第9話 娘は可愛いものらしいです
食事が始まった。DVDが長いので、食事中も見ようという案もあったが、さすがに行儀が悪いというのと、せっかくだからちょっとお話しましょうという事になった。最初の1杯のビールをお母さんが注いであげると、恭子さんからいただきますの声がかかり、皆それに倣い食べ始めた。私の左側には玲奈、右側には雅さんがいる。
「奈央、これ香織さんのお稲荷さん?」
「うん、そうだよ」
「香織さんの作ったやつ好きなんだぁ」
「私、唐揚げ食べたけど、すっごい美味しいよ」
「ふふ、奈央、玉子焼きあーん」
「ふふっ、あーん」パクッ。
「玲奈には…アスパラの肉巻きっ。あーん」
「あーん」パクッ。
二人であれも美味しいこれも美味しいとやっていると、「奈央ちゃん」と呼ばれた。見ると、
「はい、奈央ちゃん、コロッケあーん」
1度したなら2度も3度も同じだと「あーん」と口を開ける。小さめに作られていたが、1口で食べきれるサイズではなく、半分程しか食べられない。残ったのをもう1回あーんかと思っていたら、残りは雅さんの口に入った。びっくりと恥ずかしさで熱くなる。
私ばっかり恥ずかしい思いをしてなるものかと春巻をつまむ。
「雅さん、あーん」
「はい、あーん」パクッ。
雅さんは迷う事なく口を開けて食べた。
ああ、そうか。大人は『あーん』は恥ずかしくないんだな。うん、覚えておこう。
しばらくして、お父さん達にビールを注ごうと、玲奈と二人で席を立つ。私はお父さんへ、玲奈は藤沢パパへ注ぐ。
「はい、お父さん。お酒ばっかりじゃなくて、ちゃんと食べてる?」
「和維くんのお父さん、今日はありがとうございます」
二人共ニコニコである。
「娘がいるというのはこんな感じなんでしょうか。羨ましいですよ、井上さん」
「滅多にしてもらえませんが、妻にしてもらうのとは違う嬉しさがありますね」
「奈央ちゃん、玲奈ちゃん。二人共うちに嫁に来ないかね?」
「もう~、何言ってるんですかー」と、玲奈が答える。
「まだ1番は海斗お兄ちゃん(っていう事になっているん)だもん」
お父さんがグイっと飲んで空にしたので、もう1杯注ぐ。
「大きくなったらお父さんと結婚するんだと言ってくれたのに」
「私も娘に言ってもらいたいですよ」
今度は藤沢パパに注ぐ。
「うちの息子達、顔だけはいいだろう?本当に誰かどうだい?」
「和維くんモテるから、お嫁さんに困る事はないですよ。雅さんだって、女の人が放っとかないでしょう?ねっ」
そう言って玲奈を見る。玲奈が私の隣りに来て、そっと耳うちした。せーの。
「「パパ、大きくなったら、パパのお嫁さんになる!」」
「恭子~、やっぱり娘を、娘をっ」
「父さん。これから妹が生まれたら、オレの娘に間違えられるから」
「娘はかわいいなぁ」
「あら、弘至さんたら」
騒がしくなったので、自分の席に戻ることにした。途中で健人くんに呼び止められた。
「玲奈さん、奈央さん、俺達にも『あーん』して下さいっ」
「しょうがないなぁ。特別よ?」
「 何食べたい?」
先に私が二人にしてあげて、次に玲奈がしてあげた。何だか鳥の雛のようで、楽しくなって笑ってしまった。
彼らも嬉しそうで何よりだ。




