表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

受験生応援三部作『白い朝に、たしかに届くもの』

作者: 明石竜
掲載日:2026/02/20

 二月二十五日の朝。

 吐く息は白く、空は高く、街はまだ目を覚ましきっていなかった。


 私は大学二年生。今日は講義がなく、用事で実家の近くまで来ていた。駅から大学へ続く道を歩いていると、自然と足取りが遅くなる。

 校門の前に集まる受験生たちを見て、胸の奥がきゅっと縮んだ。


 黒いコート、硬い表情、鞄に詰め込まれた一年分の時間。

 ――二年前の、私。


 前日の夜、母が作ってくれたいつもより少し豪華な夕飯。

 「早く寝なさい」と言いながら、何度も部屋をのぞいてきたこと。

 父は多くを語らず、玄関で私の靴を揃えていた。


 大丈夫、なんて誰も言わなかった。

 それでも私は、守られていると感じていた。


 校門の前で、ひとり立ち止まっている受験生がいた。

 周囲が次々と中へ入っていく中、その子だけが動けずにいる。


 私は気づけば、声をかけていた。


「今日、入試ですよね」


 驚いたように顔を上げたその子は、うなずいた。


「私も、二年前ここで受けました。

 朝、怖くて……足が動かなかったです」


 正直な言葉に、受験生の表情が少し緩む。


「担任の先生に、こう言われたんです。

 『答案用紙は、失敗を書く場所じゃない。君が積み上げた時間を書く場所だ』って」


 あの言葉が、どれほど私を救ったか。


「全部できなくていい。一問ずつ、今までやってきたことを、置いてくればいいんです」


 風が吹き、白い息が流れる。


「家族も、先生も、きっと今、あなたのこと考えてます。

 教室で、家で、心の中で……応援してます」


 受験生の目に、涙がにじんだ。


「……怖いです」


「怖くていいです。

 怖いまま、行けるところまで行けばいい」


 それは、二年前の自分に向けた言葉でもあった。


「いってらっしゃい」


 受験生は深く息を吸い、校門をくぐっていった。

 その背中は小さく、それでも確かに前を向いていた。


 ――そして、三月。


 合格発表の日。

 大学の掲示板の前に、人だかりができている。


 番号を探す指が震える。

 一度、目を閉じてから、もう一度、上から順に追った。


 ――あった。


 その瞬間、胸の奥で何かがほどけた。

 涙があふれ、視界が滲む。


 思い出すのは、あの朝の冷たい空気。

 先生の言葉。

 黙って背中を押してくれた家族。

 名前も知らない大学生の「いってらっしゃい」。


 私はスマートフォンを取り出し、母に電話をかける。


「……受かった」


 受話器の向こうで、息をのむ音。

 そして、泣き声。


 その涙に、私も声を押さえきれなくなる。


 白い朝に重なった応援は、確かに届いていた。

 見えなくても、消えなくて、必要なときに必ず思い出せる。


 今日、掲示板の前で泣いている誰かも、

 いつかまた、白い朝に立つ誰かを、そっと送り出すのだろう。


 そうやって、応援は受け継がれていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ