藤沢和維1
部活の間、いつもと違い健人が浮かれていた。友達になりたいと思っている女子の一人井上さんの携帯の番号を手に入れる事ができたそうだ。
何時頃連絡すべきかと俺にきいてくる。「飯食った後とかでいいんじゃね」と適当に答える。正直そんな事はどうでもいい。
井上さんが健人の思うようなおとなしい女子とは思えない。中学生の時の書道の展示会で見た時の彼女はとても気が強かった。女の修羅場?という場面に初めて出くわした俺は井上さんに対して「言ってる事はもっともだが、なんて気の強い女だ」と思い、対している女子には「女って、やっぱ怖いな」だった。
だから、不誠実ではないだろうが健人が思うような女の子ではないと確信していた。
夜、携帯が鳴った。健人の名前が表示されているそれをとる。さて、浮かれているか、沈んでいるか。
「もしもし。健人?」
『俺、井上さんに嫌われているのかなぁ…』
随分としょぼくれた声だ。
『井上さんに俺の番号登録してくれってメールしたんだ。登録完了の返事がきたから嬉しくなって。せっかくだから電話もしてみようって。
かけたら学校の感じよりずっと明るくて、意外にも俺と好きなアニメが同じで、話も盛り上がって…』
そこで言葉が途切れる。
「それから?」と続きを促す。溜息が聞こえて続きを話す。
『盛り上がってたらさぁ、井上さんだと思っていた相手からさぁ、井上さん、奈央さんに用事があるのかってきかれたんだ。
驚いてすぐ切っちゃった。
俺、誰と話していたんだろう。誰の番号教えられたんだろう』
「番号が違っていた、相手が気を悪くする様なメールを送った、気が付かないだけで失礼があったとか?」
『番号もちゃんと確認したさ。じゃあさ、電話切ってメールのやり取り転送するから見てくれよ』
そう言って電話が切れた。しばらくするとメールが届いた。
『件名//井上さんへ登録お願いします
本文//内田健人です。アドレスと電話番号の登録お願いします。登録したら、確認の為にメール下さい』
『件名//Re:井上さんへ登録お願いします。承知しました。
本文//お疲れ様です、井上です。登録しました。』
『件名//今大丈夫?
本文//これから電話してもいい?』
『件名//大丈夫です。
本文なし』
前半はお互い堅苦しいが、初めてなんてこんなもんだろう。後半はえらくくだけたな。健人の電話番号書かれてないぞ。
健人に電話して、番号の書き忘れがあるけど相手からも指摘ないし多分問題無い事、お前は悪くないという事を伝えて電話を切った。
俺の親友にふざけた事をした井上許すまじ。
明日ガツンと言ってやると気合いを入れた。