続.藤沢雅4
奈央の瞼がぴくぴくと震えている。もうすぐ目を開けるんだろうか。
覗き込んでいた姿勢を倒し、温かい背中に寄り添う。
こうやっていると時間の過ぎる早さがイマイチよく分からない。うっかりするともう一度眠ってしまいそうになる。
眠らないように、急に起こさないように注意していると奈央の背中が強張った。
…起きたな。
…返事はしない、と。寝たふりを決め込む?
……ふぅ~ん…へぇ…そう。
そんなんで誤魔化して流してしまおうって?
「オレ、怒ってるんだよね」
奈央のお腹にあるオレの手は奈央の服の中に侵入する。小さな声は、驚きの声かな。
頭の中がぐるぐるしているのか、手の動きに対して抵抗がない。
…オレに触られ慣れすぎて恥ずかしがる素振りが出来なくなった?いや、まさかね。思考に神経集中し過ぎ。
それを好いことにブラに手を掛け先端を突く。
反応あり。
でもさぁ、やっぱり、オレこんな事じゃ納得しないよ。
奈央が自分で言った通り、確かに『類とも』だよね。
何で、奈央の悪い癖に惹かれたのかと思うかのような同じ癖のやつ引き寄せるかなぁ。
奈央に突っ掛かってくるやつ男女とも同じタイプばっかりじゃん。
オレが気付いているんだよ。奈央だって分かっているだろう?
何度となく暴走するやつに悩まされてきただろう?
あれを追い払うには、奈央じゃ甘すぎて。だから、以前は海斗の手だって借りていたんだろう?
オレじゃ駄目なの?
情けない事に、『奈央をめちゃめちゃにしてしまいたい』そんな黒い思いが湧いてくる。それを抑えようとする気持ちとは反対に、手は奈央の服を捲り上げていく。くそっ。
オレって何なんだよっ…!
「オレって、そんなに信用できない?」
こんだけ手が早いんだもんな。信用できるわけないって?
「不安にさせた?」
させてないとは言い切れないけどさ。こんなに愛しているのにまさか今更そんな風に疑われるなんて。
「束縛しすぎた?」
これでも加減しているつもりなんだけど。でも、やっぱり、もっと和維達と遊ぶ時間欲しかった?
くそっ、くそっ。
上手くいってると思うと、こうやってすれ違う。
くそっっ!
奥歯がギリと鳴った。
あんな顔になってもまだ相談しないなんて。
相談し難い雰囲気作っていたか?
いや、やっぱり、『海斗じゃない』から?
「相談するのにも値しない男だって言いたい?」
奈央の口が動く。
「違うの」
何が違うっていうんだ。結果がそう言ってるじゃないか。
こうやって奈央が倒れるまで何も出来なかった。何もさせてもらえなかった。何の力にもなれなかった。
和維達に言わせればきっと「自分達だって友達なのに何も出来なかった」っていうに違いない。
でも、友達と彼氏って違うだろ?
ねぇ、相談できないならせめて「癒し」の場くらいには出来なかった?
オレの前だけでも心身休めて、弱いところをもっと曝け出して欲しかったよ。
心配かけたくない気持ちは分かるけど、その心配だって特権の一つだろう?
「具合が悪いのすら言えない位頼りない?」
奈央の顔が泣きそうだけど、笑ってる?えっ?何で?
あ、伸びた手の先がオレに触れている。
何でそんな嬉しそうに見える顔してんだよ。
何だよ、もう。
訳解んない。
オレ、どうすればいいんだよ。
「えっ?……………寝た?」
また寝たの?
「何で笑いながら寝てんだよ」
体を起こすと捲れた布団の端にぽたりと水滴が落ちた。
「あ?ああ、オレ、泣いてんのか」
一人で良かった。恥ずかしすぎる。
布団から抜け出して椅子に座る。
「類ともねぇ。オレも暴走してんじゃん。あ~、皆、暴走癖あるじゃん。よくできた言葉だねぇ」
オレも落ち着こう。
起きたら…さすがにもう、今日は無理か。
あいつらもよ~く話してみれば意外と面白いかもな。
「年下の知人ばっかり増えていくなぁ」
あんなに荒れ狂っていた心はすっかり凪いでいた。
ベッドに腰をおろし奈央の寝顔を覗き込む。
「でも、それはそれ、これはこれで、話し合いはちゃんとすることは決定で。明日のシフトは…あ。
…うん、代わってもらおう。いつもオレが代わってあげてる方だから1回くらい快く代わってくれるだろう」
・・・
・・・
・・・
「もしもし…」
明日は、心の親交を深めようね、奈央。
「それにしても起きないな。夜、眠れなくなるぞ」
そっと頬を撫でる。
その手が取られ、頬ずりされる。
「何だこの生き物。可愛すぎ。帰したくないなぁ。駄目元で交渉してみるか」
オレは空いている方の手で緩む頬を押さえたあとニヤつく口許を覆った。
次回は奈央に戻ります。
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