第20話 心に素直は難しいです
浜辺に着くと、玲奈がお母さんに言った。
「香織さん、二人だけにしても大丈夫だと思うよ。我慢もできると思うし、きちんと守ってくれるだろうし。
何より、大人として男として、ここで香織さんからの信用を失うような事しないはずだよ」
お母さんは、大きく1つ息を吐き出した。
「雅くん、奈央のこと頼んだよ。奈央、雅くんとはぐれるんじゃないよ」
「はい、任せて下さい。井上さん、片桐さん、ありがとうございます」
それを聞いて、お母さんは私達にシッシッと手を振り、玲奈と夕菜ちゃんは「じゃあね、また後でね」とお母さんと一緒に男の子達を探しに行ってしまった。
「奈央ちゃん、はい」と手を差し出された。嫌そうな顔をすると
「さっき、はぐれない様にって言われたばかりでしょ」
と返されてしまい、手を繋いだ。
人で賑わう砂浜を歩く。
近くに知り合いもいないので、誰かに聞かれる事もないと考え、思いきって気になる事を質問してみた。
「あの、雅さん。前からききたいと思っていた事があるんですが聞いていいですか?」
「うん、いいよ。何?」
自販機の前に着いたので、先にペットボトルの飲み物を買う。雅さんは日傘を手早く畳んでバッグにしまった。
私はバッグからタオルを出して渡す。雅さんは「ありがとう」と受け取り、料理や作業する人みたいに頭にタオルを被ってしばった。
「あの、雅さんて、私のこと、好きなんですか?」
「うん、好きだよ」
と直ぐに返事がきた。
「好きだとわかるようにしてきたつもりだったけど、あまり伝わってなかったかなぁ」
雅さんは私を見て続ける。
「奈央ちゃんからも好きという気持ち感じているよ。けど、人として兄としてっていう感じが多くて、男としてっていうのは少ししか感じないかな。
少しだけど、男として好きというのを感じるのって、オレの気のせいじゃないよね?」
顔を覗き込まれてドキっとする。雅さんからされた質問には「はい」と答えるので精一杯だった。お兄ちゃんみたいだとごまかしていた気持ちを認めるしかなかった。
雅さんが、覗き込んでいた顔を近付けてくる。
キスされる?でも雅さんにされるなら良いなんて思った自分にびっくりしたけど、されたのは、また、ほっぺにチュッだった。離れる時に耳をペロっとされて、ビクッとしてしまう。
雅さんはペットボトルを握った手を口にあて、クックックックッと声を抑えるように笑っていた。
好きを認めた途端キスされても良いなんて思い、されなかったら少しがっかりし、頭で考えていたよりも実は好きなんだと知り、更にはちょっといい気になって自惚れていたんだと思い知らされた。嬉しさ、楽しさ、恥ずかしさ、自己嫌悪と色々な感情が混じり複雑だ。
雅さんはきっと、私の心の整理の邪魔をしないでくれているのだろう。
二人で手を繋いで静かに歩き続けた。




