第10話 お兄ちゃんに会いたくなりました
午後の部は、予想通りお父さん達が早々にダウンした。疲れていた所にお腹いっぱいのご飯にビールだ。眠ってしまうのも頷ける。アニメとはいえ、内容もなかなか考えさせられるものだし、何より長い。
今ちゃんと起きて見ているのは、私達四人と雅さんにお母さん二人だ。中学生二人は船を漕いでいる。
五人で並んで見ているが、私の隣りは、やっぱり玲奈と雅さんだ。お兄ちゃんオーラが出ている雅さんが隣りにいても、正直言って居心地が良いだけである。そのうち、うっかりお兄ちゃんと呼んでしまうかも。
失礼のないように気をつけよう。そう思っていたのに。うーん、私も眠くなってきた。
「玲奈ー、頑張るけど、寝ちゃったら特典映像の時起こして」
「分かった~。あのお気に入りのシーンの時は?」
「うん、それもよろしく」
「もう、駄目っぽいね。おやすみ」
玲奈のおやすみが合図のように、私は眠ってしまった。
夢をみてるってわかる。さっきまで見ていたアニメの世界だ。私も主人公と一緒に働いている。場面がどんどん変わっていく。
子供の頃の夢になった。
小さい頃は、夜、ソファで眠ってしまうとお父さんが抱えて布団まで運んでくれた。それが心地良くて寝たふりをしようとした事があったけど、バレバレ過ぎたみたいで運んでもらえなかったなぁ。
ああ、また変わった。
海斗お兄ちゃんと遊んでいると、近所の子がお兄ちゃんを誘いに来たんだ。お兄ちゃんは行きたそうな顔をしてる。でも、私は寂しいから行ってほしくなかったんだよね。
夢の中でもやっぱりそう思う。服を掴んで、お兄ちゃん行っちゃうの?行かないでお兄ちゃん。お兄ちゃんを呼びながら腰にしがみつき、イヤイヤと頭をぐりぐり押し付ける。
結局行かないでくれたんだっけ?
ああ、またアニメの世界に戻ってきた。ううん、違う、音がする。そういえば見てたんだった。
あのシーンだ。
薄く目を開ける。
ああ、やっぱりそうだ。
見たい。けど超眠い。なんとか声をしぼりだす。「玲奈ごめん、寝る」ちゃんと届いただろうか。
「奈央、起きなさい」
「姉ちゃん、姉ちゃーん」
ゆさゆさと体を揺らされる。お母さんと千里が目の前にいる。膝枕でねていたようだ。
「お兄ちゃんありがとう」
と体を起こして久しぶりのお兄ちゃんの顔を見る。あれ?
お母さん達の方を見る。
「姉ちゃん、兄ちゃん違いだ」
「雅くんごめんね。まだ寝ぼけてるみたいで」
お兄ちゃんの顔を見る。…見る……見る………見る。じーっと見る。
『和維くんの』お兄さんだ。
「海斗お兄ちゃんじゃないのか」と心の中で思う。がっかりだ。が気付く。
「うわっ、雅さんだ。よだれついてませんかっ?」
「うん、大丈夫だよ」
「膝枕いつからっ?
ありがとうございました」
「いえいえ、どういたしまして。役得だったよ」
玲奈が来た。
「玲奈の肩、借りてると思ってた。いつの間に。どうりで心地良かったわけだ」
「ふふ、可愛かったよ」
「そう?寝顔ヒドいから、そんな事ないって」
玲奈がニヤリと聞いてくる。
「寝顔ってさ、見られるの恥ずかしくない?」
うーんとちょっと考えてみる。
「誰に見られるかによるかな。だって、お父さん達に見られたって今更だし。玲奈と夕菜ちゃんだって、私のヒドイ顔なんて見慣れてるでしょ?恭子さん達は親世代だし気にならないなぁ。
健人くんと和維くんは、それこそ残念さん見てるし、お互い様?」
「何か、奈央も十分残念な感じするよ」
「そんなの前から自覚あるよ」
近くで和維くんが「俺も残念なんだ」と言っているが、そんなの気にしない。
「奈央ちゃん、オレは?」
雅さんから声がかかる。
「雅さんはお兄ちゃんと同じだから平気です」
「なら、お兄さんと同じならオレも1番?」
「家族じゃないから違うけど、順番はつけられないかな」
「第2の兄って感じ?」
「…雅お兄ちゃん?うーん、やっぱり何か違うかな。雅さんは雅さん」
私の中では、似て非なるものという位置付けで納得した。




