一番得意な電撃魔法
「東大陸のゴブリンは、電撃耐性でもあるのか?」
魔法発動のための魔力コントロールは完璧だった。6年も修行したんだ、今さらそんな基本を誤るわけがない。
「清継様、大丈夫ですか?」
そう言いながら、優衣さんが俺を抱きしめる。
「俺の電撃魔法が……」
やや無理矢理、俺の顔に何か柔らかい膨らみを押しつけてくる優衣さん。
だが、『一撃必殺の電撃魔法が下級の妖魔に効かない』という事実は、俺が茫然とするさせるには十分過ぎる出来ごとだった。
「ちょっと、清継! 清継ってば! 優衣さんも何してるんですか!」
やや不機嫌そうな真の声で、やっと我に返る。
……今になって、顔に押し付けられているのが、優衣さんの大きな胸だと気付いた。
「うわぁっ!」
いろいろビックリして、無様に叫んでしまう。
「ちょっと、真さん。清継様が驚いてしまったではないですか」
いや、真が驚かしたわけじゃなく、あなたの行動に今さらながら驚いたんですが。
「それより清継。何か調子悪いの? 電撃魔法が効いてなかったみたいだけど」
真の何気ない質問に、心がえぐられる。
「違いますわ。清継様は完璧でしたわ。ただ、西大陸の精霊が悪いのです」
「えっ?! どういうことだ?」
優衣さんから思わぬ言葉が出る。精霊が悪い?! 西大陸に居た頃には、想像すら出来ない発想だ。
「清継様は、西大陸の精霊魔法を行使されました」
「あぁ、風の精霊『ジン』の力、サンダーボルトだ」
これは、修行時代に俺が一番多用した、最も得意な魔法。
魔法発動のための呪文の詠唱時間が比較的短く、射程と威力もそれなりにある。乱戦では使えないが、1対1の戦闘では非常に使い勝手の良い魔法の1つだ。
「清継様。残念ながら、その精霊はこの東大陸には居りません」
「……それは、つまりどういうことだ?」
「魔法自体は発動いたしましたが、東大陸では精霊の力が微弱なため、本来の威力が出ないのではないかと」
まさか、西の地水火風の考え方と、東の木火土金水の考え方の差がこんな形で現れるとは思ってもみなかった。
ならば――俺は実験のため、長い呪文を唱え出す。
「フローズンプラネット!」
水の精霊『フラウ』の力を借りた、上位の氷結魔法の1つ。
俺が使える水の魔法の中では最も高位で、術者の辺り一面を氷の大地で覆いつくす。
が、氷が現れたのは、俺の周囲30センチ程度。しかも氷が薄く、踏んだらパキッと割れてしまった。
「……マジか」
西と東で共通している『水』の魔法を使用してみたが、どうやら基本的に何かが違うらしい。
「俺の修行の6年間って一体……」
「あぁっ、清継様。落ち込まないでください」
思わず地面に両手両膝をついてしまった俺に、優衣さんが覆いかぶさる。
後頭部に柔らかい膨らみを感じるが、どうでもよくなった。
「大丈夫です。魔法自体を失ったわけではありません。ただ、ちょっと効力が弱まっているだけです」
「まぁ、戦闘には使えないけどね」
ぐしゃっ
真の一言が止めとなり、俺は地面に突っ伏した。