内田健人2
雅先輩が奈央さんと『あーん』をしている。なんて羨ましいんだ。
そして、あの恥ずかしがる姿がたまらない。
そうこうしているうちに昼食になった。
…俺も『あーん』のおこぼれが欲しい!
隣りに座った和維を見ると呆れた顔をして俺を見ている。そんなに物欲しそうな顔をしていただろうか。あっ、ジト目になった。そんな目で見ないで欲しい。
俺の右斜め前から声がした。
「玉子焼きあーん」
奈央さんがそれに応えてパクついた。さらに玲奈さんもお返しをしてもらっている。俺もまぜて欲しい。
上手く加わった雅先輩を横目に食事を続けた。
途中で和維のお母さんに何か話しかけられたような気もするがうわの空である。
しばらくして玲奈さんと奈央さんが席を立った。親達と楽しそうに話している。俺は和維に話しかけた。
「さっきのあーんかわいかったな」
「そうだな」
「俺達にもしてくれるかな?」
「そんなにしてほしいなら聞いてみればいいじゃん」
「…何だよ。和維はいいなって思わないわけ?」
「……思うけど、恥ずかしいし、ミヤ兄がコワイ」
「じゃあさ、俺が聞いてみるから。それでOKだったらいいだろ?」
「頼んだ」
気にしないようにしていたが俺の右頬がチリチリする。あちらを見てはいけない。正面を見ると、千里くんと夕菜ちゃんが俺に気の毒そうな顔を向けている。リア充中学生め。悔しくなんかないぞ。それに笑顔で応えてみせた。手も振ってみる。彼らの目線が彼らからみて左にそろーりと動く。ビクッとしてさっと反らされた。
右を見てはいけない。
心に念じながら待っていると、あーんの女神達が戻ってきた。俺は声をかける。
「玲奈さん、奈央さん、俺達にも『あーん』して下さい」
女神達はしょうがないと言いながらも楽しそうに俺と和維にあーんをしてくれた。




