表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

受付嬢にもイロイロいる。

 「おはようございます」

 最低限の愛想と出来るだけ早く的確な事務作業が私のモットーである。お給料を頂いて働いているからには、どの仕事もプロであるべきだ。ギルドと冒険者の円滑な関係を結ぶのが私の仕事であると思っている。的確なサポートに早い仕事。

 反面、ギルドにはいつの時代も愛玩用の受付嬢というものが存在する。女性とは可愛らしいものであるべきだ、という男性陣の一定の希望を叶えるためである。彼女たちは私の思う仕事は基本的にはこなせない。しかしその愛玩性によって彼女たちの仕事は完結している。

 それはそれでひとつのプロの形ではある。

 ギルド受付嬢の仕事は多岐に渡る。

 ギルドの受注、許可、レベルの審査、市民からのクエスト依頼に、帰還報告と市民への報告、各ギルドからの情報の精査に上役への報告。

 まだまだ沢山あるけれど、一日に数回あって何より神経を使うのはお金の確認である。


 冒険者がギルドに支払う手数料や供託金、保険料。ギルドが帰還した冒険者に返却する保険料。まれに発生する死亡事故によるお見舞金や、怪我をして治療中の冒険者に支払う医療費補助。市民からの依頼料。

 買取専門窓口は別口だから受付嬢には関係ないが(正確には私も買取専門の知識と資格を身につければ関係ある)、

 受注窓口だけでもその金額は馬鹿にならない。

 基本は一日3回だけど、大口の依頼や医療費返還などでばたつく時はその都度チェックをおこたらないようにしている。

 お金は大事なのだ。


 だけど、3ヶ月に一度はこういうことが起こる。


 「先輩、ごめんなさい~」


 知るか。ってか先輩って3日も違わないのに責任押し付ける為に先輩呼ばわりするんじゃねぇよ。

ふわふわ金髪巻き毛とまんまるの赤い目玉で童顔に見えるけど、お前年そんなに変わらないだろうが。


 「謝罪はいいから、もう一度お金数えなおして。私は依頼書類チェックするから。」


 「こっちはやっぱり数え間違いないわよ。床に落ちてないの?」


 冷静な声で同僚のエリナが聞いてくる。まぁ、でも当の受付嬢ちゃんは、


 「エリナ先輩ごめんなさい~」


 「謝罪は良いから、手を動かしなさい」


 エリナ、グッジョブ。


 書類の字も子供みたいだぁ。頭悪そう。


 「あ!!この書類、クエストの手数料と領収書の手数料違ってるわよ!」


 向こう側で同じく書類をチェックしていた別の同僚から声が上がって、一気に場の空気が安堵に包まれる。


 「え~?!本当ですか~??ちゃんとチェックしたのに~」


 「ちゃんと出来てないから間違えてるんでしょ。さっさと修正して書類を訂正、主任に報告して、始末書は明日の朝までに出しなさいよ」


 「え~??明日ですか~???私、明日は休みなんです~。それにデートで朝忙しいし~。明後日じゃダメですか~??」


 「その旨主任に話して指示を仰ぎなさい」


 「え~??主任は~絶対ダメって言いますもん~。先輩~お口添えしてください~」


 「は?なんで?私は関係な、」


 「申し訳ない、帰還報告をしたいのだが」


 「いらっしゃいませ~!!!おかえりなさ~い!!ルシェさん~!!!!」


 って、おい!!!窓口終了してるの見えないのかよ!!!


 「申し訳ありません。当ギルドは通常営業を終了しております。帰還報告は明日9時以降の営業時間内にお願いいたします」


 「あ、いや、しかし先日彼女がいつでも来ていいと・・・」


 あぁん?


 「だって~、一日も早くお顔が見たかったんですもん~」


 は?お前、今日帰還報告窓口じゃねぇじゃん。今日の帰還窓口、私じゃん?何、関係ないのに私は今からサービス残業なわけ?書類作るの?閉めた金庫開けるの?なんの為に?お前の浮ついた軽い約束の為に?

 ってか、明日のデート相手こいつじゃないだろ?


 「申し訳ありません。今日の帰還報告窓口は私が担当しておりまして、そのような個人的な計らいは出来かねます。明日以降、お越しください」


 イライラを隠した超絶営業笑顔で言い切れば、空気を読んだのか気圧されたのか半歩後ろに下がった冒険者が頭を下げた。


 「申し訳ない、お手を煩わすつもりはなかったのです。深夜営業をしているギルドなのかと思い込んでおりました。明日以降、報告をさせていただきますね」


 爽やかな笑顔を残しながら冒険者が扉を閉めた瞬間、窓口内は殺伐とした空気になる。


 「ねぇ、何勝手に窓口の時間変えてるの?」


 「だって~あの人素敵じゃないですか~。だから~、いいかなって~」


 「うちのギルドは毎日受付が交代することはわかってるでしょ?明日、あんたが休みの夜、あの冒険者がきたら?理由もわからず彼はルールが守れないという判断を下される可能性もあるのよ?

 受付嬢が冒険者の人格判断を下げるようなことしていいわけ?」


 「そんなつもりじゃなくて~」


 ウルウルお目目が可愛い季節はとうに過ぎてますよ?


 「今回のことも主任には報告しておくから、自主的に始末書出しなさい。そうすれば少しはお目こぼしもらえるかもしれないから」


 ま、ほぼないけどね。

 まだうにゃうにゃ言ってるお嬢ちゃんを尻目に次々と席を立って行く同僚たち。



 「あ、エリナ、夕飯食べて行こうよ。」


 「いいねー、どこにする?」



 とりあえず今夜は女同士の愚痴の言い合いしましょう。

 仕事とは何か、男とは何か、冒険者とは何か、結局甘ったれた女が好きですか!?ってんだ、ちくしょうめ。

 

 隣に座った冒険者さん方が涙目だったのは気にしないことにする。


 受付嬢、なめんな。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ