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続17話.また携帯電話は要りません?

久し振りの…といっても一週間ぶりの雅さんにもう直ぐ会える。一緒に居られる時間が限られているせいなのだろう、以前にも増して雅さんのことが愛しくてたまらない。会いたい気持ちが大きくなりすぎて胸も大きくなってしまったくらいだ。愛ってすごい!


藤沢パパが定時よりも早く上がれたので、高速をぶっとばしたのもあって予定よりも随分早く帰ってくることが出来た。雅さんとの時間を無駄にしない為にどちらの実家にも寄らずアパートに直行してもらい掃除洗濯に取り掛かる。とはいっても、雅さんも頑張ってくれているので酷く汚れているってことはない。

左手を見ながら今の状況を見つめると、私本当に雅さんのお嫁さんになったんだなって実感する。




卒業式の日、玲奈と健人くんは私達家族に遠慮してささっと居なくなった。四人での卒業祝いはまた日を改めてになっていた。両家族揃っているところで事務室に後日伺うことの連絡を入れ、祝いの席ではお父さんが大泣きし、海斗お兄ちゃんも珍しく涙をこぼした。千里とお母さんは涙を滲ませながら笑顔をくれた。

恭子さんと藤沢パパは悪い笑顔でお父さんをいじっていた。

雅さんが大学生だったあの時にもうプロポーズも受け決まっていたが、この日改めて家族の前で私に伴侶になることを請い、お互いの幸せを誓い、薬指に指輪をはめてくれた。

この時ばかりは恥ずかしさも何もかも目にも入らず気にもならず、迷うことなく雅さんの胸に飛び込んで笑顔と泣き顔の両方を大公開となった。心に深く染み入ったいい思い出である。


この日の早めのお開きは「耐えた二人へのご褒美」として、両親からホテルの一室を用意されていたからであった。そして、全て記入済みの婚姻届を手渡された。


「明日のお昼に出しに行くからな」

「雅、お昼よ~、ふふっ。止まれるかしら。」

「雅くん、時間厳守だからね?明日は休みじゃないからね」

「先輩…わかっていますよね?」

「奈央、万が一に備えてショーツとナプキンも入れといたから」

「姉ちゃん、恥ずかしいかもだけど…オレもだから。超…超気まずい」

「俺もなんて言ったらわかんないけど。えっと、優しくシテもらえるといいね?ん?ああ~、えっとそうじゃなくて、痛いんでしょ?頑張ってね!…ってこれも違う。あ~。もう。えっと、お楽しみに…」

「和維…それもどうかと思うぜ。奈央ちゃん、ま、緊張しないで、ね!」


激励の言葉が生々しい。手渡された袋。そして、忘れたり無くされたら困るから預かると婚姻届を奪われた。

そっと袋を覗くと、「超薄!○○mmで着けていないような~」といった感じの文字が読めた。

これから何をするか…ナニをするとバレバレなのが恥ずかしい。

こういうのを生温かい視線というのだろう。そんな眼差しに見送られながら雅さんと二人その場を離れた。






回想し過ぎたのか、いい時間になっている。

さっとシャワーを浴びて身支度を整える。メイクは極軽く。服装は張り切り過ぎないくらい。雅さんと並んで丁度いい感じ。うん。



会社の前でメールを送る。返事は電話で。人通りもそこそこある。雅さんは私が軟派されることを心配するけど、結婚してから声を掛けられることが激減しているように思う。本当の大人から見ると私は魅力的ではないのだろう。そう思っている。熱烈なのは雅さんからだけでいいから好都合だ。

紛らわしいのも煩わしいのも迷惑なだけだから。


「奈央、おまたせ」


駆けて来た雅さんが人目を憚らず口付けてくる。軽いそれはあっという間に終わり、抱擁を交わす。


「お帰りなさい。お疲れ様です。ふふ」


う~ん、失敗したかな。温もりを感じてしまったらここが外なのが…ああ、残念。


「会えて嬉しい。早く卒業したいな」


私が望んだ進学だったのに欲望に負けて本音が洩れた。我慢させているのは私なのに。失言だった。


「うん。待ってる。オレの忍耐力、当初の10倍位になっちゃっているよ、きっと」


そう返事をくれた雅さんは目を細めて小さく笑った。

うん。うん。ごめんなさい。ありがとう。その笑顔を無くさない為に精一杯頑張る。でも、一緒の時間だけは甘ったれの私でも許してほしい。


「私も楽しみだった。待ち遠しかったよ」

「オレも。離れがたいけど…。疲れているでしょ?行こう」

「はい!」


手を繋ぎ歩き出す。

遠くを近くに感じる携帯電話様サマだけど、こうして触れ合ってしまうと、やっぱりこの温もりには敵わないと思い知らされる。


「雅さん、あの時、携帯を持ちたいって思うほどの恋に落としてくれてありがとう」

「奈央、何それ?でも、どういたしまして」


不思議そうな顔をしている。

きちんと伝える大切さを知ったから、今伝える。


「私、頑固者だから、雅さんを好きにならなかったら未だに持っていなかったかも。無理矢理持たされたら意固地になって基本料金だけ払う偏屈な女になっていたかもしれないもの」

「それは無いんじゃない?でも、オレも奈央に出会えて感謝しているよ」


感謝合戦が始まらないように提案してみる。


「明日にでも公園にお参りに行ってみる?」

「ああ、暫く行ってないもんな」


あれっきり、あの不思議な空間に招かれることはない。でも、それで良い様な気がする。ふっと過去の思い出にふけりそうになっていると現実に戻された。到着したようだ。


「予約していた藤沢です」


靴を脱いで上がる。出された手に私の手を添える。さりげなくバッグを持ってくれたり支えてくれる優しさに小さくありがとうと応える。

予約されている個室へ案内される。声こそ漏れているが、個室に分けられていて中の人は見えない。


「落ち着けそうでしょ」

「うん。ありがとう」

「先輩に感謝だな」

「宜しくお伝え下さいね、旦那さま」

「はい、承りました、奥さま」


二人で笑う。安心して寛げる。

お酒も料理も美味しくて存分に楽しむ。

会話もはずむ。

ふと回想の続きを思い出す。元々赤かった顔色は更に赤さを増した。それを怪訝に思ったのだろう雅さんに問われる。


「どうかした?」


言っちゃうのが照れる。


「雅さんとの、その、初めての日の事を思い出しちゃったの」

「あ~。オレ思い出すだけで起ちそうだからちょっと待って」





あの日、もうすっかり慣らされていた体はちゃんと雅さんを受け入れた。話に聞くように痛かったが幸せを感じることができた。

あの頃怖かったそれは、待ち遠しい事に変化しており、体もまだ?まだ?早く!と急かすようだった。

心も体も繋がれた嬉しさと喜びは私に大きな安心感と安定、活力をもたらした。

雅さんも私を労わりながらも求めることを止めず、色んな体液と愛情でドロドロにされた。

目覚めた後のだるさと包まれるような喜びと人肌の温かさの心地よさ…と反対のべたべた感と唾液その他の匂いの不快感と大事な所の違和感と…不思議な感覚だった。




「雅さん、幸せそうな顔で爆睡だったよね」

「嬉しくて幸せすぎて舞い上がっていたんだから仕方ないでしょ!!だ~か~ら~!!………そう。そうだったんだね。もう、オレ我慢しなくていいってことだね。奈央が誘ったんだもん。なら引き上げて抱き潰すよ?それを望むんだよね?」


呆れ混じりだった言葉はだんだんブラックで甘々な雅さんへと変化していき。


「奈央、愛しているよ。あの時の奈央、凄く可愛かった。いつも気持ちよがっていい声で啼いていたけどあの時は格別だったよ。今でも鮮明に思い出せる」


落ち着けようとグラスを手にしたけど、残っているのは氷だけだ。


「ああ、そうか!そんな風に誘うくらいだもん。奈央はここでシタいのかな?もう濡れている?確かめようか。ねぇ?」


私の隣へ移動しようとする。


「あっ、ちょっ!帰ってから…!」

「ほら、もう、こんなだよ」


私の手を捕ってそこへ運ぼうとする。


「駄目よ、雅さん!ほら、会社の先輩が教えてくれたのならその人達やお兄ちゃんとか同僚の人が来ているかもしれないし」


そう言うと引いてくれた。言ってから思ったけど、ここでって、知り合いどうこうのそれ以前の話で、問題ありまくりだから。


「別に奥さんとイチャつくの見られたって困らないよ。別に隠しているわけでもないし。海斗も帰ったよ。莉緒ちゃんにデレデレだしね」

「ハハハ」

「煽ったんだから責任取ってね」


私だって。


「うん。私こそ早く触れ合いたい」


今度こそ雅さんは私の隣へ来て、熱い口づけを交わした。


「残り食べたらお会計でいいよね」

「はい」


壁越しにグラスが転がってこぼれたと騒いでいる声が聞こえてきた。




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