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最近ツイていないと嘆く君へ

作者: みずまき

バイトの同僚に失言してしまった

自動販売機で小銭を落とした

自転車の鍵をなくした

信号に引っ掛り過ぎて

バイトに遅刻した


アパートの部屋に入るなり

リュックを背負ったまま

コタツの机に

突っ伏した

大した衝撃でもないのに

朝飲みかけの牛乳のカップが

床に落ちた


もうダメだ…


あまりのツイてなさに

暴れたいところだが

そんな気力も残っていない


「見て!キセキ!」


足元から小さな声がする

うつぶせたまま

顔をスライドさせて

声のする方に目をやる


カップと同じくらいの小人が

カップを抱えてこちらを見てる


「牛乳こぼれずに着地したよ!」


挿絵(By みてみん)


ほお

そりゃ良かった


少し残っていた牛乳は

そのままに

カップは床にキチンと置かれていた


片付けをする意欲もなかったから

良かった

と思う反面

今の落ち込みには焼け石に水

たいした喜びも

感動もなかった


ああ小人を見つけた

感動もだ


「キセキだね」

そう小人が俺に確かめる


「まあね」

俺は姿勢をそのままに

そう返事をした


ぐううぅ

お腹が鳴る


「お兄さんお腹減ってるの!?

じゃあじゃあインスタントラーメン

作ってよ!

今日は特別に2玉

それに玉子を乗っけようよ」


うまそ〜

そういえば

実家から美味しいラーメン

送ってくれてたんだ


頭を持ち上げたが

「あ 玉子切れてる…」

ヤッパリだ

トコトンついてない


重い頭をゴトっと落とし

またうつ伏せた


「じゃあさ じゃあさ

 買いに行こうよ

 玉子と一緒に今日は特別!

 カプリコ10個

 大人買いなんてどお!?」


おまえ俺の上がるもの

よく知ってるな


「でもカプリコ10個と玉子だと

1000円も使っちゃうじゃんよ」

一晩に1000円

今の俺にはイタイ出費だ


「1000円で幸せになろうよ!」


そう言う小人を俺のフードに隠し

夜のコンビニへ出かけていた

揺れるフードの中で

小人はキャッキャとはしゃいでいる


カプリコはヤッパリいちごだと

小人は言う

期間限定の抹茶も惹かれたが

10個全ていちごにした


家に戻り

俺はまたやってしまった

下駄箱に置いた

買い物袋を落としてしまった


せっかく買いに行ったのに

楽しくなってきたのに…!


どうせ潰れた玉子

俺は踏み潰そうとした


そこへ小人がピョンと飛び降り

「見て!キセキ!」

2つだけ無傷だった玉子に

大事そうに抱きついた


挿絵(By みてみん)


俺は力なく笑った


カプリコはコンビニの

お兄さんが

違う袋に分けてくれていたため

助かった


小人はその袋にも抱きつき

「キセキ〜」

と喜んでいた


キセキの玉子2つを取り

上手く袋の中で割れた

8つの玉子は

きれいに殻を取り

袋からボールに移した

明日玉子焼きにしてやると

決めた


待ちに待った晩ご飯

玉子を乗っけた

インスタントラーメン


俺と小人は

夢中で食べた


締めのカプリコ

小人は顔中チョコだらけになって

1個丸々食べてしまった


10個なんて軽い

と思っていたけれど

3つが限界だった


あと6つも残っている


食べた食べた

小人も俺も顔をほのかに

赤くして満足した


こぼれた1本のラーメンを見つけ

小人は

「あ!」

と言うと

そのラーメンの端と端を

つないで

ハートマークができた

「見て キセキ」

小人はその中でポーズを決めている


挿絵(By みてみん)


「それはちょっとズルだろ」

と俺が言うと


ポーズを決めたまま

むくれた顔で首を振った


少し落ち着いた俺は

小人の顔を見つめ

思い立った

「明日一緒にサイクリングに行こうか?

 バイトはないし学校は…

 休んでやる」


小人は眠くなった様子で

座り込んでいる

「行く!行こうイコウ…」

そう言ってコテッと寝てしまった


家で一番フワフワしたタオルをさがして

布団代わりに寝かせた

この時俺は小人の存在に、その小ささに

初めて驚いたが

それよりも明日が楽しみだった

どうか晴れますように


次の日、天気は曇りだ

まあいい

今のツイていない俺にはいい方だ


行き先は海

少し張り切らないといけない距離

でもきっと小人も喜ぶ

思いっきりペダルを踏み込み

自転車を飛ばした

初めは寝ぼけてた小人も目を覚まし

フードから顔を出してキョロキョロしている

「あっ犬だ!ワンワン!」

「信号赤ですよ~」

にぎやかになってきた


曇っていた空がだんだんと

青く眩しくなっていく


海の近くで生まれ育った俺は

その匂いにすぐ気が付いた

「海だ!」

そう小人が言うと

目の前の丘の先に海が広がっていた


そうそうこの風!この匂い!

懐かしい!

キラキラ光る海に向かって

昔のように大きな口を開け歌った


小人はその大きな歌声に驚いていたが

一緒に歌いだした

知らない歌でも

キャッキャッと適当に歌ってる


俺も音痴だけど小人も音痴だ


帰り道は

ゆっくりと進み

目に見える全ての景色を楽しんだ


すっかり日が落ちアパートに着いた

フードにいるはずの小人は寝てしまったのか

それとも…

さっきから静かだ


「今日の晩御飯は昨日の玉子を使ってお好み焼きだ

 カプリコもまだあるし

 …そういえば名前はあるの?なんて呼べばいい?

 帰らなきゃいけないところがある?

 どっから来たの?

 君は何なの?

 ずっと一緒にいられるの?」


そう問いかけると

「私は楽しいことを集めていたころの

 あなたの記憶です

 いつも一緒にいたんだけどな…」

そんな返事が聞こえた


玄関に入ると

隅に落ちている小さな虎の張子に気付く

あぁ小さい時から大事にしてる

虎の張子

ばあちゃんからもらった

張子


玄関に飾ってたのに

いつの間にか

見えなくなってた


「ゴメンな」


そう言って手に取り

息をふうぅっと吹きかけ

ホコリを吹き飛ばした


挿絵(By みてみん)


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