第35話 決着
「ぐっっ…」
薙ぎ払う様にして放たれた剣は、彼女へ受け止められる。
だが先ほどより、力で押せている感触があった。
引き出したセフィの力は、パワー偏重型なんだろうか?
ルシェの時は権能と魔力が強化されたけども、セフィの武器が強化される事はない。
だからその分パワーアップに回されているとしか思えないぐらいの力を感じていた。
剣戟を繰り返すも、一回一回ステラの剣は大きく弾かれる。
そのため彼女にカウンターをするターンが回ってくる事はない。
「おいおい、強くなりすぎッッ!…だぜ」
その最中に剣へ魔力を込め、能力を発動させる。
剣先を伸ばして彼女へと攻撃をするが、初見のはずなのに頬を浅く切り裂くだけ。
…残念ながら、かわされてしまったみたいだ。
そうして彼女はいつも通り距離を取るためバックステップをするが、もうそれは許さない。
「!?!?」
鋭く伸びた刃が、まだ滞空中の彼女の足を容赦なく切り裂く。
そしてその刃は大きく旋回し、もう片方の足を狙うがそれは剣で弾かれた。
彼女の想定を超えたのだろうスピードで傷は与えられたが、次は冷静に対処される結果に。
でもそれで終わり、とはならない。
地面へ彼女が足をついた後も追撃する。
まるで粗暴な大蛇の様にクネクネと、剣は森の木々を切り裂きながら彼女を追っていく。
本来のスピードなら振り切って逃走できるぐらいだろう。
だけども彼女の足の怪我は致命的、背中から鮮血が舞い…堪らず彼女は反転しそれを剣で受け止める。
ただ、その変則的で…重い一発一発の攻撃は彼女を確実に追い詰めていくのだ。
彼女の踏ん張る足が、ザザッと音を立てながら少しずつ土の上を滑る。
そんな精神をすり減らす様な戦いが続き…彼女も肩を上下に動かし呼吸をする様にまでなっていた。
そうした状況を数百メートル先から俺は見ていたのだ。
強化された視覚で見ていると、
「何か言ってる…のか?」
彼女の口が動いているのが分かる。
聴覚も強化されてはいるものの、風の音や木々の擦れる音、剣戟の高く響く音まで聞こえてしまうため、入り混じってしまい逆に分からない。
そうして彼女は剣を持っていない方の手を下へと向けると、急に魔力が集まっていく。
「何をする気……ッ!?」
その瞬間彼女と目が合った。
吊り上げられた口角、それを認識した瞬間…
バンッッッ!!!
何かが爆発した様な音が響く。
その瞬間、彼女の体が急速に接近してくる。
彼女の今日最高速度だ。
剣は…戻していると間に合わない。
そのまま鞭の様に扱い彼女を迎え撃つ。
だが彼女は地面をスライディングする様に剣の下を潜り抜けていき、地面を蹴り…跳ねる。
そうして放たれ突きはこちらの喉元へと迫り…
ガキンッッッ
まだ残っている剣で外へと弾く。
無防備となり曝け出された体…そこへ鋭い膝蹴りが彼女の腹部へと突き刺さるのだった。
「がはッッッ!!!」
そうして彼女は吹き飛んでいき、地面を転がっていく。
最後にドシンッと木の幹へと背中をぶつけ、そこで止まった。
「…行こうか」
「はい」
「うん」
伸ばした剣を戻しながら、動かない彼女の元へと歩いていく。
ゆっくりと…彼女の罠を警戒しながら。
だが何事もなく、彼女の前へと辿り着く。
その足音を聞いてか、ぴくりと腕が動くが…魔力で作られたのだろう剣は霧散した様だ。
何かを握った様になったままの腕はダランと地面へ放り出されている。
「はは……おれを、笑いにきた…のか?」
「そんな訳ない」
弱々しい笑いを浮かべる彼女の言葉には即座にNoを返す。
そんな彼女の体は、もう戦える様な状態ではなかった。
こちらが傷をつけた足は無理やり爆破系の魔法を使って接近したせいで焼け爛れ…使い物にならないだろう。
腹にクリティカルヒットした膝蹴りのダメージもまだ体に残っているはずだ。
じゃあ2つとも治せばいいのでは?自己治癒能力あるんでしょ?と言いたいところだけど、あれも一応魔法の一種だ。
セフィの分析では自分にしか使えない代わりに、かなり魔力の消費量を抑えた魔法らしい。
しかも魔力も微量回復するため、本来は半永久的に使えるはずのもの。
だけども今の彼女の体は完全に魔力を使い切り、空っぽだ。
だから治癒できず、この剣で傷つけた訳じゃない傷も治せなかった。
彼女は魔力の自然治癒を待つしかないのだけど、そこまでこの出血量では持ちそうにもない。
何よりもそれを俺が…2人が見逃すはずがないのだけど。
「さいごの、わざ…は?」
「…あれは、見せてもらったのを真似してみた」
「そうか…いい、いちげき…だったぞ」
あの膝蹴りは、天魔融合状態のこちらを吹き飛ばしたもの。
彼女はわざと隙を作り誘い込むという高度な技だったけども、その部分を剣を強く弾き作り出した隙だった。
それが決め手となり、彼女の捨て身の攻撃を捌き…こうした状況まで持ち込んだのだ。
「…ダンさん、トドメを」
お世話になった剣は光の粒子と消え…新たな光が現れる。
それは顕現するだけで天魔融合に匹敵する…いや超えるレベルの光の柱が昇り立つ。
その眩しさに目を腕で隠し、数秒経ったところで腕を下ろす。
片手に握られていたのは、
「…大鎌?」
言葉の通りの武器。
ハテナの様な形をしており、上の歪曲した部分に大きな刃が…真っ直ぐとなっている部分を今は持っている。
「これは創造神様が作ったもので、魔女の魂を狩るための武器です」
だから、あれだけの光があったのか。
確かに手に持っているだけでも、その存在感をひしひしと手に感じられる。
俺は手に持ったそれを、静かに振り被る。
「わるくねえ…人生だったなぁ…」
その言葉を聞いて手が止まった。
じんわりと手汗が浮き上がってきて止まらないのだ。
それに…腕も、足もガクガクと震えがおさまらない。
「ダン、さん?」
なんで殺さなくちゃいけない、そんな悪いことをしてるのか?
そう頭の中に誰かが問いかけてくるのだ。
セフィでも、ルシェでもない、どこかで聞いたことのある様な声が聞こえる。
それはよく聞くと…俺の声だ。
そして心の奥底では……同じ気持ちだった。
「はっ…ころすのを、ちゅうちょ…してるのかぁ?」
「……っっ」
「そうか、オレは…そんないいやつじゃねえぞ?
人間もいっぱい殺してきたんだ」
そうしてふらふらと彼女は立ち上がる。
まだ魔力も回復せず、血も止まっていない。
だから動けないはず…でもその考えと彼女の今の状態は正反対だった。
そして彼女は拳を握り、それを突き出す。
ぽすんっっ……
その弱々しい拳は鎌から離した片手に収められた。
それは天魔融合状態でなくても受け止められただろう拳だ。
「…何を?」
「…ははっ、俺はまだ…おまえの命をあきらめて…ねぇぞ?」
……そっか。
「ありがとう…じゃないか」
今彼女にかけるべき言葉はこれじゃないはずだ。
「また…やろう、魔女ステラ」
「ああ……俺は、つかれたから…少しねむるな?
起きたら…」
そうして俺は初めて魔女を…
人間を殺した。




