丈夫だ。いいぞ、どうした?』
父さんには悪いが、やっぱり兄ちゃんの方が話しやすい。
「兄ちゃん、オレ、シスコンかも。姉ちゃんがオレを頼らなくなってきたのが気に入らないんだ。どうしたたらいい?」
『……クックックッ……』
笑ってる。ヒドイ。オレ悩んでるのに。
「もういい……。切る」
『あっ、待て待て。ゴメン。違うから』
兄ちゃんの慌てた声がした。
『俺も似たようなもんだから、俺達兄弟だなぁっておかしくて笑ったんだ。誤解すんなって』
その言葉に、理解してもらえたんだと安心した。
兄ちゃんは家を出る時に、「俺の代わりに奈央を頼んだぞ」と言って行った。兄ちゃんの代わりにウザい男から姉ちゃんを守るのはオレになった。兄ちゃんに任せられたのが気恥ずかしく照れくさかったが嬉しかった。
でも実際どうだったろうか?
中学の時と違い、男で困ると家で言わなくなった。姉ちゃんに男友達ができた。そして、姉ちゃんに彼氏ができた。
オレがすることなんて何もなかった。
入れた気合いは無駄になった。
むしろ兄ちゃんが家に居た時の方がオレのことも頼ってくれた気がする。
姉ちゃんがたくさん褒めてくれて、ありがとうと言ってくれて…。
『俺も奈央を藤沢先輩に盗られた気がして寂しいさ。俺の方が千里より長く奈央を守ってきたんだ。兄離れされて本当に寂しいんだぞ』
そう言いながらも声は明るく、どことなく嬉しそうだ。
『俺にしてみたら、兄ちゃん兄ちゃん言ってくれる千里に彼女ができた時だって十分寂しかったぞ』
兄ちゃんも姉ちゃん盗られて寂しくて、オレにもそう思ってくれたのか。
そう思ってくれた事が嬉しい。
「兄ちゃんありがとう。上手く言えないけど納得した」
『あっ、そうだ』と思い出したように言ってきた。
『千里、兄ちゃんは何かあった時にすぐ駆けつけられる程近くにいない。藤沢先輩は信用できる人だし、奈央が仲良くしてる名前は知らないけど残念先輩達もいい奴なんだろ?いざという時は遠くの家族より近くの他人だ。せっかくできた良縁だ。大事にしろよ』
健人さんと和維さんは残念先輩で登録されていたか。オレ、そんな薄情な説明してたのか。
ごめん、先輩達。
「うん、分かった。雅さんとも話したことあるけどいい人だった。兄ちゃん程じゃないけど、雅さんも腹黒系だったよ。兄ちゃんは大魔王で雅さんはただの魔王って位、格の差はあるけど、確かに頼りになりそうだよ」
『…………………………』
あれ?
「兄ちゃん?」
返事がない。電話繋がってるよな。
『……兄ちゃん意外と繊細で純朴なんだよ』
「えっ…」
『おやすみ。次に会う時は来世かも』
ツーツーツー
「切れた…」
掛けた方が先に切るもんだろ。最後の兄ちゃんの冗談はつまんなかったけど、オレの心はスッキリした。




