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Love tears*  作者: 茶色ゆづ
8/10

*7.陽だまり

「う…うん…」

 目の向こう側から差し込む光。

 眩しい……と腕で目を(おお)う。

 体を動かそうとするが、体のあちこちが悲鳴をあげて身じろぐのも億劫だ。だが、なぜだかほわほわしていて気持ちがよかった。

 きっとまだ頭は寝ているのだ。

 確か今日は土曜日で学校は休みだし、まだまだ寝ていても大丈夫だろう。

 私はそう思い、また眠りにつこうとした時、ふと違和感を感じた。

(なんか、妙に生温かい気がする)

 考えてみるが、まだ起動しきっていない頭ではその理由は何も浮かばない。

 とりあえず重たい瞼を開けることにした。

「んん……。──っ!!」

 驚きの光景に悲鳴を出しそうになったが、なんとか声を殺し止まる。

(えぇ、なんで!えぇ?!)

 混乱した頭を落ち着かせようと深呼吸する。

──私はコウさんの腕の中にいた。

 どうやらあのまま眠ってしまったようだ。

 コウさんは眠っている私を起こすのが忍びなくて、きっとそのままで眠ってしまったのだろう。すーすーっと寝息を立てながら眠っていた。

(は、恥ずかしい……)

 意地は張ってたけど、結局甘やかされてしまった。

 コウさんの腕の中をとても心地よい。

 このままコウさんが起きたら、きっとお互い気まずい雰囲気になるだろう。

 抱きしめているより、ふんわりと支えているという感じだったので、なんとか抜け出せそうだ。とりあえず私はそっとコウさんの腕から抜けだそうとする。

(起きないで……!)

 コウさんは相当深い眠りに落ちているのか体を少し動かしても起きることなく、あっさり抜け出すことができた。

「はぁ……」

 変な動機がする。

 女の子と抱きしめあうことはよくあるのだが、男の人に抱きしめられた記憶はなかった。

 普段だったら恥ずかしすぎて、パニックの状態に陥っていたと思うが、状況が状況だったからそういう恥ずかしさはなかった。

……昨日だけでいろんなことが合ったように思える。

 初めてあった人なのに、自分の奥底を見抜かれるとは思わなかった。

 いったん殻を見破られれば、凄く楽で、なんだかくすぐったい。

 ふと時計を見ると、午前11時。

”気持ちが落ち着くまで、此処にいてもいい”

 本当にそれに甘えていいのかと躊躇う気持ちがないわけではない。

 だけど、此処に居たいと思ってしまった。

 コウさんの近くにいるとなんか不思議な気分になる。それが嫌なものではないことは確かだけど。

(まぁ、いいか……)

 なんだか落ち着いてきたら、おなかもすいてきた。

 何か食べるものはないかとこっそり冷蔵庫の中を覗いた。冷蔵庫の中にはおつまみと呼ばれるものがたくさんがあった。チーズやジャーキー。おつまみはたくさんあるのに、肝心のお酒はないようだ。

(お酒切らしてるのかな?)

 泊まらせてくれたお礼にと何かを買ってこようかと思っていたのだが、未成年だからお酒は買ってくることはできない。

(確か近くにスーパーがあったし、朝ごはんと昼ごはんを兼ねて何か作ろっか!)

 洗面所を借り着替えて、私はスーパーへと出かけた。



+*+*+



「お前何してんの?」

 13時過ぎ──。

 寝起きのコウさんは怠そうに大きくあくびをして、私の後ろに立った。

「料理」

 スーパーから帰ってきた私はコウさんの台所を借りて料理を始めた。コウさんはフライパンの中をひょこっと覗き込んできた。

「いいにおいだな。何作ってんの?」

「オムライス」

 オムライスは私の大好物だ。

 スーパーに行く途中に唐突に食べたくなって……。

「へぇー。いい匂いだな」

「なんか食べれない野菜とかあった?勝手に作っちゃったけど……」

 もう野菜を炒めてご飯を混ぜてケチャップを入れるところまで来ているから、今さらだが。

「俺は何でも食べれるぞ!!キノコ以外は」

「へぇー、キノコ駄目なんだ」

「あの、なんだ。ぬるっとぐちょっとする感じがだな!」

 キノコが本当に嫌いだと必死にアピールする声に笑いがこみあげてくる。

(……ちょっとわかるかも)

 噛んだ瞬間にぬるっとする感じは私もちょっと苦手だ。

「はいはい、これテーブルに運んでくださーい」

 そういって先に作っておいた二人分のサラダをコウさんに手渡した。

「サラダもあるのか、お昼ご飯から豪華なめしだ」

 オムライスと、レタスにツナをのせたサラダだけだ。

 そんな大げさに豪華というほどではないのだが、コウさんは目をキラキラさせながらサラダをテーブルに運んで行った。

「いつもコウさんどんなご飯食べてるの……」

「もっぱらコンビニ」

 なんとなく返ってくる言葉は分かっていて、やっぱりと小さな溜息が出た。

「体に悪いよ」

「そんなんわかってるけど、めんどくさくてつい、な」

 コウさんは気まずそうに、頭を掻いた。

「食事は大事なんだから、めんどうとかの問題じゃない……っと、よしオムライス完成!」

 そうこう言っていると2人分のオムライスは完成した。

(うん……よしっ)

 オムライスを見て大きく頷いた。

 我ながらいい出来だ。

 オムライスをテーブルに運んで、私とコウさんはテーブルに向かい合って座る。

 私は自分のオムライスの上にケチャップで星柄を書いていると、コウさんは面白そうにそれをみていた。

「凝ったことするのな」

「これオムライス時の特権でしょ」

 小さいころから食べる前にケチャップで絵を描くのが楽しみだったりする。

 私がケチャップで星を書き終えるとコウさんは待ってましたとばかりに、勢いよく手を合わせて言った。

「いただきます!」

「え…あ、召し上がれ?」

 コウさんが口にオムライスを運んで行くのが目に入る。

(……味、大丈夫かなぁ)

 料理に自信がある方だが、好みに合うか合わないかは別だ。私はさりげなくコウさんの食べている姿をみていると、コウさんの目が少しだが大きく開いた。

 なんだなんだと冷や冷やしていると、コウさんは急に優しく笑った。

「美味いな……。俺は料理なんかしないから、手料理食うの久々だ」

「彼女とかに作ってもらえば」 

 褒められて嬉しいくせにそれを言葉にできず、ついそんな風を言ってしまった。

 だけどコウさんは「そんなもんいない」と、私の言葉を気にする様子もなく、黙々とオムライスを食べ続けていた。

(彼女いたら、私なんか家に泊めるわけないか)

「そういえばコウさんの冷蔵庫さっき覗いたけど、お酒切れてたみたいだよ?」

 料理を作ろうと冷蔵庫を見たときにおつまみはあったけどお酒がなかったことを伝えると、コウさんは視線を下に向けて苦々しそうに笑った。

「あぁ、俺お酒大嫌い。絶対飲まないというか、飲んだことない」

「飲んだことないとか嘘でしょ!」

 咄嗟にそう言ったけど、コウさんはきっぱり否定した。

「本当にない。体に悪いだろうが」

(コンビニ飯だって体に悪いって!)

 そう思いながらもコウさんの苦々しい表情を見ていると、どうやら本当に酒を飲んだことなさそうだった。何か理由がありそうだが、深くは追求しようとは思わなかった。

「……なんか意外かも」 

「なんだよそれ」

「だって、コウさん。お仕事から帰ってきたらビール片手におつまみ食べているイメージあるし」

「まるでおっさんじゃないか!」

「だって、おっさ……コウさんっていくつなの?」

 思わず言ってしまいそうになったが、なんとかおっさんという言葉を飲み込んだ。

「あ?27だよ」

「えっ」

 思ったよりやっぱり若かったらしい。ついつい驚いた反応をしてしまった。

「なんだよその反応」

「なんでもありません」

 咄嗟にそう言ってなんでもないと装うって見せるが、やっぱりさっきの私の驚きの声が聞こえたらしい。コウさんは不服そうに口を尖らせた。

「どうせ老けてみえてるんだろ」

「無精髭があるからでしょ、剃ればそれなりにみえるんじゃないの」

 私は開き直って事実を告げると、どうやらコウさんも開き直っているらしい。

「めんどくせーもん」

 そう言いながらコウさんはどんどんとオムライスを口に運んでいった。

 ちょっとむくながらも、美味しそうにパクパク食べる姿はちょっと可愛いかなと思ってしまう。

「それにしても本当にこれ美味いな。今度このつくり方教えろよ」

「うん、いいよ。気に入ってくれたんだ?」

「あぁ。確かに最近コンビニ弁当ばっかで体に悪いしな。自分でも作れないとな……というか、あれだな。いっそお前がこれから料理担当だな、うん」

「ちょっと。何勝手に決めて……」

 と、言いながらも満更でもなかったり。

 大好きな料理を作るのも食べてもらえるのも素直に嬉しい。

「はーい、リョウが料理担当決定ー」

「もう……はいはい、わかりました!」

 我が儘すぎな気もするけど、コウさんの笑顔見てるとホッとする。

(───やっぱりちょっと似てるのかも)

 胸にずきんとするものを感じながらも、私はこの食事を楽しんでいた。

「リョウ、よろしくな」

「……うんっ」

──ここから、私達の生活は始まったのだった。






お久しぶりです。柏木なゆです。

もう前の更新から4ヶ月過ぎてたんですね。。

来年の初めにまた書く時間ができそうなので、またちょこちょこ更新できるといいなと思います。

まったりではありますが、よろしくお願いします。

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