井上海斗2
奈央から相談を受けた俺は、高校の時の部活の名簿を引っ張り出すと『藤沢雅』と書かれている番号に電話をかけた。奈央にバレずに繋ぎをつけたい。
コール中に「んっんっ」と喉を整えていたら、3コールで出た。
『はい、藤沢です』
若い男の声だ。先輩か?弟か?
「井上と申しますが、雅先輩はご在宅でしょうか?」
『はい、私が雅ですが?』
すました声で返事がきた。俺だって分かってるなとニヤリとする。
「世界で1番可愛い妹がお世話になっています、先輩」
『いえいえ、こちらこそ。
海斗久しぶり。もう帰ってきてたの?』
「はい。もう帰ってきちゃいました。
今日は、可愛い妹を悩ませて困らせている野郎にちょっと、ね?」
ここで言葉を切って出方を待つ。俺の言葉について少し考えているようだ。悩め!悩むがいい!!
『奈央、何か悩んでいるの?
俺に言わないで海斗に言っちゃうんだ…』
あ、落ち込んだ?もうひと突きしてやろう。
可愛い妹を盗られた兄の恨みは深いのだ。
「俺は奈央の『1番大好き』ですからね。ただの大好きじゃないんですよ。1番ですからね、い・ち・ば・ん!!」
フフッと声がでてしまった。向こうに聞こえてしまっただろうか。まぁ、いい。
「藤沢先輩のことは母から少し聞いてたんで、奈央からの話はその報告だと思っていたんですよ。さぞ惚気られるんだろうとね。
そしたら、帰って早々『相談がある』って言われて。
因みにもう、悩みはききましたよ」
『それって、オレにも教えてもらえるってコト?』
もちろん教える気はあるが、電話で言う気はない。
『急で悪いんだけど、明日の午前中って時間空いてる?』
おっ?まさかの先輩から俺にラブコールですか。
これは受けてたちましょう。最近の先輩の生活態度を観察させて欲しいから、先輩の家に行きたいな。
「いいですよ。奈央に内緒にした方がいいと思うので、先輩の部屋で話すってのでどうですか?」
『ああ、それでいい。家の場所わかる?』
「はい、大丈夫です。何時頃行っていいっすか?」
『話、長くなりそうなら朝9時頃でどう?早い?』
「全然問題ありません」
俺は無事に約束を取り付けた。
さて、奈央の悩みを餌に今の藤沢先輩を掘り下げよう!!
そう決めて明日を楽しみに待つ事にした。
お宅訪問は5分遅れというが、うっかり5分前に着いてしまった。でも9時頃という約束だから許してもらえるだろう。
藤沢先輩が迎えに出てきてくれた。私服姿を見るのは初めてだが、俺と同じで服装にこだわりはなさそうだ。
っつーか、ちょっと勘弁してくれ。…今着てる俺のTシャツの色違いだ。下はメーカーこそ違うけど共にジーンズだ。
ちょっと沈んだ顔してるから先輩は気付いてないらしい。でも俺はもう我慢できない。
「っ、ぷはっっ、はっはっはっはっ、くっくっくっ、あーおかしい」
「海斗、何?どうした?」
笑いが止まらない。戸惑っている先輩のTシャツと俺のTシャツを交互に指差した。先輩も気付いて笑い出す。その声が思いのほか大きかったようで、奥から少年が二人出てきた。
俺の方が早くおさまったので挨拶する。
「妹がお世話になってます。雅先輩の後輩で奈央の兄の井上海斗といいます」
若い方が一歩前に出てきた。
「奈央ちゃんと同じクラスの藤沢和維です。こちらこそお世話になってます」
「和維の兄の翔惟です。同じ高校の3年です」
笑いがおさまった藤沢先輩が説明して場を収め、俺達は先輩の部屋へ行った。あー腹痛ぇ。
「いやー、おかしかった。俺、先輩とペアルックですか。外で会う約束しなくて、本当良かった」
「そうだね。何飲む?」
「何でもいいです。あ、コーヒー以外で。このあと奈央と会う時もコーヒー飲むんでしょ?」
先輩が残念そうに答えた。
「奈央、家にくるのイヤみたいなんだよね。だからコーヒーで構わないよ」
コーヒーの準備をする先輩がちょっと寂しそうだ。
そうだよな。俺だって彼女を自分のテリトリーに入れたい。
先輩が可哀想だから、とりあえず1つだけ言っておこう。
「先輩。奈央は来るの嫌じゃないと思いますよ。ただ現代に希少になった大和撫子なだけですから」
「そうかな。そうだといいね」
元気にはならないが仕方ない。
向かい合って座る。
「話、聞かせてもらえる?」
先輩が待ちきれない早く聞かせろとばかりにふってきた。その話はまだだ。
「先輩、奈央まだ高1ですよ。半年前はまだ義務教育です。本気ですか?一体どこで知り合ったんです?
話すかどうかは俺が今の先輩を知ってからですね。それ次第で、悩みを話すか奈央に別れることを奨めるか決めたいと思います」
一つ息をついて
「何から話そうか」
先輩が考え込み始めたので「どこで知り合ったか、からお願いします」と促した。
「初めて記憶に残ったのは奈央が中1の時でオレが高2の時。弟が書道で特選もらってね見に行ったんだよ。その時にみた。友達かどうかわからないけど、女の子三人にヒドイ言いがかりを付けられていたんだけど、上手くあしらっていたよ。すごかったから覚えているけど、内容知りたい?」
俺は首を横に振って話を進めてもらう。
「その時が初めて。その後なぜか度々、カレンデュラ公園で見掛けたんだよね。彼氏らしい男とデートしてるっぽいのとか、男振ってるっぽいのとか」
ああ、わかる。うん、よく行ったよ。知り合いに見られたくないからって、わざわざ学区外で1番近いその公園に。
「海斗はさ、覚えていると思うけど。オレ、いろんな女と付き合ってただろ?
最初はさ、ちゃんと好きな女と付き合ったんだ。けど、色々あってというかなくてというかでまぁ、別れたんだわ。
そしたら、次から次へと告白が続いてさ。特に誰とも付き合う気なかったから断ってたんだ。告ってきた知らない女に、知らない女とは付き合えないって断ったら、1週間でも1ヶ月でもいいから付き合って自分を知ってくれって。それで駄目なら別れるって。
1度それしたら、別れるたびに同じこと求められてさ。断ると誰々はそうしたのに自分は駄目なのかって。それで繰り返すはめになり、結局誰も好きにはならないし、うっとおしいし。
…心がすり減っていく感じがするし、でさ。
そんな時、公園で奈央が男振ってる所にまた出くわしたんだ」
先輩も大変だったんだなぁと同情する。
「その時に奈央が言ってたんだ。相手の名前は覚えてないからAとするよ。あの場に居たのはAではなかったのかも。まぁいいや。
Aのこと友達としては好きだけど、そういう好きじゃないから断った。けどAは友達として好きなら気持ちが変わる可能性があるはずだから、試しに付き合ってみようと言ってきて、付き合ってみた。けどそうしたら、だんだん手を繋ごうとしたりキスを迫ってきたりで、それがすごくイヤで気持ち悪かった。その後友達に戻りたくないほどAのことが嫌いになるし、少なくても自分は努力じゃ恋愛としての好きになれないこともわかった。
だから自分は自分が好きになった人じゃなきゃ無理だって。
そう言ってたんだ」
そうそう、彼氏いるって言ってもしつこくてなぁ…。最後の説得でも効かなくて、結局、俺参上だったんだよなぁ。
俺も気付かなかったけど、あそこに先輩居たのか。あれは奈央が中2で俺が高2の時だったか。ん?
「それで、ああそうか。オレもそうなんだって気付いてね。
奈央がオレの心を助けてくれたんだよ。
だからって、その時から好きだったわけじゃないけどね」
話を全部聞いたわけじゃないけど、先輩なら奈央を任せて大丈夫だ。そう思えた。
先輩が変わった理由が奈央だってことが兄として嬉しく誇らしい。
ああそうかと気付いたことがある。
美形・奈央大好き、奈央も俺達大好き・俺達お兄ちゃん・服の趣味が一緒・サッカー部も一緒じゃん!!
俺と先輩と奈央、気が合うわけだ。うんうん。
永い付き合いが出来そうだと笑顔になった。




