第38話 エピローグ
こちらが起きたのに気づいたのか、送られる挨拶。
それは良い…良いんだけど、なんか多くない?
この家にはルシェとセフィと俺の3人しかいないはずなのに。
…それにこの声、ものすごく聞き覚えが…ある。
ギギギッと油の刺されていないブリキの様に首だけ、声が聞こえた方へと顔を向けると、
「よっ!」
「うわッッッ!?」
そこには褐色の露出した肌、腰の辺りまで伸ばした赤髪の彼女。
そう…ステラがいた。
一瞬で目が覚めた俺は、飛び起きると壁に張り付き距離を取る。
「おいおい、そんなビビられちゃうと俺も悲しいぜ」
彼女…ステラは、そう言いながら涙を手で拭う様な仕草をしていた。
実際は、一滴も垂らしてないけど。
いやっそれより、
「…なんでここにいるのさ」
こっちの方が重要だ。
あの時、間違いなく斬ったはず。
俺はともかく、セフィとルシェまでそれを見逃すはずはないだろう。
「そうだ、俺はあの時間違いなく死んだ。
完敗だよ」
「そして俺にトドメを刺したあの鎌、アレは…俺達魔女を斬るとその魂を神様の元へと送る、ものらしいな。
だから俺はそこで創造神様と出会い…取引したって訳だ」
「お前達の旅に同行し、手助けするっていう条件でな」
「…なるほど」
そうしてホッと胸を撫で下ろす。
確かに彼女の首には鉄製のゴツい首輪が巻き付いていた。
それは悪事を働いて付けられたらしいルシェの物と見た目は全く一緒だ。
…祟りじゃなくて良かった。
「誰が悪霊だっ!」
「心読まれてるッ!?」
セフィやルシェだけでなく、ステラまで。
異世界にはプライバシーっていう概念はないんですか!
…ないんだろうなあ。
それはともかく、とりあえず着替えることに。
旅支度を済ませて一夜を過ごしたログハウスを出る。
「ステラ…さんは」
「別に呼び捨てでいいぜ」
「ステラは…この家から何か持ってく物ある?」
そう聞くと、彼女は顎に手を当てて何かを考えている。
実際にはないけども顎髭を弄る様に指を動かす。
そして、
「う〜ん…ねぇな」
「ないのッ?」
返答は意外な物だった。
だって彼女は数百年生きている、だったら1つぐらいはあるのかと思っていたけど。
「俺は…戦士だ。
一番大事なのは健康的な肉体、二番目に立ち向かう勇気と自信、三番目は勝利するためのプロセスを考える頭脳だ。
だから、他に何もいらねえさ」
まあ、長い間住んだからこの家に思い入れはあるけどよ…彼女は最後にそう付け加えた。
「そっか」
きっと彼女はそうやって今まで生きてきたんだろう。
とはいえ少し寂しいのかもしれない、彼女はそのログハウスの壁面へ指を滑らす。
その姿は名残惜しそうにも見えるけど、それにはあえて触れない。
「お前らが供えてくれたのか?」
「そうだけど…」
「そっか、ありがとな」
ログハウスの庭の辺りには、ステラの母の墓がある。
そして俺たちの供えた果物2つが彼女の目に入った。
「1個は俺んのか?」
「そう…だけど、なんかごめん」
「いや、全然いいさ。じゃあ貰うぜ」
そうして彼女は林檎の様な果実を両手に持ち、思いっきり齧る。
シャリっと瑞々しい音が辺りには鳴り響く。
「美味えな……ほれっ」
「…いいの?これって」
味を確かめた彼女は、もう1つ…彼女の母に供えた果物を切り分けると俺たちに差し出してくるのだ。
「いいさ。きっと母もこのまま腐らせてしまうより、食べてくれる方が喜ぶだろうし…さ」
そこまで言われるなら…と、俺達3人は顔を合わせると受け取ったそれを口へ運ぶ。
外は寒く、乾いた風が頰を撫で…体が芯まで冷やされていく。
…でもそれぐらいの寒さだからか、天然の冷蔵庫の様に冷やされより美味しく感じる。
「じゃあ、行ってくるぜ」
ステラは最後に墓石をポンポンとし、少し離れた場所にいた俺たちの元へと寄ってくる。
「それで…次はどこ行くんだ?」
「どうしようか…ズィッペリンの反対とか?」
「では、こっちですね」
次なる行き先は決まっていない。
だって旅の目的である魔女の居場所なんて、ステラ以外の情報はないのだし。
まあ、行き当たりばったりで探すしかないかな。
そうして方向感覚が狂ってしまいそうなほどに深い森でも、セフィの感覚は正確らしい。
「あっちは、港湾都市ダイコウだな」
「おお、魚か…じゅるり」
「ははっ、俺も二十年ぶりぐらいか?」
「…食いしん坊が2人に増えたッ!?」
持つかなぁ…路銀。
決闘都市ズィッペリンにいた時、ちょっと大盤振る舞いしすぎたかもしれない。
でもしょうがないよね、持ちきれないぐらいだったし。
「…行きますよ、3人とも」
『は〜い』
魔女を倒す旅、その一回目は思ってもみない形で着地した。
まあ、でもこっちの方が良いかな。
血みどろの旅より、楽しく明るい方が…ね?
「これからよろしくな…相棒」
新たな仲間…ステラに腕を首に回されながら、俺たちは次なる目的地、港湾都市ダイコウへと向かう。
これにて1章…憤怒の魔女ステラ編完結です!
続きはまた、ストックが溜まり次第投稿させていただきます。
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