見上げてごらん、足元で顔を
「いいんだ……俺なんて、6年修行したのにゴブリンも倒せない、低レベルな精霊使いなんだ」
「もぉー、清継様がいじけちゃったじゃない」
真は昔から一言多い。しかも、悪気が無いから言われた側は、余計に傷つく。
俺は地面に突っ伏したまま、動けなかった。
「ほら、清継様も起きてください。陽莉様がお待ちですよ」
そうだった。まずはこの許婚の話をきっちりしなくてはならない。
覚悟を決め、起き上がろうと顔を上に上げる。
顔を上げると、すぐ近くに優衣さんの足首が見えた。
そして、優衣さんは太ももが露な巫女装束。思わず、さらに顔を上げてしまう。
「きゃっ……」
いや、別に覗こうとか思ったわけではなく、何も考えず自然と顔を上げてしまったわけで。
これほんと。いや、本当なんだって。
心の中で言い訳しまくったけど、優衣さんが馬車の中に逃げてしまった。
「清継……気持ちはわからなくもないけど、女の子の服を下から覗くのは、人としてどうかと思うよ」
また真の一言が刺さってしまった。
とりあえず、全員馬車に戻り、家を目指すことにした。
さっきは優衣さんが馬車へ逃げたが、馬車に戻るとまた隣に座る。
だけど、恥ずかしさが残っているのか、最初ほどくっついてはいない。
良い機会なので、東大陸の五行の相関について優衣さんに確認しておく。
「優衣さん、ちょっといいか?」
「きゃっ! そんな、許婚だからって会ってその日にですか。か、覚悟はしておりましたので……」
一体、何の話をしているのか。
「何の話だよ」
「清継様を誘惑するため、頑張っておりましたが、やはり経験不足と申しますか、いざとなると心の準備が……」
「いや、ごめん。マジで何の話だ?」
お願い。帰ってきて優衣さん。
「あ……清継様、申し訳ありません。私、清継様のことを考えておりましたら、あははは……」
まともだと思っていた優衣さん……もしかして、妄想世界に飛んでしまうタイプなのか?
「でさ、東大陸の五行について確認したいんだけど、西の精霊魔法だと、
地→風→水→火→地って順に相関関係があるんだ」
「はい」
これは、地は風に強く、火に弱いことを示す。
相関関係を考えると、地に属するゴブリンに風のサンダーボルトは効き難いのだが、従来の俺はゴブリンごときなら相関関係など無視して一撃で倒せていた。
「東大陸だと、この相関関係はどうなるんだっけ?」
「そうですね。木→土→水→火→金→木という相関になります」
「なるほど。なら、またゴブリンが出てきたら、木の魔法が使えると良いんだな」
といっても、西大陸の基本的な精霊魔法に、木の精霊はない。さて、どうしたものか。
「いいえ、違います。清継様はゴブリンと西の呼び方をされておりますが、こちらでは小鬼と呼んでおり、火に属します」
そんな……西大陸と属性まで異なるなんて。
「ということは、ゴブリン――いや、小鬼には水の魔法が良いんだな」
「その通りです」
「じゃあ、次は……」
次の質問をしようとしたところで、馬車が停止し、真が振り返る。
「また妖魔だよ。清継はどうする?」
そんなの決まっている。
「任せろ! 今度こそ倒してやるぜ!」
俺は颯爽と馬車から飛び降りた。