第8話 本当の勇者を望みます
1話分まるまる見なかったようでエンディングが流れていた。
「皆さんおはようございます。私は和維の兄で雅といいます。私もご一緒させて下さい」
そう言うと私の隣りに座った。ケーキとクッキーを勧めてみる。
「良かったらどうぞ。クッキーは玲奈が作ったんです。サクサクで美味しいですよ。ケーキは私が作りました。お口に合うといいんですが」
雅さんは大人ケーキを1切れお皿にとると、フォークで一口サイズに切り、パクっと食べた。
「うん、美味しい」
そう言ってニッコリすると2口目をたべる。
その次の1口は、何故か私の前に現れた。
「美味しいよ。どうぞ」
これは定番の『あーん』なのか。フォークごと受けとるべきか。
正解であってほしいと願いながらフォークに手を出してみると、すいっと避けられた。恨めしく思いながら見上げると『正解わかっているでしょう?』と言わんばかりに笑顔を強め、さらには「あ~ん」と声に出した。
諦めて口を開ける。食べると味見をした時よりお酒を強く感じた気がした。
「美味しいね」
そう言うと、雅さんは残りを食べ始めた。
はっと我に返り、ぐるりと周りを見る。赤い顔した子供達とヒィッと思わせられる顔の大人達が見えた。こういうのをカオスというのだろうか。『やっちゃったな姉ちゃん』とでも言うような顔の千里と目が合う。
「助けて~、勇者~!」心の中で叫んでみた。
勇者は現われなかったが時間は過ぎ、昼の12時をまわった。キリのいい所でお昼ご飯にする事になった。
「母さん、お昼はどうするの?」
雅さんが言った。
「私と香織さんで用意したから心配ないわ」
「オレばっかり何もしてないだろ?」
「できる事を手伝ってくれたらいいわ」
そんな会話がきこえた。
「雅さん、これ運ぶの手伝って下さい」
そう言って雅さんを呼ぶ。そして、テーブルに置かれたコーヒーカップや皿を重ねてお盆の上に置く。私が持つには多すぎる量だ。それを運んで下さいとお願いする。私は残ったケーキとクッキーをまとめ、それを持って雅さんの後をついていく。
台所に着くと、玲奈と夕菜ちゃんは洗い物。お母さん達はお昼のおかずを温めて準備をしていた。
「奈央、これ、どんどん運んじゃってー」
「雅もお願いね」
「あ~、奈央。飲み物何がいいかお父さん達にきいてきて」
「はーい」
リビングに戻ると大きなテーブルに換えてあり、台を拭き終えた所だった。
料理を並べていく。お母さんも恭子さんもすごいなぁっておかずを眺める、おかずの被りがない。本当にしっかり打ち合わせしたんだ。ありがとうと感謝した。
「お父さん達、お昼は何飲むの?」
「井上さん、呑めるクチですか?」
そう言うと、藤沢パパがクィッという仕草をする。
「昼からですか。いいですねぇ」
「じゃ、私達はビールで」
「健人くん達は?」
「俺達は冷たいお茶にする」
「冷蔵庫に入ってるから、俺取りに行くよ」
「千里もお茶?」
「姉ちゃん、お茶ってあったかいのある?」
「あるんじゃないかな。私もあったかいのもらうつもりでいるよ」
「煎茶、焙じ茶、玄米茶、ハーブティーもあるよ」
そう言って雅さんが笑う。
「やった!オレ玄米茶ね」
「了解」
三人で台所へ行った。お母さん達に飲み物を伝えると「お父さん達しょうがないわね」と言いつつもビールとグラスを用意し始めた。




