第31話 表彰式
「それでは表彰式を行う」
ここは第一闘技場内の一室。
闘技場と同じで歴史を感じる作りだけども、置いてある調度品や絵…壁の金色に光る装飾が他とは違う高級感を演出していた。
ただ大量に並んだ護衛の兵士たちであまり見えないけども。
足をつけている真下のレッドカーペット、その先の階段を登った所には玉座が設置されている。
その光景だけで、ここが特別な場所というのが伝わってきていた。
そして俺たち竜王祭のTop3は目線を下に向け、跪く。
もちろんこのポーズをする相手は…玉座の横に立つ位の高い人に向けてだ。
「面を上げよ」
その言葉で顔を上げると、2人の顔がよく見えた。
玉座に座らず、左右に分かれて立つ男女…その髪は赤、いや国名であるルビー色とも言えるかもしれない。
そう2人の正体は、
「私がルビー王国継承順位2位、ハイデル・フォン・ルビーである」
「継承順位3位、ラフラン・フォン・ルビーです」
王族だ。
そう、この竜王祭の主催はルビー王家なのだ。
だから勝ち抜いた戦士達は、こんな至近距離で王族と会える栄誉が与えられる。
俺は……全く知らん。
でも王子様はイケメンで、王女様は美しい…だから、ありがとう?
「ここにもいるじゃん!美しい2人がさ!」
…そうですね。
…ちょっと、2人とも蹴らないで!
変な反応したら、護衛の人たちに斬られちゃうからッッ!!
それに、2人のことは美人だと思ってるから!お世辞じゃなく。
ずっと近くにいたから、あんまり実感がないだけで。
「…そこまで言われると照れますね」
…なんか引き出されたみたいだけど。
ともかく、それで彼女達のイタズラが終わったのは良かった。
「それでは、ハイデル様とラフラン様より御言葉を頂戴したく…」
「ああ、では3位のリヒトから…素晴らしい盾捌きで敵を圧倒していたな。
そして準優勝のライラ、女性とは思えぬ凄まじい剣技だったぞ」
「優勝のダンさん、すごい魔法のレパートリーでしたわ。
その若さでその強さ、相当の鍛錬を積んできたのでしょう!」
「…おい、俺の言葉を遮るなよ」
「油断する方が悪いんだよ〜だ」
「なにをッ!?」
…玉座の前で、王族の喧嘩が始まった。
なんか、アレだな。
あんまり王族も喧嘩の内容は、平民と同じでしょうもないんだな。
というか、御言葉のお礼言ってないけどいいのか?
カラゴだと言ってたけど、2人が言わないから空気を読んで言わなかったんだけども…。
「……闘技者、礼を言いなさい」
「「は、はい。 ありがたき幸せッッ!!」」
「…感謝」
空気を読んだ結果、3人仲良く怒られました。
タイミングもバラバラで、美しくない返し。
でも一応はこれでマナー的に大丈夫だった様で、
「ゴホンッ、それでは賞品の授与を」
口元を引っ張り合って喧嘩するという、どこかで見た様な光景の王族を置いて司会はその場を進めていく。
パンパンと手を叩くと、左右の扉が開きワゴンの車輪の音が部屋に響く。
そしてそれは俺達が跪いていたレッドカーペットの左右に停められた。
「3位のライゼン殿には、ルビー王国金貨500枚と宝剣を含む宝3点」
「ありがたき幸せッ!!」
「準優勝のライラ殿には、ルビー王国金貨800枚と宝剣含む宝5点」
「…感謝」
そうしておまちかねの報酬。
3位のライゼンは先程より嬉しそうに、ライラは…あまり嬉しそうではない。
う〜ん、なんでだろう?
何にせよ、そんな質素な答え方だと王族から不興を買って斬られないか心配にはなる。
「そして優勝のダン殿にはルビー王国金貨1000枚、と宝剣含む宝物10点。
副賞として…万能回復薬を1つ授ける」
「ありがたき幸せッッ!」
といっても、俺もあんまり変わらない気持ちなんだけどさ。
だって賭けの勝ちでもう勝ち額がとんでもないことになっている。
多分貴族の家が何軒か建ってしまうレベルだ。
やろうと思えば大きめの村…城壁付きが作れるかもしれない。
それに加えて宝物10点…嵩張ってしょうがない、売りにくいし…。
勝ってからずっと使い道に困り、考えていた。
「立ち上がるのを許可するゆえ、闘技者達は自分の目で確認されたし」
「「ありがとうございます」」
確かに言われてみれば、入ってきたワゴンは3台だ。
そうして立ち上がり、ダンと名前のプレートが置かれた場所へ向かう。
綺麗に積み上げられた金貨、流石に数えるのは億劫だ。
遠くから数える声が聞こえるのは…3位のライゼンかな。
そして宝石の散りばめられた宝剣やネックレスもある。
宝剣はまだしも、ネックレスや腕輪なんて着けないんだけど…。
馬鹿でかい宝石が付いてるけど知らないうちに、草むらとかへ落としそうで不安だし。
最後にお盆の上に置かれたのが、万能薬か。
少し凝ったガラス細工に入れられたそれは紫色をしている。
…あまり飲みたくない色だけど、効果は凄いんだろうなぁ。
正直セフィがこれより上の性能を自作できるらしいし、あんまり必要無いんだけど…
なんかめちゃくちゃ見られてる。
右の方から薬へ手を伸ばした手へものすごく。
左側に王族や司会の人が、だから右手には護衛と…ライラしかいない。
チラッと見ると、確かに彼女が元だった。
試しに薬を手に取り、ぶら〜ん…ぶら〜ん…と左右に揺らしてみる。
中の薬が左右へ揺れると同時に、彼女のローブに隠れた頭が動く。
…まるで猫じゃらしで遊んでいる気分だ。
「……なんのつもりだ」
どうやら怒らせてしまったらしい。
今は薬ではなく、はっきりとこちらの顔へと視線が向けられている。
「ごめん、この薬…欲しかった?」
正直に謝罪するものの、それだけの興味を惹く理由も知りたかった。
彼女は…至って健康に見えるし。
冒険の保険だったりするのかな?
彼女の表情は今も目深に被ったローブで隠れて見えない。
でも少し逡巡する様に動く頭の向きは分かる。
そして、
「……ああ、それが欲しかった」
「…理由を聞いても?」
どうやら彼女はこれが目当てだったらしい。
そんなにこの世界ではレアなんだろうか?
「……父親が普通の薬では治らない病気に罹ってしまったんだ。
それを治せるのは万能薬しかないと言われたが、買うには貴族の屋敷が建つレベルの金がいる。
だから優勝し、手に入れるしかなかったんだ…」
「そっか…」
手に握っていた瓶、それをお盆に置く。
こうなったら…やる事は一つだ、
その場に跪く、体の向きは…玉座へ向かって。
「ハイデル様、ラフラン様、一つだけお願いしてもよろしいでしょうか?」
「不敬だぞッ!冒険者だn」
「よい、話せ」
止めようとする司会の爺さん、それを遮り話を聞こうとしてもらえた。
…もうこの時点で、いつ首を斬られても文句言えないシチュエーションだ。
「こちらの副賞として頂いた万能薬、彼女…ライラへ渡して頂くことは可能でしょうか?」
「えっ…」
持ちかけるのは、褒賞を譲渡するという話。
そう…不敬だ、だって俺にはいらないと正面から言っている様なものだから。
「ほう、貴様はルビー王家が選んだ褒賞を要らないと申すか」
…やっぱり、不興を買ってしまったぁ…。
とはいえ、俺は別に喧嘩を売りにいきたいわけじゃない。
「いえ、私は自分自身にだけ使える治癒魔法がありますので」
嘘ではない、セフィは俺以外には使いたがらないし。
使ったのは魔族戦で助けた2人組だけだ。
…魔法でもないけど、細かいところはいいか。
「そこまでして…お前らは今日初めて会ったのだろう?」
「はい、そうです」
初めてってことでいいか。
見たのはこちらの一方的なものだしさ。
「じゃあ、何故そこまでッ!?」
「私よりも、この薬を待っている方がいらっしゃる様ですから。
…きっと、この万能薬を作った方も…死蔵されるより、人の命を救うために使われる方がお喜びになるでしょう」
そうして俺は、芝居がかった仕草で言葉を紡ぐ。
だから…もう後は、祈るしかない。
出来れば無事に、帰らせて欲しいけど。
「ライラよ」
「はっ」
「冒険者ダンの勇気に免じて、私はルールを侵す。
父上からも怒られるだろうが…ダンからライラへの万能薬譲渡を認めよう」
「よろしいのですか!?」
「ああ、ダンの演説に心を打たれた。
それにこれは、ハイデル・フォン・ルビー…この名においての命令である。
この場にいる者も、それ以外の者も邪魔してはならない、良いなっ!」
『はっ!』
「…もしもの時は、私が口添えしてあげますわ」
「っ…ありがたきっ、幸せッッ!!」
後ろのライラは噛み締める様に、感謝の言葉を述べる。
ふぅ……どうやらこれで上手くいったみたいだ。
「今のは創造神様の名に恥じない、素晴らしい行動でしたね!」
「善行だね。 悪魔にとってはアレだけど…」
誰も首が飛ぶ結果にならなくて良かったよ、本当に…。
いや、王子の首が…流石にそこまではしないか。
王様には寛大な心で許してあげて欲しいところだ。
「…ありがとうっ、ダンっ…」
彼女から放たれた嗚咽混じりの言葉。
…こっちもリスクあったけど、やって良かったよ。
それで……金貨はどうしようか?
「いやあ、今年の竜王祭もレベル高かったなあ…」
都市内は新たなチャンピオンの誕生に浮かれ、飲めや歌えやのお祭り騒ぎ。
そんな喧騒の中では、彼女の溢した言葉は風に消えていく。
少しでも熱気のある場所へ…と酔っ払い達が闘技場へ向かうのとすれ違い様にして彼女は歩を進めている。
幾つもあり人間が引き寄せられていく出店も、彼女のお目には叶わない。
だが、ある匂いを鼻に感じて足を止める。
そしてクンクンと再度確かめる様にして鼻を動かすと、クルリと体の向きを変えた。
そんな彼女が向かう先…それは、
「いらっしゃい」
「…ねぎま2つ、塩で」
「あいよっ!」
焼き鳥屋だった。
そうして注文を受けた中年の男は、慣れた手つきで切られたネギと鶏肉を交互に串に刺していき、炭火で焼き上げていく。
「…あれ、代金は?看板に書いてないみたいだが」
ねぎまを買いに来た女性は代金を払うため財布を取り出したが、代金はどこにも書いていない。
いや看板にはメニューはあるのだが、代金の部分が貼られた布で隠されているのだ。
「あれ、お客さん知らなかったのか?
今回優勝したダン様が、この一夜だけは全額払ってくれるそうだよ」
「へえ…それは、太っ腹だ」
「だろう?三百年間で初めてだってさ、こんな事」
そんな大将の話に、彼女は頷きを返す。
確かにこんな事…三百年間で初めてだ、と言っている様に…深く。
見た目は20台後半だけれども。
「う〜ん…せっかくだし、もう2本追加してもらっていいか?」
「ああ、いいぜ!どんどん買ってくれ!」
たちまち上がってくるのは、鶏とネギの焼けた香ばしい香り。
その匂いに当てられてか、真面目な表情で焼き加減を見守る店主とは裏腹に、彼女は口の端からヨダレを垂らしてしまっていた。
それがポタリと落ちたぐらいに、
「いい匂いだッ!おっちゃん、タレのねぎま2つくれッ!!」
「あっ、ずるいぞッ!俺もねぎまタレ3本くれッ!!」
香りが伝播し、周りの客を巻き込んでいく。
「あいあい、ちょいと待ってくれよ。
はいっ、ねぎま塩4本だ!」
「ありがとう」
そうして彼女はねぎまを両手に2本ずつ持ち、歩きながらその内の一本に齧り付く。
まだ熱々のそれが噛み砕かれると、肉汁とネギの水分が弾け…彼女の口内へと旨みが広がっていくのだ。
塩だけだからか、しっかりとネギの甘みまで繊細に感じられる。
「…うんっ、あのおじさん腕が良いな」
彼女は満足げに呟くと、すぐに一本を食べ終えてしまう。
「これが…今日は無料か、竜王祭優勝者ダンのおかげで」
「じゃあ挑んできたら、ちょっとは手加減してやろうか。
このねぎまに免じて…な?」
そうして彼女は、世闇に消えていく…。




