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続14話 . 愛されている自信

お待たせしました。

誕生日を楽しみにしている雅さんとは、少し寂しいけどお互い内緒気味で準備をしようと私から持ちかけてあった為、会える時間の確保をあまりしていなかった。

少し寂しい…凄く寂しい。でも、諸々根回しするには丁度よかったとも言える。

玲奈、和維くん、健人くんとも共にしている時間が少なめだ。

進学先がまず一緒になることはない玲奈にはちょっと相談しにくかった。

雅さんに最も筒抜けになる確率が高い和維くんにも相談しにくい。けど、書道のことがあるから最も彼に相談したいと思っていたのが本当のところだ。

ちょっとだけおちゃらけているけど、結構真面目で思いやりがあるのが健人くん。相談した時にどんな答えが返ってくるか全く想像できない。なので、彼に相談することをものすごく躊躇ちゅうちょしている。別に信用していないとかそういうわけではない。

あ、でも。想像できない答えが返ってくるなら、この沸き過ぎた私の思考回路も復活するかもしれない。


私の人生、この選択でいいのか。まだ迷いはある。自分達だけの力でやっていけるのか。

好きな人と結婚したい、家庭を築き守りたい、やりたい仕事もやってみたい、学ぶ時間を優先させてもらえるこの時期にまだまだ学びたい。

全てを望むのは我が儘だ。一番叶えたいのはどれ?諦めても後悔しないのは何?


湯川先生はあっさり、「お手上げだ」と私に言った。その代わり、親が近すぎて相談することが躊躇ためらわれるのであれば、相談相手に先生の奥さんを紹介してくれるといってくれた。

さすがにそれは厚かましいと思ったので遠慮するつもりだ。なぁんて言っても、もし、背に腹はかえられない様な事態にでもなれば簡単にひっくり返してしまうだろうけど。


現実と向き合うって大変だ。

好きな事と好きな人との為ならドンと来い!っていう感じで、もっと勢いだけでもいけるものかと考えていた。こうやって直面してみると…いや、私のなんて想像を駆使するだけのもので現実ではない。

現実なら「やるしかない」でひたすら前に進むことができるのだろうか?難しく考えすぎているだけなのだろうか? 

使いすぎた脳みそは、本当に耳や鼻の穴から出てくるのだろうか?






「奈央、座りなさい」


…?私、何かしたっけ?お母さんかの背後に鳳凰が見える。


「いいから、座りなさい」

「はい」


私が何に気を取られているのか気付いたお母さんは鳳凰を消した。見事な鳥だったと、心の中で拍手を贈っておく。こうやって心の中で茶化しているのが筒抜けのようで、ギロリと強い目で睨まれた。

私を座らせたお母さんは私にだけカモミールティを出してくれた。

その香りを嗅ぎながら、冷静になろうと深呼吸もした。

てっきり私の向かいに腰を下ろすと思ったお母さんは私の隣に座った。クッションの位置を直すと隙間無く私にぴたりと寄り添ってきた。


こんなに大きくなってからこうやってお母さんにくっつくなんて無かった。同じ距離でも大丈夫なのは玲奈くらいだ。あとは雅さん。密着度でいったらダントツで雅さん。

くっついたお母さんの腕が私を抱き寄せる。抵抗することなくされるがままだ。


「お母さん?」


お母さんの腕に入る力が強くなる。私はお母さんのお腹に負担が掛からないように圧迫しないように気をつける。


「奈央からお母さんに言いたいことはある?」


少し考える。無いわけじゃないけど、改めて言うことでもない気がする。でも、せっかくだから伝えておこう。


「お母さん、いつもありがとう。体、大事にしてね。妹と会えるの楽しみにしているよ。あ、名前の候補って受け付けてる?せっかくだから、いかにも姉妹って感じの名前がいいなぁ。駄目?」


だいぶ大きくなってきたお腹を撫でる。キック力が強めらしくてお母さんは夜中に目を覚ます事もあるそうだ。お母さんの睡眠が浅い時間ってだけかもしれないけど。


「そうじゃなくてね」


ピンポーン…ピンポーン…


「あ、お母さんが出るわ。お母さんのお客様だから。奈央はこのままここで待っていなさい」


私が出ようとしたら止められてしまった。

ドアの向こうから声が聞こえる。


「オレが至らないばっかりにすいません」

「気にしないで。うちの娘こそ、最近は進行方向が斜め上に固定されちゃったみたいで迷惑かけまくりでごめんなさいね」

「今日は奈央は片桐さんのところ…奈央?」


お母さんのお客様は雅さんだった。

疑問よりも会えた事が嬉しい。


「え~っと、香織さん?」

「雅くんも奈央もそれぞれあるだろうけど、座ってくれるかな」

「「はい」」


私達が腰を下ろすのを確認するとお母さんはお茶を入れてくるわと部屋を出た。

久しぶりと言うほどではないけど、悶々と悩んでいた日々は時間の流れを緩やかに感じさせたようで私の中は喜びが膨れた。同時に冷静さも顔を出す。何故ここに雅さんが呼ばれたのだろう?と。

だんだんその理由を考える事に心が覆われていく。嬉しい気持ちが曇っていく。

私が雅さんと合わせた視線は心此処にあらずという色に変わっているだろう。目に映っているけど見ていないのは自分が一番わかるもの。


「はい、そこまでにしてちょうだい」


その声にはっと我に返る。お母さんが私と雅さんの前にコーヒーを置いた。カモミールティは私を緩ませる効果を十分に発揮してくれた。今度はコーヒーでしゃきっとしろという解釈でいいのだろう。


「さて、奈央と雅くんの間で何があったのかな?」


はて?


「奈央、お母さんの所にたくさんの声が寄せられました。まず、担任の先生」


えっ。


「習字塾の先生」


おお!


「玲奈ちゃん、和維くん、健人くん。そして、可愛い千里」



「えっと?」


お母さんが頭を左右に振る。


「奈央、和維と千里、あと海斗からオレのところにも連絡きたよ。もっと早く気付いて動くべきだった」


私が理解した事は、私だけが状況を把握していないということだけだ。


「私にも全く何が何やらなのですが…」

「ねぇ、雅くん」

「はい」

「本当にこんな子でいいのかしら?」

「…」

「返品不可よ」

「…」

「その間は何かしら?気が変わったのならそれも仕方ないと思うわ」

「…」

「ちょっと雅くん?」


お母さんは雅さんを見ている。雅さんは私を見ている。私は雅さんを見ている。

この会話の中で分かったことがある。

お母さんは雅さんに私と別れても仕方ないと言った。雅さんはそれに対して明確な意思表示をしていない。別れるということに一考いっこうの余地があるということだ。


私の中でえっと…なんて軽く考えていたものが重さを増していく。

あの雅さんが躊躇するほどの何かがあったのだ。

私はどれだけ鈍感だったのだろう。

話の流れから、この事態を招いたのが私自身であることは疑い様が無い。


混乱と焦りで息が止まりそうだ。

このままでは雅さんが私から離れてしまうという現実。

視界が滲む。鼻の奥が痛い。声を出そうとするが出てきたのは嗚咽だった。


何故か雅さんの顔が笑顔に変わった。

理由が分からない。混乱に拍車が掛かる。

雅さんが私を抱き寄せた。

お母さんからティッシュペーパーを受け取りながら、ただ泣いた。




小さくしゃくる私の泣く姿に二人が呆れと安堵がみてとれる。

私、雅さんとお付き合いするようになってから精神的に退化しているのではないかと少々不安だ。


「奈央は甘えるの下手ねぇ」

「そうかな」


私、甘ったれだと思う。ブラコンの気だってそれを示していると思うんだけどな。


「何から話していけばいいでしょうか…。オレ達の誕生日。それが発端なのは間違いないとは思うんですが。それがどうして奈央の進路のことにまで発展したのか」


その雅さんの言葉で私は漸く現実に返った。

そこからは自分の中で自らの行動を省みると赤面ものである。

その様を生温かい目で、憐れむような目で見ないで欲しい。穴があったら入りたい!なんて思う日がくるとは…!!


「あの、ごめんなさい。ありがとうございます」


私の事をこんなに気に掛けてくれていたんだ。それを知ってくすぐったさに身を捩りたくなる。


「この子はさ、海斗と千里と違って持て囃されてこなかったのよ。ね?奈央」

「うん。お兄ちゃんと千里はちっちゃいころからすっごい可愛くて。お兄ちゃんは美少女風な美少年で」

「ぶっ」

「千里はまさに美少年って感じの美幼児で」

「ぶっ、ゴホゴホ」

「私は本当に血が繋がっているのかってからかわれるほど二人とは系統が違って.。比べられるのがちょっと嫌だったかな。比べられるって言うよりは女の子なのに顔がそれって、って憐れまれるみたいな感じだったか。うん」


お母さんがアルバムを持ってきて雅さんの前に開いて置いた。


「ここから奈央を見付けて御覧なさい」


雅さんが目を凝らして見る。ここに私が写っているというヒントがあるから見つけられると思う。でも、その助言が無かったら恐らく見つける事は無いだろう。それほどに写真の頃と今は違う。

現にまだ見つける事が出来ないでいる。髪こそ長さがあるから見た目は一応女の子に見えるはずだ。

雅さんに、私が今とは違って目つきが悪くて別人のようだと話したことはあっただろうか。事前情報があったとしてもやはり難しいに違いない。


「合ってると思う。この子が奈央だよね」


指された姿は間違いなく私である。目で何で判ったか尋ねる。酌んで貰えたらしく「目以外のパーツが奈央だったというのもあるけど、雰囲気が奈央だよね。」という答えが返ってきた。更に、


「隣り、海斗でしょう?何、この妹溺愛の顔。よく見みなきゃわからないけど、奈央なんて海斗の背中側の裾、握っているでしょ。きゅって。オレもこの頃会いたかったよ。上目遣いでお兄ちゃんとか言ったりしてるわけでしょ…。目付きが悪いっていうけど、これ、眼力がんりきっていうか眼光が鋭いっていう感じ?後ろ暗いことがあるとか下心がある人にとっちゃ苦手意識がでるかもね。奈央が悪いわけじゃないでしょ」


いわれてみれば…。家族の顔立ちが整っているから鑑賞用に…ああ、明るい人柄や夫婦仲が良好だったのも。お近づきになりたい、羨ましさ、そういうのを私が見透かしそうだった?攻撃するのに容姿が劣る私を攻撃し易かった?とか?そういうことだったのかな。今となっては別に気にしてはいないけど、そういう事もあるんだって隅に留め置こう。役に立つ日もくることがあるだろう。


「そうね。そうかもしれないわね。私も若かったからなんて言い訳にもならないけど色々必死で見えていなかったのね。今更、ね。

子供の頃そんなだったものだから、今ひとつ自分に自信を持てないみたいだし過小評価気味の傾向があるのよね。今はこの通りの美人さんであることは奈央も自覚しているからそれなりに均衡はとれているんだけどね。でも、ひょんな時にこうやって顔を出してしまうのよ。海斗が猫可愛がりしてくれたからこの程度で済んだのでしょうね」


そう言ったお母さんは少し弱々しく見えた。お母さんにそんな顔をさせたいわけじゃないんだけど、お母さんが自分自身を責めている。それについて私がそんな事ないといっても、お母さんから見た結果がそうであるのだからお母さんの中で折り合いを付けるべき事だと考える。だから敢えて触れずに流す。


「お母さん。雅さんは雅さんだよ。きっと、いつでもどこでも私の事を見付けてくれる人だよ」

「娘の惚気って…。ここまで堂々としていると清々しくて照れも恥ずかしさも何もないわね」


話の本線からは脱線しているのだろうけど、雅さんとお母さんからの愛情が届き、その外の愛にも包まれていることに体が温かくなった。


お読み下さりましてありがとうございます。完結に近づいてまいりました。

残り数話、お付き合い宜しくお願い致します。

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