続.藤沢雅3
オレにとって、本田の件はあっさり終わった。
結局、奈央自身がお子様メンタルの本田をざっくざっくと突き刺し切り刻んだからだ。
友人で保護者らしい大沢君も傷に天然塩をパラパラ撒いていた。
片桐さん、大沢君、本田は場の空気を読んで早々に帰ってくれた。
それより問題は奈央だ。
また、何でだか考えが暴走している。
今日のデートは何だったと思っているんだ?奈央の身体だけが目当てだとでも思っているのか?
奈央がオレの愛を疑ってしまうような出来事なんてあったか?無かったはずだ。
奈央はああ言ったが、実は奈央の気持ちがオレから離れて行っているとか?それでオレと別れたくてあんな訳の分からない事を言ったのか?
何にしても、本人に聞くしかない。
奈央が片付けをする姿を眺めながらオレは考えに耽った。
奈央が逃げないようにオレの前を歩かせる。階段を上る足がやや頼りない。奈央も疲れているのかもしれない。
部屋の前で足が止まる。立ち止まったまま動かない。
「奈央?」
声を掛けた時には、崩れ落ちていた。
支えが間に合わずに倒れてしまった。
「奈央っ!」
そっと抱きおこす。奈央は目を開けない。
「寝てる?」
特に苦しそうな感じも無く、運よくどこもぶつけて痛い思いをさせる事も無かった様だ。ほっとして息をつく。なんとか抱き上げ…部屋に運び入れる。奈央自身は細めだが、身長があるのでそれなりの重さがあった。ムキムキにならない程度に、少しだけ筋トレしようかな。
そんな事を考えたらクスリと笑みがもれでた。
ベッドの布団を整えなおす。思わず出た「よっこいしょ」という言葉に合わせて奈央をベッドに横たえる。
うん、やっぱり筋トレしよう。
せっかく着た制服だけどシワになったら後が大変なのでオレの服に着替えさせる。下心は有り有りだ。どうせ布団は掛けるからブレザーは脱がせていい。白いシャツの首も緩める。下は…あ~、まだ新しいの買ってなかった。一組洗濯してたなぁ。スカート履いている位だし、ハーフパンツでもいっか。スカートを脱がせて紺のハイソックスだけの姿に、なんだか悪い事をしている気分にさせられる。またいじりたい気持ちが…心身ともにムクムクと持ち上がってくる。
風邪をひかせるわけにはいかないのでハーフパンツを履かせる。
「奈央が起きるまで何しようかな」
眠る奈央の顔を眺めながら、「あ、そうだ」と香織さんにメールをしておく。
題名//うちで奈央を休ませてます
本文//お疲れ様です。雅です。
今、奈央が家に来ているのですが、貧血か何かだと思うのですが家で寝ているので起きたら帰します。
最近、よく眠れていなかったみたいなので無理に起こさないつもりです。
ちゃんとご自宅に送りますのでご心配いりません。
ついさっきまで片桐さん達も居たので、気になるようなら片桐さんにもご確認下さい。
返信は直ぐに届く。信用がある、という解釈でよいのだろう。「了解。よろしく」とだけあった。
…ああ、信頼が重い。でも、ゴム貰ったんだから解禁されてるって思っていいんだよな?
奈央の寝息が聞こえる。ああ、オレもちょっと考えよう。奈央の起きている顔を見たら、また感情的になってしまうかもしれない。
そんなことを考えながら奈央の隣に潜り込んだ。
となりに感じる体温の温かさに頭の中はぼやけ瞼が重くなってくる。
今だけじゃなくて、毎夜こうやって奈央を感じていたい…。
オレも気が緩んだのだろう。すっかり寝入ってしまった。
奈央はまだ起きていない。ぼんやりと寝顔を見ながら頬に触れる。んんっと声が出たがまだ起きる気配は無い。結構時間が経っていたようだ。
そっと抜け出して部屋の電気を点ける。和維と母さんも帰って来ている様なので奈央が来ていて眠っている事を告げに下りた。
「そう。奈央ちゃん、大丈夫?お夕飯、奈央ちゃんの分も用意しておくから」
「ミヤ兄、どうだったの?」
「うん、とりあえず本田の件は終わったよ。でも、なんか暴走中って感じだなぁ」
「…奈央ちゃんの思考って、時々ぶっ飛んでくもんね」
和維の顔がその様子を思い出して疲れた顔になった。
「和維、ありがとな」
「ミヤ兄…」
「あらあら、前にも増して仲良しになったのねぇ。この子とも仲良くしてね。ふふ。美形なお兄ちゃん達が可愛がってくれるわよ~」
母さんは嬉しそうにお腹を撫でながら台所へ戻っていった。
「おまえにも奈央みたいな可愛い彼女ができるといいな」
「え~、俺、まだ別にいらない。…奈央ちゃん、友達にはいいけど…彼女にはちょっと…あっ、別に悪いとか嫌いとか言ってんじゃないからっ」
「分かってるって」
あんまり否定されても微妙なのと、和維は本当にこれっぽっちも奈央をそういう目で見ていないんだなという安心感に苦笑いがでた。
「ほら、もう。奈央ちゃんまだ寝てるんだろ。起きた時ミヤ兄居ないとびっくりするよ。早く戻りなよ」
和維に急かされ部屋に戻ったオレは、また奈央の隣に潜り込んだ。
「起こしはしないけど、そろそろ起きてもいいんじゃないですかね、お姫様」
ぷにっとほっぺたを突いてみた。
終わらなかった。次回も雅です。




