続6話.夢から覚めても夢の中にいます
お待たせしました。
ん~、よく寝た。
こんなに気分爽快なのは久しぶりだ。
「ふぁ~。暗い?あれ?」
目はバッチリ覚めている。だが、今の状況にピンとこない。
頬骨のツボを押しながら「えっと」と今日を振り返る。
「まずは部屋の電気でも点けて、と、きゃっ」
ベッドから降りようと体の向きを変えると、雅さんがにこやかに私を見ていた。
「暗くなって電気点けたんだけどね、奈央、よく眠っていたから消したんだ。今点けるから」
そう言われて、夕方の出来事を思い出した。
「着替える?夕飯、家で食べていってね。香織さんには連絡してあるから心配しないで」
「はい。あの、えっと」
「食べてから着替える?どっちでもいいよ」
雅さん?何だか普通すぎませんか?私、すごい醜態さらしたはずなんですけど。
私が持っている記憶って、実は偽物?私か雅さんのどちらか宇宙人に何かされちゃった?
「あ~、髪、後ろぺったんこになっちゃったね。ここにブラシないんだよなぁ」
「私は気にならないですけど、見苦しいですか?」
「いや、全然。でも、奈央はホントに気にならない?夕飯、和維達も一緒だけど」
「全く問題ありません。あ、けど、服は着替えます。えっと、これ雅さん?」
自分で着替えた記憶無いんですけど。ってことは、着替えさせて貰ったんですよね。
もう、気にしちゃいけないのかもしれない。きっとお兄ちゃんだから世話焼くの好きなんだよね。面倒見がいいんだよね。ただそれだけのこと。うん。深く考えちゃいけない。うん、うん。
「くすっ」
声のした方を見ると、左手で右肘を支え握った手を口に当て目を細めている雅さんがいた。
「着替えますので、こっちを見ないで下さいね」
「ごめんごめん、先に下に行っているから着替えたらおいで」
私はささっと着替えて藤沢家の皆さんのところへ急いだ。
「あらぁ~奈央ちゃん。おはよう。おうちのお手伝いやらなんやらで疲れていたかな?なんなら今日このまま泊まっていってもいいわよ」
「良いわけないでしょ。奈央ちゃん、母さんの冗談だから気にしないで」
「うん、冗談だってわかっているから大丈夫。ご一緒させていただきます。ごちそうになります」
雅さん?お静かですが。
…やっぱり私のことなんてもう。
ちらと視線を向けるがこちらを見てくれない。
…きっとそうなんだ。思い違いじゃない。もう、私のことなんて…だからあんなに平然としていられるんだ。
おいしそうなおかずが並べられている。でも、盛ってもらったご飯をテーブルに置いてしまう。箸にも手が掛からない。おいしそうだ。食べたい。でも、気分が沈んでいく。いけないと思うのに引きずられる。
ちゃんと食べなきゃ。成長期なんだもん。…成長期。育って欲しいところはなかなか育ってくれない。
「…きっと玲奈みたいな大きい胸が好きなんだ。私みたいにBカップの発育不良娘じゃ物足りないよね」
「「ぶほっ」」
「汚いわよ、雅、和維。………どうしましょ。これが噂のトリップかしら」
「雅さんは感度はいいとか言ってくれていたけど、お肉足りなくて挿めないもん」
「ミヤ兄。俺、奈央ちゃんが不憫だよ。止めても止めなくても結果、恥ずかしいだろ」
「和維、オレこそどうしたらいいんだ。むしろ奈央よりオレの方が恥ずかしいだろコレ」
よく、揉んだら大きく成るっていうよね。手で覆ってみる。
「…揉んで貰っても大きくなってない。ホントに大きくなるのかな」
「雅。女の子にここまで言わせちゃって。お母さん悲しいわ。まだまだ大きく成るわよ。私だってこの位の頃はあの位だったけど、ちゃんと育ってDカップにはなったわ。でも、そのサイズでも挿んであげられなかったわよ。そんな夢みているんだったら、奈央ちゃんが妊婦になるまで待ちなさい」
「母さん、オレ、そんなリクエストしたことないから。勘違いしているようだから言っておくけど、オレ達まだヤッてないから。奈央、まだ処女のままだから!!」
「「えっ」」
「ちょっとはつまんだけどさ」
「あらイヤだ。雅って紳士なのね」
「うるさい」
今、考えたってしょうがないよね。
なんか今日は私自身が駄目っぽい。久しぶりに好く寝たから頭は比較的しっかり回転していると思う。
帰ったら落ち着いて考えてみよう。
「うん、私が雅さんのこと大好きなことに変わりないっ!」
それだけは確かな事だもん。私はパンパンと自分の頬を叩くと顔を上げた────────
そこには人が居た。お母さんでもお父さんでも千里でもない。
っていうか、私、今何を考えていた?
ここって、雅さん家だ。
そう、人が居る。
だから、私、何を考えていた?
えっと。
誰にも聞かせるつもりのない事。
心の声、口に出ていた?
えっと。
この空気、何?
えっと、えっと、えっとえっと。
「熱烈な告白ありがとう。オレも奈央の事、愛しているよ」
セーフですか?セーフなんだよね?
「はい。和維くんと恭子さんの居る前ですが、あの、ちょっと、心が旅に出ていまして、思わず告白しちゃいました」
「あ~ら、いいのよう~。若いうちはそういうのも微笑ましくていいわ~」
「別にいいけど。でも、ちょっと聞かせられる身としては恥ずかしいから、二人の時にして」
うん、うん。安心した。大丈夫、セーフだぁ。
あ~良かった。
出していただいたご飯をおいしく食べる。ごくんと飲み込んだところで雅さんに予約をとっておく。
「あ、そうだ。雅さん、次ってバイトいつお休みでしたっけ?なんだかんだあった上に私が寝ちゃったから、あまりお話も出来ていなくてちょっと寂しいんです。だから、次の休みにまた会いたいんですけど、駄目ですか?」
「嬉しいよ。ありがとう。明日、休みだから早速どう?」
「はいっ」
私は早い約束を取り付ける事ができて、うきうきと自宅へ送ってもらった。
◇◆◇
「和維、今日のことは忘れてあげなさい。女の子にとっては知られて嬉しいことじゃないから」
「うん。わかってる」
「雅、頑張っているわね」
「うん」
「和維もそういう時がきたら大事にしてあげなさい」
「うん」
「雅に無茶言われた時は、今日のネタで反撃するといいわ」
「……………うん」




