片桐玲奈2
あたしは今、ドナドナされている。彼らの手首を掴んでいるのはあたしだけど、移動させられているからだ。
「玲奈さん、いや、お前みたいな変態には『さん』なんてつけないっ。今から俺は玲奈さんを『玲奈』と呼ぶぞ!」
そう言って健人くんは空いている手であたしを指差した。
「人を指差しちゃいけないのよ」
あたしは健人くんをジロリと睨む。
「別に呼び捨てでもかまわないもの。あたしも今から呼び捨てにして、『健人』と『和維』って呼ぶから」
和維が「俺もかよ。別にいいけど」と言ってる。
手を離して、彼らをまじまじと見る。あたしが手を離したため、彼らは立ち止まった。今度は心の声を出さぬようにと心に決め、顔も何でもないように取繕って、まじまじ見続ける。
「玲奈、顔ニヤついているぞ」
和維も呼び捨てになっている。
「もっと近くで見る?」
健人はニヤリとしながらあたしの隣りに立ち、肩を組むと、そのままグイッと引っ張った。バランスを崩したあたしは健人の胸にぶつかる。恥ずかしいと思いつつ何でもない風を装う。
「せっかくだから、遠慮なく間近で見させてもらうわ」
そう言って健人の顔を見上げると真っ赤になって口をパクパクさせていた。
動かせる方の手を健人の背にそっと回してみる。驚いた健人は何故かギュッと抱きしめてきた。あたしの顔も真っ赤になる。「何すんじゃー!」と心の中で叫んだ。
「あ~、やってらんねぇ」
和維の声が聞こえて、健人があたしを放した。
「和維っ、どっちが速いか競争だ」
健人はそう言って足早に和維を引っ張って行くとプールに入った。
クロールで泳ぐ二人をプールサイドで見ながら思う。
調子のいいおバカさんだけど一緒にいるの楽しいわ。あたしにも、お兄さんにとっての奈央みたいな存在ができるといいな。
いつかくるはずのその日を楽しみに待つことにしよう。




