第33話 居てくれてありがとう
新学期になりました。
休み明け、特に誰も欠けることもなくクラス全員揃って新学期を迎えられて何よりだ。今日は始業式とテストである。
「おはよう、健人くん和維くん。やっと映画観に行けるね」
「やっほー、健人、和維。ちゃんと勉強した?」
このテストは定期考査と同じ位重要視されているので、夏休みの課題を『やっただけ』の人は困ることになるだろう。
そして、今日は部活もないので四人で映画を観に行くのだ。
「あ、奈央ちゃん、ミヤ兄から伝言。『今日バイトだけど9時半には家にいるから、疲れてなかったら声ききたいから電話してほしい』だって。
確かに伝えたよ。これ忘れたら大変だわ」
「うんありがとう、和維くん」
話していると同じクラスの富沢さんと山田さんがニコニコと寄ってきた。
「ねぇねぇ、今の何々?」
「井上さん、藤沢くんと付き合ってるの?」
クラスの何人かがこちらを注目した気がする。
「ううん、違うよ。和維くんと付き合ってるんじゃないよ」
「そうそう。奈央ちゃんは兄貴の彼女だから」
それをきくと「なんだ」とすぐに離れていった。でも、クラスの雰囲気がちょっと変わった気がする。
SHRが始まった。
特に大事な話もなく、通知表の回収や今月の予定が書かれた便りが配られて、始業式の為に体育館へ移動するように言われた。
昨日の夜ぶつけた足の小指が痛い。歩くのに支障はないが、爪が半分割れたので走るのはちょっとツライ。明日も明後日も体育の授業がなくて良かった。
体育館が近付くと、前の方に翔惟先輩がみえた。玲奈が声をかける。
「翔惟先ぱ~い!」
玲奈と二人で手を振る。今までも気付かないだけで見掛けたりすれ違った事があったのだろう。止まって待っていてくれる先輩に、玲奈が走って行こうとする。
「玲奈待って、走るのツライ…」
「早足は?」
「うん大丈夫」
あれ?また見られてる?玲奈が大きい声出したからかな。
「先輩、お久し振りです。学校で会うの初めてですね」
「先輩おはようございます。昨日ぶりですね」
私は昨日、藤沢家で顔を合わせていた。もちろん雅さんに会う為だ。
話しながら体育館に入った。整列しようと先輩と別れて玲奈と歩く。
「痛っ」
えっ、何?今突き飛ばされた。周りを見るけどおかしな人はいないようにみえる。
「奈央大丈夫?ねぇ、今のって」
「うん。今誰かに突き飛ばされた」
「あたしも気をつけるけど、奈央も気をつけるんだよ」
突き飛ばされたのが階段じゃなくて良かった。
少し不安になりながら始業式を終えた。
その後は何もなく、心を撫で下ろした。
数学のテストが終わり休み時間になった。
「奈央ちゃーん、、何か用があるって人が来てるよ」
呼ばれて出ると、同じ学年だけど知らない子達がいた。
「あなたが井上奈央さん?」
「はい、そうですが」
話始めると心配そうな顔した玲奈と和維くんと健人くんが来た。
「あたし、4組の和田です。藤沢先輩と付き合ってるって本当ですか?」
何がと聞かれると困るが、何となく違和感を感じ返事をためらっていると、後ろから和維くんが、
「奈央ちゃんは兄貴と付き合ってるよ」
と言った。彼女達は「やっぱり本当なんだ」と戻っていった。次の英語のテストが終わった後の休み時間になると、別の女の子達が来た。また同じ質問だ。答えるのは和維くんである。
それにしても一体どうなってるんだと四人で顔を見合わせる。
次の国語のテストが終わった。また女の子達が来た。
これだけ続くとクラスの人達も私達に注目する。お弁当を食べている間も気持ちが落ち着かなかった。休み時間の度に来客がある。こんな事初めてだ。
次の時間も迫っていたのでお手洗いにいく。
「ちょっと玲奈、走らないでってばー」
「急がないと休み時間おわっちゃうよ」
「走るのツライんだって」
また誰かに見られてる気がした。不安になったがテスト中は安全だと気持ちを切り替えた。
今日最後の英語Gのテストが終わった。
また来客があると嫌なので未だかつてないほど急いで帰り支度をすると足早に教室を出た。
「またあとでねっ」
私が一人で飛び出すと、玲奈が走って追いかけてきてくれた。正直一人じゃ不安だったので玲奈が追いかけてきてくれたのは心強かった。
帰ってから出掛ける支度をしても待ち合わせの時間までは余裕があった。
雅さんの顔が浮かんでくる。
会いたい。声を聴きたい。
雅さんがバイトに行くまで、まだ時間がある。
今日の不安も声をきけば、きっと安心できる。でも声をきいたらこの不安を言ってしまう。そして心配させてしまう。どうしよう。
でも…でも。――大丈夫だって言って欲しい。
雅さんに電話をしていた。
1コールで出た。
『奈央泣いてない?大丈夫?』
「うん、泣いてない。…不安だったの。雅さんの声きいたら、安心して泣きそう」
胸が詰まって声が出せない。
『和維がね、今日の学校での事教えてくれたんだ。心配で電話しようと思ったら奈央からかかってきたんだ。
これから和維を奈央の所に送るから。一応外では一人にならないようにして。帰りも和維に送らせるから。
…一緒に居られなくてごめんね。今から行くから。切るよ』
雅さんも心配してくれているせいか、少し慌てていた。
心配させてしまったけど心配してくれた事が嬉しい。
本当にそれからすぐ、雅さんが和維くんを連れてきた。二人を玄関に入れる。
和維くんが居るのも忘れて雅さんに抱きついていた。雅さんが背中を撫でてくれる。
「奈央、オレも情報整理してみるから心配しないで。でも、出掛ける時は一人にならないようにね。学校では和維達を頼るんだよ。片桐さんから離れないようにね。
ああ、放したくないよ」
「私も離れたくない」
自然に唇を合わせていた。また雅さんの胸に顔を埋める。
「奈央、オレもう行かなくちゃ。
心細いのわかるけど、珍しく積極的な奈央もいいね」
クスリと笑って頭を撫でてくれた。
「じゃ、和維、あと頼むよ」
その言葉にボッと赤くなったあと、サァーっと青くなった。
「雅さ~ん」
涙声になる私に、クックックッと笑っていた。
忘れてるの気付いてたなら教えてよっ。
和維くんは達観してしまったのか、手をヒラヒラと振っているだけだった。
このあとせっかく四人で観た映画だが、集中して観ることができず、惜しいことをしたとやや後悔である。
その代わり、不安や塞ぐ気持ちが晴れたのでよしとしよう。
私の中で雅さんの存在の大きさが増していく。
友達がいてくれる事の心強さに感謝が益々大きくなる。こんな事があったからこそ、玲奈・健人くん・和維くんの存在のありがたみを思い出すことができた。
雅さんの大きさを知ることができた。
すぐにおごってしまう私。このことをしっかり覚えておこうと思う。




