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第35話 お母さん直伝です

つかまらない。健人くんがつかまらない。どうしてだ。

笑顔でクラスの人達に健人くんの居所の心あたりを尋ねるが答えは芳しくない。

目を合わせない人、小さな悲鳴をあげる人もいる。

こんなに優しくにこやかにきいているのに。―――ただ、背に鬼背負ってますけど。

首を横に振る、後ずさる。皆どうしたのかしら?―――鬼の数増やしましたけど何か?


結局、朝のうちに健人くんを捕まえる事はできなかった。席に着いている健人くんをジッと見るが、こちらを見ようとしない。


休み時間の度にいなくなる。

さすがに私達も気付いている。逃げている。避けられている。

授業を終えると、担任の先生が声を掛けてきた。


「おーい、内田、藤沢、井上、片桐。昼休み先生の所へ来てくれ。忘れるなよ」


サラッと言って教室を出て行ったが、教室内はざわついた。ヒソヒソと話す内容がきこえてくる。


「やっぱりそうなんだ」

「本当だったんだね」

「産むのかな?」

「学校辞めるんじゃね?」


いい加減にしてほしいと、怒りがムクムクと涌き上がってくる。人が大人しいのをいい事に適当なこと言って。悲しみよりも呆れと怒りがどんどん強くなっていく。


「ねぇ、みんな。聞こえてるよ?みんなが言ってること全部嘘だよ。

私は妊娠してないし、学校も辞めない。

何がやっぱりそうで、何が本当なのかな。教えてよ」


山口くんがおずおずと口を開く。


「井上が3年の藤沢先輩とデキてるって」

「付き合っているのは、和維くんと翔惟先輩のお兄さんの雅さんです!!

翔惟先輩には彼女がいます」


中村くんが続く。


「その先輩の子供を妊娠したって聞いたぜ」


クラスの人達がうんうんと言ってる。


「してません。まだ付き合い始めたばかりだよ?私も今朝聞いたけど、夏休み中からこの噂出てるっていうけど、有り得ないでしょ」


溜息が出る。朝から鬼を出しっぱなしでさすがに疲れた。


「あと、私が走ろうとしないのをお腹を大事にしてるっていう人もいたんだけど、足の小指ぶつけて爪が半分割れて痛かっただけです。もう痛くないので走れます。今朝もはしりました」


一応聞いておく。


「みんなも高杉さんから聞いたんでしょうか?」


半分位の人が頷いていた。たーかーすーぎー(怒)ムクムクと涌きあがってくるのを抑えられず暴風雪を巻き起こした。


「本当に迷惑しているので、嘘を広めないで下さいね」


しっかりしっかり、しっかりと念をいれて、いや念を込めて言った。

クラスの人達はこれで大丈夫だろう。





フッフッフッフッ。昼休みです。

私と玲奈で和維くんと健人くんを確保しました。お弁当は手に持ったまま先生のいる社会科準備室へと行く。昼食は大事だけど、コイツらを逃がしてはならない。


「湯川先生、井上です。来ました」

「おうっ、入れ」


入ると先生達もお昼ご飯の最中だった。


「先生、すいませんが私達もここで食べさせて下さい」


面倒臭いと言いながらも一緒にパイプ椅子を出して座らせてくれた。

他の先生が笑っている。


「ああ、食べながらでいいんだが。

井上、妊娠してるって嘘だよな」

「嘘ですね」


間髪いれず答える。先生も「だよな」と苦笑いを浮かべた。

私と玲奈で知っている情報を先生に言ってみた。


「なぁ、内田。お前本当に高杉にそんな事言ったのか?」


健人くんが首がもげて飛んでいくんじゃないかって程ブンブンと振る。


「言ってない。高杉となんて必要最小限しか話さない。なっ、和維」

「本当だって。言ってないよ。高杉ってギラついていてコワイから、俺達あいつと係わらないようにしてたんだって」


彼らが言う事を嘘とは思えない。


「じゃあなんであたし達から逃げてたの?」


私もききたい。


「教室に入ろうとしたら、玲奈と奈央ちゃんが鬼のような顔して俺のこと探してるって言われたから。何だか知らないけど怖くて入れなかったんだよ」

「休み時間の度に逃げたのは?」

「奈央ちゃんからすっげービンビンに視線感じて怖かったんだよっ」


ソウデスカ。なんて紛らわしい。こちらも誤解でよかった。


「ふぅーん、まぁ分かった。高杉には先生から聞いておくから」


あまりに簡単に納得されて拍子抜けした。

私達のやり取りをきいていたおじいちゃん先生と中年の女の先生が話しかけてきた。


「井上さんはいい男つかまえたな。藤沢はもっといい男になるぞ」

「そうね。あの子、顔だけじゃなくて、性格も素直で面倒みが良くて、優しくて。先生も若かったら藤沢くんの彼女に成りたかったわ」


和維くん達だけでなく湯川先生も興味深そうにしてる。


「へぇー、井上の彼氏ってここの卒業生なんですか?」

「そうですよ。名前負けしない雰囲気の印象深い生徒でしたな。

優し過ぎて女性に苦労してたみたいで心配させられたもんですが、何がきっかけか解りませんが、急に芯が入って男前になって驚かされました」

「成長期を目の当たりにしたって感じでしたね」


懐かしそうにしている。その時代の雅さんに会ってみたいと思った。


「井上さんのお兄さんも有名人だったわよ。彼は頭の回転が早かったわね。人当たりはすごくいいんだけど、壁作っちゃうのよね。今は心開ける相手が増えたかしら?」


残念ながらあまり変わった気がしない。先生って生徒をよく見てるんだなって思った。


「湯川先生、井上さんの彼氏の藤沢くんのお兄さんも、お兄さんの井上くんも、ちょっとやそっとじゃ忘れない本当に格好いい顔してるんですよ」


先生の言葉に、私達もその場にいた先生達も思わず笑った。


一応、一件落着でいいのかな?

予想通りの展開でしたよね?

読んでいただきありがとうございます。


来週4月4・5日は多分更新できないと思います。


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