続.片桐玲奈
藤沢家を出た後の、玲奈・本田・大沢です。
逃げる様に魔王サマの家から飛び出したあたし達。
彼等はすっかり肩を落としている。
魔王サマが彼等の予想と大きく違っていたのだろう。
それより、本田に言っておきたい事があった。奈央が一度も突っ込まないのが物凄く不思議だったのだが、奈央に何か考えでもあるのだと思い流していたのである。だが、こういう風に収まった事を考えると心底どうでもよいことであったか、そこを突っ込む余裕すらなかったのか。或いは両方であったのか。はたまた、あたしでは至る事が無い高みの考えでもあったのか。
何であれ、あたしでは分からない事だ。
ああ、気になっていて仕方がなかった。漸く聞ける。やっと、言える。
ほんの少し緊張しているあたしが居る。
「大沢くん、来てくれてありがとね。これで平和が戻ったわ」
「いえ。こちらこそ、孝のせいで随分迷惑掛けました」
「もう、いいよ。それよりさ」
いよいよだ。
「ねぇ、本田」
「なんですか。俺、本気の失恋したばっかなんすけど」
…ああ、どうしよう。すっごいワクワクしてきた。言っていいかな。言っていいよね。
「うわ、先輩、超悪い顔してる」
「うるさい、大沢くん」
ああ、もうっ!
「本田」
「だ~か~ら~、なんすか?」
「イヒヒヒヒヒ…」
「こわっ…なんすか、その笑い」
もう、ホントいやだ。楽しみ過ぎて笑っちゃった。抑えろ、あたし。
「あのさ、奈央もあたしもバドミントン部じゃないよ」
どうだ!
「えっ?」
「はっ?」
なんかさぁ、ずっと人違いかも?とか?思っていたんだよねぇ。
女子部の方は友達居るし、あたしも奈央も生徒会事務局なんてものに所属していたから人探しで体育館を訪ねる事とかあったけどさ。下級生男子、違う部活の人間を覚えているわけないんだよね。
「孝、本当に奈央先輩であっているのか?」
あんまり否定するのも可哀想だよね。
最初は人違いでも、その後、本当に奈央を見て好きになったのかもしれないし。
二人の肩をぽんと叩く。
「まぁ、人違いや勘違いでもいい経験だったんじゃない?」
「…俺からはなんとも…」
「俺、頭の中が真っ白だ。ちょっと俺に話しかけないで」
「ああ」
でもさ、好きな人とその彼氏にああやって挑んでいくって凄いことだと思う。
あたし、もし彼氏持ちの人を好きになったら絶対隠すもん。気持ちだけでも伝えようなんて出来ない。
自分から言える時って、向こうもあたしのこと絶対好きだよねっていう確信が持てたときだけだと思う。
関係が変わるのってこわいもん。
だからこそ、健人とああいう話も出来たわけで。
「当たって砕けるってさぁ、周りは簡単に嗾けるけど、全然簡単じゃないよね」
「そうっすね」
なんだかしんみりしちゃった。
「先輩は、玲奈先輩は、好きな人居るんですか?」
「居ないよ」
大沢くん、あたしのこと好きになっちゃった?まさかね。
「本当に?」
「うん」
「奈央先輩の彼氏のことも?」
「全力で否定するよ」
「藤沢先輩も?」
「和維は友達。すっごいいい奴だから好きは好きだけど、友達」
「内田先輩、も、友達、ですか?」
「健人も友達。バカだし、面白いし好きだよ。ホント、顔はイイのに残念な奴らだよね~。二人にいわせるとあたし達も残念らしいけど」
きっと高校卒業したら皆バラバラなんだろうな。そう考えるとちょっと寂しい。ううん、凄く寂しいな。
「なら、いいですか?」
「何が?」
聞き返してみたけど、まさかのまさかだったりする?
「あたしさぁ、妹居るんだ」
ごめん、遮った。
「はい」
ずるくてゴメン。
「普段お姉ちゃんやっているけど、姉御肌だと思われがちなんだけど、甘えたがりなんだよね。だから彼氏は年上の甘えても平気なお兄ちゃんみたいな感じの人とか頼れる大人な人、包容力のある人が好みなんだよね。だから、高校生のうちなんて全然出会いないんだぁ。もっと年齢を重ねれば年の差なんて微々たるものなんだろうけどね。学校に居る、包容力のある年上って先生くらいじゃない。さすがに、それは無いしさ。
あたしの恋は卒業後になりそうだよ」
そう言って大沢くんに笑いかける。
大沢くんが歯をくいしばった。握った手が白い。
ごめん、ホント、ごめん。
話しながら歩いていたら、家の方へ方向を変える分岐に着いた。
「今日はお疲れ様。もう、きっとあまり会う事もないね。バイバイ!」
あたしは振り返らずに家へ向かって歩いた。
玲奈は臆病です。この後の玲奈と大沢については今のところ続きを書く予定はないです。
本田ですが、眼鏡を掛けている時に奈央を見掛ける。眼鏡を壊すのが嫌で、部活は眼鏡を外す。三年生が引退し、親からOKをもらえてやっとコンタクトで部活をすることができた、と。ど近眼ではなかったため眼鏡なしでもなんとかなっていた。たまたま奈央と背格好が似ている女子が在籍していた。男子と女子は第一体育館と第二体育館に別れていたため人違いだと気付かなかった。大沢は本田の好きな相手に全く興味がなかったため聞き流していた。
こういう設定だったのですが、苦しいでしょうか?
…そういうものだと思っていただけると嬉しいです。




