表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/118

第16話 また内緒話したんですね

昨日は思っていたより疲れていたらしく、いつもより遅い時間に起きた。リビングには、昨日会ったばかりの雅さんと藤沢ご夫妻がいた。


「おはようございます。雅さん、昨日はありがとうございました。今日は何かあるんですか?」


お母さんが答える。


「海だよ、海。この間のメンバーで行く事になったんでしょう?」

「え?初めてきいたよ」

「雅くん?」


ジロリと母が睨む。


「ああ、すいません。

昨日奈央ちゃんと別れた後、片桐さんから提案されて母さん達に話したんだ。てっきり、片桐さんから連絡行ってると思っていて。ごめん、ごめん」


雅さんは顔の前で手を合わせた。私もそれについて特に問題無いので分かったとだけ答えて、朝食を摂りに台所へ向かった。

もうすでに10時である。この時間にいつも通りに食べるとお昼に響きそうだと思い、ヨーグルトを食べながらコーヒーがおちるのを待つことにした。


それにしてもと考える。何についてかと言えば、雅さんだ。さすがに色恋に鈍いフリをしている私でも、彼が私に対して何かしらの好意を持っているのは誰の目から見ても明らかだろう。

私はこれからどうしたらいいんだろう。

お兄ちゃんみたいで心地良い―――今はこの気持ちだけで留めておきたい。でも、もし、『二人だけで会いたい』その相手が『玲奈』だったら?…胸が心がキュッとしてしまう。

ああもう、まだよく知らない相手なのに。

私は『どうしたい』のだろう。




さて、何がどうしてこうなった。

記憶違いでなければ、出掛ける時には、


「ちょっと足りないものあるから買いに行ってくるよ」

「あら、そう?気をつけてね。安全運転心掛けるのよ」

「奈央ちゃん、一緒に行こうね♪」

「付き合わせるんだから、お礼しなくちゃ駄目よ」

「もちろんだよ、母さん」


こんなだったはずだ。

だが、只今居る場所は水族館だ。


確かに買い物には行った。向かった所は水着売り場だ。雅さんの物を買うのかと思ったけど、連れて行かれたのは女性ものの売り場だった。そこで当然のように私に見繕い始めたので、今の水着は今年買ったばかりで気に入っているからいらないとキッパリ断った。そういえば、選んでくれるって言ってたなと思い出した。…忘れておきたい事と共に。


何だか疲れたのと、買い物から話をそらすため、お腹が空いたと訴えてみた。じゃあ昼食にしようって事になった。それで水族館にいる。

施設内のレストランではあるから、飲食店ではある。付き合ったお礼にお昼はご馳走になると移動中の話で決まっていた。



雅さんの態度に、私の心はモヤモヤとすっきりしない。なので聞いてみる事にした。


「雅さん、本当はどうしたかったんですか?」


そう、話をふると料理が運ばれてきてしまった。話は諦めて、「いただきます」と食べ始めた。お腹がペコペコになっていたので更に美味しく感じる。


「美味しいですね。暑いけど、食欲落ちたりしてませんか?」

「うん、全然そんな事ないね。でも、ビール飲みたい気分だよ」


雅さんが頬をゆるませる。私もつられて笑ってしまう。

そのまま、とても穏やかに食事は済んだ。そして、レストランを後にした。


「ご馳走様でした」

「どういたしまして。水族館みよう」

「イルカショーまだしてるかなぁ?」


出された左手に右手をのせる。その手が握られて二人で歩きだした。

大きな水槽に囲まれながら進んでいく。ゆっくり見渡すと雅さんと目が合った。

何か言いたそうだと思ったけど、何となく聞くことができなかった。言いたい事があるなら話してくれるかなと思い、「何?」って気持ちを込めて首を傾けてみた。けれど、答えてくれる気はないようで視線は水槽に戻ってしまう。

モヤモヤも晴れず、かわされた感じがちょっと寂しくて、手を握り返してみた。

イルカショーもみて、帰路についた。




うっかり居眠りをしていたらしい。外を見るとコンビニの駐車場だ。

ぼーっとしていると首に冷たいものをつけられた。


「きゃっ」


びっくりして声がでた。首につけられた冷たいカフェオレを受け取り、いただきますと口をつける。


「寝ちゃってすいません」


雅さんはククッと小さく笑うと、「じゃあ」と言って顔を寄せてきて、私の左の頬に雅さんの頬をすりすりとしてきた。驚いて固まる私の顔を見るとニコリと笑い、頬にチュッとした。


「これで許してあげる」


そう言って、まだ固まったままの私の額に「オマケだよ」と言って、もう1つチュッとした。

火照りをおさえたい私は冷たいカフェオレをずずーっと飲むと「行きましょう」と言い、車を出してもらった。

雅さんは、クックックッと笑っていた。

大人のイタズラは乙女の心臓に悪い。


いつの間にか、心にあったモヤモヤは無くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ