第7話 藤沢邸へ伺います
土曜日の朝です。シフォンケーキだけは朝焼いて冷まし、その間に身支度を済ませ、四人揃ってお出かけだ。
途中で玲奈達と合流し、学校まで迎えに来てくれた健人くんの案内で、迷うことなく藤沢邸に着く事ができた。
「実は大豪邸のお坊ちゃんだったらどうしようと思っていたから、普通のお家で安心したよ」
「私も。本当、良かった~」
私達がそんな事を話しているとドアが開いた。ドアからひょこっと和維くんが顔を出した。
私達に向けて「おはよう。中入って」と促すと、
「おはようございます。お待ちしてました」
と、うちの親に頭を下げた。お父さんが代表(?)して応える。
「おはようございます。娘がお世話になっています。
こちらこそ、お招きいただきありがとう。楽しみにしていたんだよ。よろしく」
奥からスリッパでパタパタと走る音と「まぁまぁまぁまぁ!」という声と共に、女優かっ?と思うような美女が現れた。
「ようこそ皆さんお越し下さいました。さぁ、お入り下さいませ」
テンションの高さに圧倒されつつも何とか持ち直し挨拶する。
「おはようございます。和維くんの友達の井上奈央です。今日はよろしくお願いします」
「おはようございます。片桐玲奈です。和維くんにはいつもお世話になっています」
そう言って頭を下げた。
お母さんが一歩前に出て、和維くんのお母さんに言った。
「恭子さんおはよう。今日は子供達共々、我々も楽しみましょう。私だけでなく、娘達も使ってやって下さいね」
「ふふ。じゃあ、お言葉に甘えてそうしますね」
そんなやり取りがあってリビングに案内された。再び挨拶合戦が始まり、どうなる事かと思ったが、勇者和維が女優恭子を落ち着かせる事でDVD鑑賞会が始まった。
区切りのよい所で玲奈と私は席を立ち、恭子さんの所へ行く。
「あの、コーヒーとケーキの用意をしたいので台所お借りしたいのですが、使い方を教えていただけますか?」
恭子さんにカップやお皿、フォークを出してもらい、玲奈にケーキの説明を頼んで運んでもらう。玲奈がお盆を持って戻ってきた。
「あと、これで終わりだから先に戻って大丈夫だよ」
「うん、わかった。行ってるね」
残った大人用ケーキを一皿に盛り付けて、自分用にコーヒーを注ぐ。2杯分位残ったけど、おかわり用に残しておこうと保温して、使い終わった豆を捨てて片付けていると
「母さん、コーヒー残っていたらオレにもちょうだい」
声の主と顔を見合わせ互いに動けなかったが、私の方が少し早く我に返った。
「おはようございます。おじゃましています。
えっと、カップ出して下されば、まだあるので淹れますよ?」
「お願いします」
そう言って食器棚から、彼用だと思われるマグカップを取り出してきた。受けとるとお湯を入れて温める。コーヒーカップで2杯分位残っていたコーヒーはマグカップのちょうど1杯分だった。
「どうぞ」
いつの間にか移動してカウンター側に座っていた彼の前に置いた。挨拶だけして皆の所に戻ろうと思っていたが、お盆の上の私のコーヒーと大人用ケーキをすいっととられカウンターに置かれてしまった。
隣りに座ってと促される。
私も座ってコーヒーを飲む。普段家で飲んでいる豆とは違うけど、これも美味しい。何だかんだで、休日にしては早起きして、初めてのお宅に伺って、大勢の中で緊張していたのだろう。それがほぐれて笑顔になった。
隣りから視線を感じるが、特に嫌な感じもしない。ちょっと眠くなってきたなぁなんて思っていると声がかかった。
「和維の……友達?」
「はい。同じクラスの井上奈央といいます。
お聞きしていると思いますが、今日は友達と家族と一緒にDVD鑑賞におじゃましています」
「オレは和維の兄で雅といいます。うちの親も見てるの?」
「はい。和維くんからきいてませんか?お兄さん達は参加できるかどうかわからないってきいてましたけど」
「残念ながらきいてないなぁ」
「良かったら、お兄さんもご一緒にどうですか?
今からだったら、話もまだついていけると思いますよ」
お兄さんが空になったカップをのせたお盆を持って立ち上がる。
「コーヒー淹れ直して向こうに行こう。今度はオレが淹れるよ。
それから、オレのことはお兄さんじゃなくて雅って呼んで?、ね」
そう言うと台所に行った。私も後をついていく。コーヒーが落ちるまでの間、他愛ない話をして待った。そして二人で皆の所へ戻った。




