エピソード06 漢字
俺は、皆口良太。
最近、結婚したんだ。
嫁の名前は吉乃。
そんな俺の可愛い嫁なんだが、ちょっと天然入ってるんだ。
聞いてくれ。
「ヤナギナマジュウヘイエイ?」
吉乃は漢字が苦手だ。
正確には人名が、ちょっと残念なんだ。
だいたい月1ペースほどの間隔で、俺達はお隣の九重十三さん、瞳さん夫婦と交流を深めている。
十三さんは、大学で歴史民俗学を研究していて様々な逸話なんかを俺に語ってくれる。
俺もそういう話が好きで十三さんと時間を忘れるくらい話し込むことがある。
そんなある日のこと。
「良太くんは、この人の事どれだけしってる?」
と、1冊の本を俺に見せてくれた。
その本は、江戸初期の隻眼で有名な剣豪の生涯をパロディ風にアレンジした最近のマンガだった。
「あんまり詳しくないですけど。昔、侍の格ゲーの持ちキャラでしたよ」
「ああ、あれね。僕も結構ハマってやってたよ」
「あれは好きでしたね」
と盛り上がってると、吉乃がビールを持ってきてくれた。
「ありがとう」
「吉乃君、いつもありがとう」
「ささ、十三さん。どうぞどうぞ」
トクトクトクと、小刻みいい音を響かせてビールを十三さんのコップへ注ぐ。
「ありがとう。おっと、手酌はダメだよ。僕が返杯しないとね」
「どうも、すいません」
と、その時だった。
「ヤナギナマジュウヘイエイ?」
と、吉乃が言い出したんだ。
俺はもちろん、十三さんもなにを言っているのかわからずに「?」マークで頭が支配されていたんだ。
吉乃本人も「?」ってなってるんだけど・・・・
「ん?どうしたの?って、アハハハハハハハハ」
助け船に来てくれたらしい瞳さんが笑い転げている。
え?なになに?どゆこと?
「吉乃。それ、ヤナギナマじゃないわよ」
ヤナギナマ?ヤナギナマァ??
ああ、そういうことね。
「アハハハハハハハハハハハハ」
意味がわかったらしい十三さんも笑い転げている。
「え?え?」
本人はまだわからないらしい。
そういえば、吉乃は
織田信長を「オリタシンチョウ」
豊臣秀吉を「ホウシンヒデキチ」
徳川家康を「トクカワイエコウ」
長曾我部元親を「ナガソカブモトオヤ」
伊達政宗を「イタチセイソウ」
と、読んだりしていたっけ。
瞳さん曰く、学生時代はちゃんと読めていた。
らしい。
あ、十三さんは、そのヤナギナマさんの子孫にあたるんだそうだ。
小さい頃は彼に憧れて剣道をやったりしていたらしい。
やっぱり、十三さんも男の子だったんだね。
てか、吉乃。
もうちょっと漢字読めるようになろうね。