春
今年も春が来た。
春は嫌いだ。
だって、桜の花が散ってしまうから。
出会いの季節、スタートの季節なんて人は言うけれど。
私から見れば、立派な『死』の季節に見える。
きっとそれは、私の価値観がおかしいから。
悲観主義、なんて巷では呼ばれてる。
でも、仕方ないじゃない。
だって、私はずっと病院にいるんだから。
白い病室、白い服、白い布団。
何もかも『白』の世界に慣れていた私は、他の色が嫌いだ。
だから、桜も嫌いだ。
嫌いな色を、年に一度は私の視界に放り投げるから。
だから、春も嫌いだ。
嫌いな色が、年に一度は世間にあふれるから。
あぁ、死にたい。
一体、何度そう思っただろう。
こんな場所にずっといるから、死にたくても死ねない。
勝手に、大人たちが私の命を永らえさせるから。
私が小さいからって、判断能力が無いからって。
私はきちんと、私だから。
自分の命くらい、好きにさせてくれませんか?
その時、ふと、気付いた。
きっと、桜もそうなんだろうな。
桜もきっと、春が、桜色が、嫌いなんだ。
だから、それを早く散らせて、自分から切り離したいんだ。
そう思った時から、私は3日間だけ、桜が、春が好きになった。
私が生きていた中で、さいこうの3日間だった。
「一文字物語」用に書き下ろした短編です。
ぎりぎり499文字。危ない危ない。
春も、桜も、きっと皆さん、好きでしょう。
でも、そういう人ばかりじゃないんだってこと、忘れないでください。
中にはこういう風に、春が嫌いな人もいるのです。
でも、そんな人も、いつかは好きになれるのです。
何かを嫌いなまま一生を終えるのは、とても辛いことです。
少しでも、ひとつでも多く――。
この作品が、多くの皆様に読まれますように……。