虹と翼と始まりの歌
――ふわふわとした心地よい光の中、何処かから歌が聞こえてくる。小さくはないけれど決して喧しい騒音ではない。……ただ漠然と、この声の主は僕を呼んでいる、そう感じた。君は誰、どうして僕を呼ぶの?声の方へと手を伸ばした途端、視界全てを光が満たした。
気が付くと太陽に近づきすぎたイカロスのように翼をなくし、重力という網と大空に抱かれていた。などと回りくどく言ってみたけど、ようは自由落下してるだけなんだよね。慌てることなくはためくマントを直し、瞬時に白い脚防具と紫翼を顕現させて体勢を立て直した。
「まぁこの高さなら落ちたって地面がへこむだけだったか」
『ツバサ、地面と着地点にいた生物にかわいそうっすから』
『それに私達だって使われてこそ、ですからね』
「ごめんごめんこの状態になって随分経ったから僕の体もだいぶ馴染んじゃって」
何気なく呟いた独り言に答えたのは脚防具と紫翼だった。ずっと共に歩んできた家族、彼女らは九十九種と呼ばれる「装備品にもなるドラゴン」だ。それぞれに特殊な能力を持つが長くなるのでここでは割愛ってことで。
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落ち着いたところで下に視線をやると、ドラゴンが雄叫びをあげ群れをなして大地を震わす広い谷。
……ん?何かおかしいような……いや、別にドラゴンがいることはおかしくないんだよ?僕達のところにもたくさんいたから慣れっこだし。だけどドラゴンは誇り高くて群れることなんて滅多にないはず。
というかそれ以前に
「困ったね、全く匂いに覚えがない。また異世界に来ちゃったかな」
『かもな、人間界から魔界天界ときて今度はどこに出たんだろうな』
風に翻るマントからからかう様な声が聞こえ、上空から見下ろす見知らぬ土地に苦笑する。
これが僕らの――ツバサ・クロスの戦神楽の始まりだった。