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第37話 さぁ、でかけよう

寒くなってきた。

あれから約束してくれた通り、私に無理に変なコトをしてこない(今までもされた事ないけど)ので、安心してお部屋デートができる様になっていた。付き合うようになってわかったが、雅さんはインドア派だ。私もそうなので正直助かっている。

出掛ける事が無いわけじゃないが、遊園地とかカラオケとかじゃなく、親が仕事先でもらった○○展〔割引券付き〕のチケットがあるから行こうとか植物園とか、あとは天気の良い日にブラブラとお散歩したりとまったりだ。

最初の頃は一日時間があるとしきりに「どこか行きたい所ない?」とか「何処どこの何々が美味しいんだって。行ってみようよ」とか言われたけど、それもよく話したら雅さんも少し無理してたみたいだとわかり遠慮なくお部屋でゆっくりさせてもらっている。

玲奈が言うには老後の熟年夫婦みたいだ…そうだ。

藤沢家に伺う度にお菓子を持って行っていたのだが減らない。聞けば、雅さんも間食することがほとんど無いので手土産もたまってしまうから要らないという事だ。

恭子さんには、「奈央ちゃ~ん、私が太っちゃうから、気を遣ってくれてるなら遠慮じゃなくて本気で持ってこなくていいのよ」と言われ、翔惟先輩には、「あると食っちまう。部活辞めたから食うと太るしニキビがでてくるっ。頼むから残ったら持ってかえってくれ」と言われてしまった。

行く度に出してもらえるコーヒーも、台所からわざわざコーヒーメーカーを運んでくれるので申し訳なくて、今はもう家で淹れて水筒を持ってきている。冷めにくいし気楽である。


そして今日もまったりお部屋デート。

しているのは勉強である。


部屋の中では、私のシャーペンで書く音、紙を捲る音、雅さんがパソコンを使う音がしている。お互いたまにブツブツと言っているが会話はない。


勉強している時というのが廊下からでもわかるらしく、たまに恭子さん達が差し入れを持って覗きにくる。

いつだったか、あまりにも静かな私達が気になった翔惟先輩が彼女と二人でそっと部屋を覗き、


「げっ、本当に勉強してる」

「若いんだからイチャイチャしましょうよ!!」


と声をあげていた。1度ならず日をかえて何度も覗いてくるので、さすがに雅さんが、


「ねぇ。そうやって覗いて本当にイチャイチャしてたら君達どうするの?鍵もかけず、こっちが怒らないのをいいことに何度も覗いてくるけどさ、君達こそ覗かれたらどうなの?

見られて困ることしてるでしょ。……聞こえてるんだよ?」


そう言うとダッシュで撤収していった。


「…聞こえはしないけど、ちょっと振動がね」


と苦笑いだった。


言えちゃうんだ。うん。大人ってスゴい。思わず拍手した。


―――なんていう日もありました。回想終わり。



私は勉強が一区切りつき、ぼーっと外を眺めていた。

いい天気だなぁ。空が青いなぁ。雲のない空。歌があったなぁ。頭の中で歌詞を思い浮かべる。明日も晴れるかなぁ。明日もお天気だといいなぁ。

…何か思い浮かべる度に関係ある歌を思い浮かべていた。

もう4曲目、5曲目だろうか。頭の中で流している歌が聞こえてきた。

ぼーっとしていた顔を動かすと椅子に座ってこっちを見ている雅さんがいた。

パソコンの電源は落とされている。

聞こえてきた歌声は雅さんだった。

先に私が歌っていたのだと気付く。笑わないで一緒に歌ってくれたのが嬉しかった。楽しくなって、また私も歌い始めた。

音痴でも下手でもないけど特別上手でもない。そんな歌声と共に楽しく最後まで歌った。


「奈央、天気もいいし、ちょっと出ようか。お腹空いてる?」

「まだ平気です」


時計を見ると11時だ。お昼にはまだ早い。


「車出すから。お昼外で食べよう」


雅さんは恭子さんに、「母さん、お昼要らないから。奈央と出てくる」と声を掛けていた。戻ってくるかわからなかったので、私も「おじゃましました」と言って藤沢家を後にした。



「どこか目的地ってあるんですか?」

「さっきの歌の中でコスモスが出てきたから見に行ってみようかと思ったんだけど、どうかな?」


だいぶ寒くなってきたけどまだ咲いているのかなぁ。


「まだ咲いているでしょうか?」

「う~ん、多分大丈夫だと思う。前に教えてもらった場所なんだけど、行くのはオレも初めてだから見た事ないんだけどね。他にも咲いている花あるみたいだし何かしら見られると思うよ」


車の中でお話だけでなく二人で歌ったりもした。

4つ違うと、懐しいと感じたり知らない曲もあって、それがかえって面白かった。音楽の教科書に載っている曲がお母さん達が若い頃に流行った曲だと知って驚いたという話なんかもした。

財布を忘れた永遠の若奥様の歌を歌っていると目的地らしい所が見えてきた。


「多分あそこだ」


駐車場で空いている所を探していると、「うわぁ。…来てるのかよ。まいったな」と気まずそうな顔をして言った。


「奈央、来たばかりでなんだけど、日を改めない?」


雅さんがそんな事を言ってきた。「えーっ」と抗議の声をあげる。


「大学のヤツで奈央に会わせろってしつこいヤツがいてさ。そいつの車があったんだよ。そいつだけならまだいいんだけどさ、そいつの彼女の友達が…断ってもしつこくてさ。Wデートだって言ってたから、きっといると思うんだよね。…まさか此処にきてるとは思わなかったよ」


本当に嫌そうだ。あんなににこやかだったのに一気にやつれてしまった。


「雅さん、その人学校では会うんでしょ?

私に会わせると私が不快になるから帰りたいっていうだけだったら行きましょう。雅さんがその人達に会うこと自体が嫌なら帰りましょう」

「正直どっちもかな。

会わせないから信じなくて諦めてくれないとも考えられるんだけど、会わせたせいで奈央に万が一があっても困るんだよね」


ハァーっと溜息をついてうなだれている。


「オレさ、女の子じゃないからよくわかんないんだけど、どうやったら諦めてくれるものなの?」


私に聞かれても困る。

本音をいえば私だってその人には早く諦めて欲しい。でも…


「難しいと思います。その人の気持ちはその人だけのものですし。

ほんの小さな何か1つで急にさめる事もあるし、忘れられずにずっとって事もあります。

ただ、好きな人の幸せそうな姿をみたり、入り込む余地なんて無いって思い知れば諦めるかもしれません。

Wデートしてるなら、その相手のかたを好きになって、もう前の恋なんてキレイさっぱりって事もあるかも…でしょうし」

「そうだよなぁ…」


雅さんを見ると、どうしようか考えているのがわかる。


「行きましょう雅さん。行ったって会わないかもしれないし。人は人、私達は私達で楽しみましょう!!

いつも通りでいいんです」


シートベルトを外すと、雅さんの耳にフッと息をかけた。ビクッと驚いた雅さんが「奈~央~」と赤い顔をして耳を押さえる姿が可愛かった。

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