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天使と悪魔の言う通りに…ね?〜力を貰えず異世界へ…だから2人とも、俺に力を貸してくれないと死んじゃうんだけどッッ!?〜  作者: お汁粉パンチ
憤怒の魔女ステラ編

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第34話 正義とは?

「アァ…相変わらず凄いパワーだな、おい」


 彼女はその力を確かめるように、手を何度も開いて閉じてを繰り返す。

 新たに羽織られた、夜闇の様に真っ黒なマントが風を受けて靡く。

 そして何よりも、一目見ただけで分かるのは跳ね上がった魔力量。

 加えて、


「…角?」


 おでこのあたりから前髪を割り飛び出ているのは、1本の捻れた角だ。

 間違いなく、さっきまでの彼女は人間だったはず。

 

「ははっ、立派なもんだろ?」


 彼女はこちらの言葉を聞くと、それを確かめるように指を滑らす。

 まるで今の彼女の状態は、


「魔族、みたいですね」


 カラゴ市で戦った奴と似ていた。

 急に跳ね上がる魔力と角が生える変身も。

 ただあの時とは違い、彼女はあくまで人間だったはず。


 そして彼女は折れた剣を手放すと、いつのまにか新しい剣を握っている。

 あれはまるで俺が竜王祭で使った火の剣みたい…


「来ない…のか?ならこっちから行くぞ」


 そんなことを考えてる暇は与えてくれない。

 彼女の足は地面を滑り、そこには力と…魔力が込められている。

 ビュンッと風を切る速度で接近し、


ガキンッッ!


「ほぉ、よく受け止めたじゃねぇか」


 何とか鍔迫り合いまで持ち込めた。

 力の差は…かなり拮抗している。

 ガチャガチャと、耳障りな金属音を剣が擦れ合い…奏でる。


 本来ならもう力で押し切れているはず。

 だって天魔融合は人智を超えた力なのだから。

 そして今も発動しているはずの能力、


「魔月吸命が全然効いてない?」


 ルシェの言う通り、全然吸い取れていない。

 正確にはほんの少量だけは吸い取れているが、その理由は…分からない。

 でもさっきまで効いてたはずッ、


「おいおい、戦闘中に思考を逸らすなよ」


 鍔迫り合い中の彼女の顔とは、吐息が触れ合う様な距離。

 …確かにそうだ。

 もうこちらから圧倒的なアドバンテージは無くなった、なんなら彼女の方が有利まであるかもしれない。

 そんな相手に、答えがすぐ出ない問題に時間を割くのは悪手だろう。



 だから今は、彼女の動きに喰らいつくだけ。

 彼女が上に下にと揺さぶってくるのを必死に受け続ける。

 全神経を目の前の彼女へ向け、次の行動を予測するのだ。


「ははっ、そうだよ…そうこなくっちゃ!

こういう死合は一度きりしか無いんだからよッッ!!」


 そうして最後に振られた彼女の一撃。

 防御はしたはず、なのにズザザザと後方へと体が滑っていく。

 

 彼女の体につけたはずの傷は、今や元からなかった様に消えている。

 あれは変身の時に再生した?

 自己再生だったら…面倒なんてもんじゃないけど

 

『魔王様の死後、その力を啜り…本能のままに生きる売女』


 あの時出会った悪魔、四魔将の1人は魔女の事をそう呼んでいた。

 ならこの邪悪な力の気配、その正体は…


「魔王の、力?」


「…正解だ、よく分かったなぁ」


 こんな正解しても嬉しくないクイズは初めてだ。

 でもだったら、魔月吸命が効きにくいのは何故だ?

 もしかしたら、悪魔の関係者には効きにくかったりするのだろうか?

 人間にしか使っていなかったため、よく分からない。

 …残念ながら迷宮入りだ。


「まあ、全力を出すのは久しぶりなんだ。

…だから、簡単に潰れてくれるなよ?ダン」



 そうして再び始まる剣戟。

 こちらのスピードがまだ上回っているものの、技術はあちらの方が圧倒的に上。

 広いフィールドを舞台に戦いを繰り広げるも、俺の体に傷が増えていくばかりだ。

 その戦いの衝撃は周りの木々の葉や枝を落としていく。


 でも彼女も無傷で済んではいない。

 前よりこちらの攻撃が入る隙があった。

 俺は戦いは初心者なはず、なのに攻撃が通るのは何故か…。

 

 彼女は全力を出すのは初めてと言った、そう…あちらも力に振り回されているのだ。

 だからか先ほどよりも大振りな攻撃が多く感じる。

 初心者の俺が何を言ってるんだって感じだけど、実際彼女の体にもキズが刻まれていっていた。


 互いの鮮血が飛び散る中、剣を合わせる。

 …でもこのまま続くと、明らかにこちらの方が喰らった攻撃が多い。

 幸いな事に深手を負っていないから戦えているんだけど、それも時間の問題だろう。

 

「ダンさん、回復薬です」


「ありがとう、セフィ」


 そうして空から振りかけられる緑色の液体。

 匂い立つ青臭い香りに包まれ、全身の痛みが徐々に消えていく。

 …こうやって回復されると、結構痛みを感じていた。

 竜王祭なんかを経て、痛みが麻痺する様な体になったのか?

 戦いには…こっちの方がいいと思うけど。


 そうして彼女と再び相対すると、プシューッと彼女全身から煙が立ち昇っていた。

 あれは何だ?…いや、傷が治っていく!?


「はは、これで…第三ラウンドといこうじゃねえか」


 …これは消耗戦になる感じか。


 


 そうしてダラダラと、だが一瞬たりとも油断を許さない。

 でも一瞬だけ見えた彼女の隙、これは打開するチャンス…。

 

 そう思って一歩を踏み出し…


「…残念だよ」


 そんな言葉と共に、腹部へ強い衝撃を与えられ後ろへと思い切り吹き飛んでいく。

 

「がはっっ!!」


「ダンッッ!」


 勢いよく木の幹に打ちつけられ、肺から空気が飛び出す。

 全身が痛い…どこかっ、骨折していてるんじゃないか。

 体内へ再び取り込もうと呼吸をするも、カヒュー…カヒューとか細いものしか行えず。

 これでは酸素の量が戦闘に復帰するには、到底足りやしない。


「とりあえず、早く飲んでッッ!!」


「うぐっ…」


 朦朧とした意識の中、口へ突っ込まれた試験管の感触。

 そのどろりとして…クソ不味い液で正気を取り戻した。


ガキンッッ


「おっと、お早い復帰じゃねえか」


 素早い動きで接近してきて剣を振り下ろした彼女。

 何とかそれに反応し、地面に跪いたような格好でその剣を受ける。

 その彼女の一撃は重く、芯まで響くほどの衝撃があった。

 回復したはずの体が悲鳴をあげているのが、痛みという信号を通して伝わってくる。


 …どうして、ここまで差がつく?

 やっぱり技術か。

 彼女の積み重ねてきた鍛錬には遠く及ばない…こっちなんてまだ一ヶ月経ったかぐらいだし。


「ははっ。

お前の竜王祭を見てると手札が多かったが…どうやら相性はこっちの方が良いみたいだな?」


 

「純粋なパワーでのごり押し、それが苦手なんだろ?」


 確かにそれは脅威ではある。

 だって、竜王祭ではほぼ全員俺よりも強者だったはずだ。

 だけでもその時は、圧倒的な力のごり押しで買ってきた。

 でも今はそのアドバンテージが無くなるほどに彼女の技術が高く……ん?


 彼女との相性は…どうなんだろう?

 維持している天魔融合、そこから今はルシェの悪魔側の力が強く発現している状態だ。

 着ているローブは黒と白の中間というよりは、黒がかった灰色という感じ。

 多分これは今の俺の体のパワーバランスを表しているんだろう。


 それは置いておいて、大事なのは今扱っているのは悪魔の力という事。

 彼女は魔王の力を借りて戦っている、だからカテゴライズするなら悪魔側だろう。

 だったら、今の状態は相性は良くはないはずだ。

 良くて等倍、最悪あちらの方が良いまであるかもしれない。




 …じゃあさ、今回借りるのをルシェから変えてみようか。

 彼女には悪いけどさ。


「おっと……なんだ?」


 鍔迫り合いの最中に力を急に込め、薙ぎ払う。

 だが彼女には届かない。

 とはいえ、警戒しているのか大きくバックステップで距離を取る。


「セフィ、武器変えてくれる?カラゴで使った奴に」


「分かり…ました、けど死なないでくださいね?」


 心の中でもちろん、と返すと握っていた剣が光の粒子となり空気中へと消えていく。

 そして入れ替わるように出てきた光が物質を構成し始める。

 この持ち手の感触に…全く感じられないほどの重さ、久しぶりだ。

 先ほどまで守ってくれていた剣…聖剣ガイエンには感謝を告げてここでサヨナラだ。


 一応この剣の能力はずっと発動はしていた…地味だけど。

 その能力とは、受けるダメージを半減し…致命傷となりうる攻撃を受けても生存できる…ゲーム的に言うならHPが1残るみたいな能力だ。

 ちなみに他に能力はないため、攻撃力はちょっと切れ味の良い剣という感じ。

 そんな防御に偏った獲物を持って戦っていた。


 相手がどれだけ強いのか分からない、という事でセフィはこれを持たせるのを選択したらしい。

 でも実際そのおかげで木に体を打ちつけても生きていたんだと思う。

 あの倍の衝撃を喰らっていたと考えたらと思うと…恐ろしくて夜も眠れない。

 

 でもここは勝負の時、耐え続けてもジリ貧で…勝機はないだろう。

 だからここからは攻めに転じる。



 とはいえ、ただ剣を変えただけで勝てるほどは甘くはないんだけど…


「正義……正義か」


 そうして正面から彼女と剣を交わす。

 剣が変わっただけ、でも先ほどよりは軽く取り回しもしやすい。

 だから先ほどまでよりは攻撃を捌けている。


 正義って…何だろう?

 悪は不思議と言葉に出来た、演じることも。

 でも正義を言語化するのも、それを成す自分のイメージも今は出来ない。

 これができれば、変わるんだろうけど…


「はっ、正義だぁ?お前、そんなつまんないこと考えてたのか?」


 その呟きは彼女にも届いてたみたいだ。

 だけども彼女には、そんな風にバカにした様な口調で喋ってくるので、


「…じゃあ、魔女ステラにとってのは正義って?」


 問いかけを投げてみることに。

 答えてくれるかは知らないけどさ。

 そうして拮抗した状況、彼女は剣を振りながら口を開く。


「知るかよッッ、そんな事考えたこともねえ!」


「ええ…」


 彼女の答えを聞いてつい、そんな言葉が漏れてしまう。

 ものすごいきっぱりと彼女は高らかに知らない事を告げるのだから。

 でもそれで終わりではなかった。


「けどよ」


「ん?」


「今までの歴史が証明してるのは……1つの答えだ。

勝者が正義、それだけが全て…それ以外には存在しないだろ?」


 と低い声で告げて終わる。

 勝者が正義か……それを否定できる様な言葉を俺は持ち合わせていなかった。


 …そっか。

 

 それで分かったことが一つある。

 悪事の際にはつらつらと言葉が出てきたけども、もしかしたらそれは言語化…というより長いだけの言い訳だったのかもしれない。

 だって今まで悪事をやろうと思ってやる事はなかった。

 だからそれを正当化するために長く、自分を納得させられる言葉が出てきたのだ。


 それと正反対の正義…これは自分にとって当たり前だから言語化が難しかったんだろう。

 でもそれで良い、それが自分がまだ堕ちていない証明をしてくれるから。


 そうして次の一合に向けて、剣を構える。

 勝者が正義のこの世界なら……長い言葉はいらない。


「勝利を」


 その瞬間、魔力が跳ね上がった。

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