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続5話.これでも繊細なんです

皆、実は何か用事でもあったのだろうか。最後は随分とバタバタになってしまった。

あの様子なら、きっともう本田君が付き纏ってくることはないだろう。雅さんの魔王の気にでも当てられてしまったのだろうか、帰り際はすっかり顔色が悪くなっていたような気がする。

それにしても、丸く収まってよかったと思う。

とはいっても、ああいう風にいってみて考えてしまった。雅さんはあの頃と変わらず私を好きでいてくれているんだろうか。

むしろ私は、あの頃よりもずっと強く雅さんのことを大好きだと思っている。思いに重さが存在するのなら、いまや私の方が重く、私の天秤の皿の方が下がっているのではないかと思う。


小さく息を吐き、よしっと気合を入れて後片付け、といってもコーヒーカップを洗うだけだが我が家のようにさくさくと進めていく。食器棚にしまい、雅さんの元へ戻る。

流しに二人並ぶとちょっと邪魔で動き難いので、待っていてもらうのが定番となっている。動線上に大きな図体があると、ね。


「雅さん、お待たせしました」

「じゃあ奈央、オレの部屋へ行こうか」

「はい」


あ、そうだった。後片付けに集中していたから頭の隅に追いやっていたけど、私、まだ、雅さんの部屋に入っていいのかな。そんなことを考えたら、二階まで上がっていったけどドアの前で足が止まる。

こわい。不安だ。迷う。足がすくんで前に出ない。

ドアノブに手を掛けることも出来ないでいる。

後ろに立つ雅さんが私の名前を呼んでいる声がうすぼんやり聴こえる。

そう、ぼんやり。

あ、と思ったら視界が白くなる。無理って感じる。私はそのまま目を閉じた。


◇◆◇


緊張と不安、そして一難去ったことによる安心感、月経が終わった後など諸々の理由からなのだと思うが貧血で倒れてしまったのは記憶にある。

見慣れてしまった天井。身体を起こさずにきょろきょろと目だけで辺りを見渡す。

雅さんの姿が見えない。伸びすぎた前髪が私の視界を狭めている。掛け布団から右手を出し、邪魔な髪をける。


「ん?」


私の左側に熱を感じる?物理的にも、そうでない意味でも。わざとらしく口に出す。


「ん~、眠い。もうちょっとだけ」


ごろんと右を向く。背中…じゃないな。後ろ頭に視線が刺さる。目を瞑って寝た振りを決め込む。

敷布団と枕と肩と首でできた細い隙間からぬっと腕が出てきた。

もう1本の腕が掛け布団の下でもそもそと動くとがしっとお腹を抱え込んできた。と同時に、長い足も私をしっかりと囲い込んだ。

雅さんの顔が私の首に触れている。というかもう身体全体がしっかり密着状態だ。服を着ているからいいようなものの、いや、よくない。恥ずかしさと緊張で心臓がものすごい音を刻んでいる。


「寝てるんだよね?ねぇ、奈央」

「…うっ」


奈央は眠っています。なのでお返事できません。


「オレ、怒ってるんだよね」


お腹に回されている手がそっと動く。その静かな動きに思わず「あっ」と声が出る。

ブレザーは脱がされているようで、厚いものを着ている感覚は無い。っていうか、何気に下もスカートじゃない。着替えさせてくれた?それもどうかと思うのだけどシワにならずに済む事を喜ぶべきか。膝下に生肌なまはだを感じるからハーフパンツなのかな。紐っぽいものがお腹に触っている。

そんな風に考え事にふけっていると、雅さんの手がブラのカップに掛かりグイと下げられ中に仕舞ってあるものをつついてきた。思わず身体はビクっとしてしまったが、声は出さずにすんだ。


……考え事に耽りすぎたと思う。

横を向いていたはずの姿勢は上向きにされ、シャツのボタンも全開で、キャミソールは鎖骨のあたりでくしゃくしゃになってる。

そっと目を開ければ、目の前には確かに怒りの色を瞳に載せた雅さんが居た。


「オレって、そんなに信用できない?」


雅さんの瞳が揺らめく。

違う。そうじゃないの。


「不安にさせた?」


雅さんの瞳が陰る。

だから、違うの。雅さんが悪いんじゃない。


「束縛しすぎた?」


雅さんが奥歯を噛みしめた。

そんなことない。雅さん、言うほど縛ってなんかこないじゃない。

どの言葉にも首を横に振るのが精一杯。


「相談するのにも値しない男だって言いたい?」


雅さんの瞳が水分で艶を増す。

頼りにしている、誰よりも…!


「違うの」


やっと声が出た。一緒に涙も出てくる。涙が出るともれなく鼻水も一緒に出てくるから泣きたくないのに。


「具合が悪いのすら言えない位頼りない?」


怒りの色は悲しみへと変化していってしまった気がする。

違うって言っているのに私の気持ちが伝わらない。言ってる?私、本当にちゃんと言っていたかな。

───言ってない。

心の中では何度も繰り返した。何を?

本当に大事なこと言ったかな。ううん、言ってない。

何を言わなくちゃいけないんだっけ。何を求められた?

ああ、落ち着かなきゃいけないのに、頭の中がぐるぐるする。


付きまとわれていたのは結構ストレスで。

本当は毎日雅さんに会いたくてたまらなくて。

雅さんに迷惑掛けるのも心配させるのも嫌で。

ものすごく大切にされているのがわかるからこそ、同じ様に大切を返したいの。

だから、言えなかった。

私だって、雅さんに笑っていて欲しい。そして、その笑顔を独り占めしたい。

ああ、雅さんに悲しい顔させているけど触れてもらえているんだ。

この温かさが嬉しい。


雅さん、大好き。ずっと傍にいて。


そう思いながら腕を伸ばして大好きな雅さんに触れた…と思う。

ストレスで眠りの浅い日々が続いていた私は、安心して引きずり込まれた。


雅さんの顔がいつもより幼く見えた気がした。


雅、いつでも生殺し。


いつもお読み下さりありがとうございます。

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