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続10話. 乙女の暴走車にはアクセルしかありません 

正直いってちょっと困っていた。

お互いクリスマスだけで「イベントを満喫するという事」にほぼ満足していたのだ。大好きな人だから興味がないわけではない。互いを知り合いたいという気持ちはある。

でも、そもそも誕生日を祝うという事について、それを「イベント」だと認識していないと言えばいいか…いやはや、何とも微妙である。


あの雅さんが、実はイベントにはあまりこだわりが無かったのだ。

クリスマスの時は、気持ちがものすごく盛り上がっていたというのがあったから………あれだって、私がクリスマスに気付き一緒に過ごす事を望まなければ、寂しいと思いながらも私にプレゼントを渡して終わりにする予定でいたのだし。


大晦日だって例年通りに家族と過ごした。二年参りも家族で行った。一日から出かけるもんじゃない、お金を使うもんじゃないと、この日も例年通りだった。二日にやっと雅さんをはじめ、玲奈達にも会った。

玲奈の誕生日くらいは知っている。でも、物を贈り合う事は無く、「おめでとう」を伝え合うだけだ。毎年の事だし、お互いそれでいいと思っている事は確認済みなので齟齬が生じている事はない。

雅さんに本音は隠されているのかもしれないし、私の性格をよく知っている雅さんだから諦めたり譲ったりしてくれたのかもしれないが。

健人くんあたりは、彼の性格からして誕生日を祝ってもらいたいタイプに違いないが、申し訳ないが彼の誕生日に興味はないので許して欲しい。和維くんも同様だ。


現時点で決まっていることは、雅さんにケーキを焼いてあげる事だけだ。

でもそれだけでいいのかな。ううん、それだけがいいのかもしれない。

物だって、多分、いや間違いなく贈れば喜んでくれるだろう。

けれども、一番欲しいのは私に違いない。

…雅さん、こっそり期待しているだろうなぁ。

…雅さん、もしかして私が自らにリボンを巻いてとか期待していたりして?そんな痴態をさらすなんて裸エプロンと同じくらい絶対したくない。私の中でそういうことが「痴態」という評価である。罰ゲーム以外の何物でもない。


こうやって考えを半妄想の世界へ飛ばしてしまう。分かっている。

自分の中でも誤魔化していたんだろうなぁ。私が最も困っている理由って、本当はこの事なんだろうなぁ。

吐き出した溜息がなんだか重い。


「こんな時はお兄ちゃんかなぁ…」


ぽつりと零れる。多分空耳だけど「俺にそんなこと聞くな。先輩に聞け!」と聞こえた気がした。

久しぶりに内臓も出てくるんじゃないかって言うくらいの大きく深い溜息が出てくる。


「玲奈…はやめておこう。千捺ちなつさん…には推奨されそうだから却下だな。っていうことは、私の本心はやっぱりまだしたくないって事なのか」


胸のつかえが取れた。苦しかった理由が分かった。

これを機に逃げていた事柄に向き合おう。

将来について真剣に考えよう。受け止めたようで保留状態だあったこと。打診だけでなく本当は答えも欲しかったであろう提示。

私の真剣なんて親達からみたらおままごとに見えるかもしれない。戯言と一蹴されるかもしれない。

お兄ちゃんみたいになんて頑張れないって思っていた。

玲奈みたいに勉強が得意なわけでもなく、人並みの学力しか持ち合わせていない。

あ、人並み…っていったら私より順位が低い8割の人達に失礼だったかな。

でも、広く見たら人並みでしかないことは理解できている。


「贈り物」はあげたい人があげたい物を贈るんだって聞いたことがある。あげる方の自己満足だって。

運良く相手が欲しいと思っているものをあげる事ができたらお互い幸運なことなんだろう。

ならば、私の気持ちの一方通行でも良い事にしよう。

それを運良く雅さんが喜んでくれるならそれでいい。

我が儘な考え方だ。でも、いい。この変な自由さも私らしさだもの。

胸のつかえに続いて肩の重さも取れた。




こうなるとエンジンの掛かった私を止められる者は居ない!…なんてね。


今の選択科目は四年制大学を受験する予定にしてある。これは問題ない。

本当はなりたいものがあるんだよね。通うのはもう辞めてしまったけど、書道塾の先生をしたいなって。

無くてもいいんだけど、教員免許っていう肩書きがある方がいいかなって思って進学したいって考えている。通っていた書道塾のおばあちゃん先生に誘われたことがあったけど、まだ有効かな?

大学は…お母さん達が良いっていってくれたら、雅さんと入籍しちゃってからでもいいと思っている。

でも、そうなるとバイトに明け暮れなくてはならなくなるので現実的はないし、要相談である。

私が学生で未成年であるんだから、改めて要相談と言う必要もないか。何に於いても相談しなきゃならないに決まっている。


「相談、もしなきゃだけど…おばあちゃん先生にお話聞きに行かなくちゃかな」


あとは、学校の習字の先生にも話を聞かなきゃ。湯川先生にも相談しよう。


「お母さんにに相談…はできるだけ根回しして足場作ってからかな。やっぱりお兄ちゃんにも知恵借りたいなぁ」


メモをしたことをルーズリーフに纏めなおしていく。


「雅さんにはどのタイミングで話したらいいんだろう」


最も話し合わなければならない人への伝達のタイミングに最も頭を悩ませることになった。


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