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続7話.目からうろこがとれました

翌日。昨日の私は余程、具合が悪そうに見えたのか、それとも、出来事についてだったのか。どちらにしても随分と心配させてしまったらしい。しきりに「大丈夫だった?本当に?」と声を掛けられた。

玲奈の様子に昨日何があったのか気になったのであろう健人くんと和維くんに、


「話してもいい?」

「うん。もう終わった事だし、二人にも心配掛けていたから話さなきゃだよね。私、自分で話すよ」

「ううん、あたしが話すよ。他にも用事あるからさ。ね?」

「う~ん、そう?自分の事だから玲奈に話してもらうのどうかと思うんだけど。私が話した方がよくない?」


和維くんが何か思い出したかのように握った手で掌を軽く叩いた。


「あ、奈央ちゃん。俺達『恋人いない隊』だけで話したいことがあるから、玲奈からついでに聞くから。ちゃんと奈央ちゃんの誠意は伝わっているから安心して、ねっ?」

「…?…?…!そうなんだ。奈央ちゃん、俺達、こんな事で奈央ちゃんの真価を疑うほどちっちゃい男じゃないからさ。なっ?」


何だろう。私だけ仲間はずれにされている。アヤシイ。


「玲奈…」


疑いと心配の眼差しを向ける。


「だぁ~、もうっ!奈央!!そんな顔しない。こういう話は客観的視点で話す方が感情を交えない、割と正確な事実が伝わるもんなのよ!だ・か・ら!あたしが話すから。奈央の前で話したら、奈央の感情が混ざった奈央視点が入るでしょ。そういう事だから納得しなさい。いいわね?健人、和維、行くわよ!!」


なんだか言いくるめられた。納得はしないけど、ああ言うんだもん。ま、いっか。

昨日で本当に終わったんだと心底安心できたのは、教室にも押しかけられることもなく、待ち伏せもされなかった事を確認できた放課後の校門をくぐった時であった。それが分かった時、自分で思っていたよりも遥かに大きな負荷が掛かっていたことを知った。


今日は昨日約束した通り、雅さんと会える。

凄く嬉しい。でも心の片隅で思ってしまう。

今日がもしかしたら最後かもって。和維くんとは友達だから別れても偶然会うことがあるかもしれない。

そんな時、私は夕菜ちゃんみたいに笑えるだろうか。

もし、別れようって言われたらどうしよう。

素直に「うん」なんて絶対言えない。そんな物分りのいい女の振りなんて出来ない。

…なんか今ならサスペンスドラマによく出てくる女の人の気持ちがわかるかも。もし、他に好きな女が出来たんだって言われたら、理性なんてぶっ飛んで女の人のほうを怨んじゃうかも。


「私、やばっ。駄目だぁ~。なんだかなぁ」


歩きながら、がっくりうな垂れる。大きな溜息まででてくる。昔は溜息吐くと幸せが逃げるって言われていたけど今は寧ろイイらしいし、今はそんな小さなことは放置だ。


「奈~央っ、何やっているの?」


掛けてきた声の主は雅さん。安心するなぁ、この声。背が高いとか関係あるのかなぁ。低めだけど、低すぎないから若さと見た目に凄くって合っている。健人くんみたいにきもち高めも元気溌溂!ッて感じでいいけどね。雅さんの声がこんなに心地よくなる前は、声だけなら…和維くんが…だって、アヤカシがみえる男の子の声に似ているんだもの。私が誰にも渡したくない、優しくてちょっとだけエッチで、でも魔王サマとかいわれちゃったりしているのに気にしない懐の深さがあって。なのに意外と嫉妬深くて。


「やっぱりカッコイイなぁ。この人が私のことを好きだなんて、やっぱり夢だったのかも」


見上げた雅さんの綺麗で優しい笑顔に見とれてしまう。釘付けになっているとその笑顔の頬がピクっと動いたような気がした。


「ふふ。ま~た善からぬことでも考えているのかな?こ・の・か・お・は!!」

「いひゃいりぇふ」


指が口に入っています。ほっぺも口もびろ~んです。乙女になんて酷い事を!

口の端、本気で切れそうです。ピリピリして涙が滲んできています。


「オレん家って言いたいところだけど、昨日遅くまで家に居たからね。今日は奈央の部屋でもいいかな?」

「はい」


うわぁ。緊張する。自分の部屋だけどやっぱり雅さんが来ると思うとドキドキがやまない。


「あの、今更ですけど雅さんのお部屋より狭いですよ?」

「入ったことあるから知っているよ?…ほんと滅多に入れてくれないけどオレが行くの迷惑?」

「いいえ、全然そんなことないです。…多分、漫画や小説の読みすぎで。やっぱり、男の子を部屋に招くと襲われる…という…か、その。……雅さんに限って、そんなことないですよね?」

「───────……………我慢できるよ」

「「…」」


妙な間が漂っているうちに、家に着いた。




日頃からそれなりに掃除はしているので通すことは問題ない。

制服から着替える為に少しだけ待って居てもらう。

ついでに洗濯物も取り込んでマッハで畳む。皆の部屋に置いてまわったあと雅さんを呼びに下りた。


折りたたみテーブルの上に飲み物を置く。

今日は珍しく紅茶だ。

体も温まり、なんとなく気合も入った。

もう、置いておかない。

私の気持ちを伝えよう。

そして、雅さんと向き合おう!



あれ?

あれ?

あれ?


今の今まで何で気付かなかった?

もしかして…

気のせいじゃないよね。

気のせいであってほしいなぁ。


そう思い、雅さんの顔を見る。

うん、笑顔だぁ。

この顔、見たことあるなぁ。

笑っていいかな。

誤魔化せるかな。

いや、本当に精神的に余裕なかったものですから。


ああ、なんてこと!

思い出さなきゃよかった。

私は思い切って笑顔を作る。

ひく、ぴくっ。…上手く笑顔を作れていない模様です。

やっぱり、無理ですよね。


「ごめんなさいっ!」


勢いよく頭を下げる。


「どれについて?」


ああ、ハイ。どれからにしましょうか。


「ありすぎて、どれからにしたらいいか」

「ほ~」


泣きそうです。ブラック雅さん降臨のようです。

雅さんも身に付けたのですね。背後に大きな般若の顔が3つ出ています~~!こわ~い!


「空回り、及び自爆、並びに暴走の数々!ほんっとにごめんなさい!!」


小さな振動が起こる。

なんだろうと思ったら雅さんが笑いを堪えていた。

ぽかんとする私と目が合うと、「もう駄目」と倒れこんで大笑いを始めた。

私はその姿を見続けていた。



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