序章 暗い夜道の闘い
誰もが魅いり、惹かれる
その者の真っ直さと心強さ
何者にも恐れず我が道を歩く少女
しなやかで優雅…
そして何より美しい
首からぶら下げているのは二つのリング
過去や未来をみれる力を持っていて、何よりその少女は人間ではなく妖
九本の尻尾を持つ狐の妖怪
銀色に輝く毛並みは鋭さを感じさせ、瑠璃色の瞳は冷たささえ感じさせる
普段は人間の姿だが、満月の時や月が紅い時は否応なしに妖に戻る
魔法使いの力も使え、躰の中には龍神が宿っている
だが、少女の存在を知るものはただ一部しか居ない…
騒がしい部屋の外で空を見上げている一人の少女
何を考えているのか誰にも分からない目をしている
黒い着物に身を包み少女の手は首からぶら下げているモノを握っている
「おい、鬼姫頭が呼んでるぞ。お前何かしたのかよ?」
突然襖が開き一瞬体が跳ねたが気取られないように鬼姫と呼ばれた少女は不機嫌な顔をして首を横に動かし顔だけを声がした方へと向けた
「別に、何もしてないけど。
それより酒臭いから近寄らないでくれる?」
少女はそう言うと広間に入っていった
見送っていた男は苦笑しながら酒を一杯飲んだ
広間に入った少女は無表情で男の前に静かに正座した
「用件は?」
少女が聞くと男は低い声で言った
「次の任務が終われば、お前は用済みだ。
お前は優秀すぎた。」
少女はこの言葉を聞いて息を飲んだ。
何時かはこうなることはわかっていた少女だが、実際言葉にされると重くのしかかってくる。
それでも無表情の少女に男は苦無を三本渡した
少女はその苦無を受け取り頭を下げ、
「わかりました。今までありがとうございました。頭」
と言って広間を出ていった
あれから数日たったある日、少女は任務に行った
(あれが今回の標敵…)
標敵を確認した少女は息を潜め、気配を消した
それにあれだけ騒いでいたら気づかないだろう
一人になるのを少女はジッと待った
殺し屋はバレてはいけない仕事だ
バレてしまえば殺される
命懸けの仕事なのだ
(……早く一人にならないかな
すごく酒臭いし、うるさい。)
少女は気を抜かず、かといって心の中ではイラついていた。
少女は酔っ払いは嫌いだが、酔っ払ってくれていたほうが好都合だと思っている
酔っ払いは千鳥足になるから。
(そろそろ一人になる頃か…)
屋根裏でずっと見ていた少女はそう予想した
少女の予想はハズレたことがない
だから少女は苦無を取り出した。
(よし…出た…)
標敵が出て一人になったのを確認して少女は標敵を気づかれないように追いかけた
一人になった標敵は何か辺りを気にしているようで、歩いては周りを見回して、また歩いては周りを見回していた
だが少女は気にすることなく、屋根の上から標敵の前にスルリと降り、標敵が前を向く前に苦無で首をはねた。
首だけを胴体から離して橋の前に首をぶら下げた
俗にいう晒し首だ。
少女は首をぶら下げ終え、殺し屋の本拠地には戻らず、自分の家に帰ろうと歩きだした。
(…?)
だが、途端に視線を感じて立ち止まった
それが合図だったかのように、苦無が無数に背後から飛んできた。
「!!」
咄嗟に避けたものの数本は腕や足にかすってしまった。
少女は危険だと判断し、その場から走り出した。
少女が走り出すと、苦無を投げた者も走り出し、少女目掛けて苦無を器用にどんどん投げる。
少女は逃げても意味がないと思ったのかいきなり体をさっき走ってきた方へと向け、立ち止まった
苦無を投げていた者は、少女が立ち止まってもどんどん投げてくる。
それを少女は器用に受け流しながら、どこともなく丸いモノを取り出して、地面に勢いよく投げた
すると煙が上がり視界は遮られ気配のみとなってしまった
だが、少女はその場から一歩も動かずそのまま姿を消した。
煙が晴れたのを確認した苦無を投げていた者は舌打ちをすると、来た道を戻っていった
程なくして、しばらく歩いた少女は目が霞むのか何度も目を擦った
だが霞みがなかなか治らないのか、少女は一旦立ち止まった。
(なんか…ダルい…
もしかして、さっきかすった苦無のせい?
それとも…力を使ったせい?
はたまた…両方かな…)
少女はそう考えているうちに知らず知らず歩き出していた。
でも、体力も底をつきたのかその場に座り込んでしまった。
重たくなる瞼を必死に開けようとしているのだがなかなか開かない。
少女は開くのを諦め、眠ってしまった
昼、子供達はいつものように壬生寺に来ていた
だが、寺の門前で座り込んでいる者を見て落ちていた木の棒でつつきだした
子供達は何度もつついたがなかなか起きようとはしない者に興味を失ったのかそのまま寺の中に入っていった
ただ一人を除いては…
「…おねえさん、その傷…大丈夫?」
子供のその声に反応した少女は、うっすらと目を開けた
目の前には声をかけたであろう小さな女の子がいた
女の子を黙って見つめていたがやがて少女は小さく頷いて少し笑った
「きみ…は…このへんの…子…?」
少女がかすれた声で女の子に問いかけた
そしたら女の子は頷いた
安心したのか、少女はまた目を閉じてしまった
「おねえさん?」
女の子は少女を呼んだが少女はすっかり、また、眠りにおちていた
場所は変わってある所では何やら楽しそうな笑い声が聞こえてきた
「何やってるの?総司」
「夜桜!今、土方さんのこれ見てたんだ。
すごく面白いよ。」
「それはそうと、今日は壬生寺に行くんじゃなかったの?」
「うん。行くよ」
夜桜と呼ばれた女性は、目の前にいる青年に問いかけた
その問に笑いながら答えた青年は立ち上がり、女性の手を取って草履を履き屯所から走って外に出た
「総司、別に走らなくてもいいでしょ?」
「だって早く遊びたくてウズウズするんだもん」
「子供…」
「なんか言った?」
「別に」
夜桜は聞こえない声でボソッと呟いた
何か言ったのかと思った青年は振り返り聞いたが夜桜は誤魔化した
壬生寺の近くに来たとき
「夜桜さん…」
女の子が夜桜に駆け寄ってきた
「どうしたの?今日は入らないの?サクラ」
夜桜は女の子に問いかけたが女の子は首を振ってさっき自分がいたところに目を向けた
すると、誰かが座り込んでいるのが目に入った夜桜は女の子の手を引いて近づいていった
さっきの女の子とは違う気配が近づいてきて少女は少し身じろいだ
勿論女の子の気配もある。
だが、あと二つの気配はないように感じるが、居るのはわかった
「このおねえさん…怪我してるみたいなの…
夜桜さん。おねえさんは…大丈夫…かな…?」
どうやら女の子は誰かに何かを言っているみたいだ
虚ろな目で少し顔を上げで見てみるがぼやけていて見えない
それどころか、話も耳を通り抜けていく
立ち上がろうとしても力が入らず立てない
なのに突然桜の香りが鼻を霞めた
(この香り…知ってる…)
少女は少し目を細めて微笑んだ
「よ…ざく…ら…」
声は掠れていてなんて言っているのかわからない
だが、女性らしき人は少女の頭を軽く撫でた
それが気持ちよくて、目を瞑った
それからは、何もなく…
かといって知らないうちに倒れ、気を失った