第30話 決着
そして間も無く…吹き荒れる風は消えた。
それと同時に聞こえた遠くで土を踏み締める音、
「火の剣」
壁から彼女がいきなり飛び出してくる。
突き出された剣先、だが今回はこちらに…炎で型取られた剣が握られていた。
ガキンッッ!
お互いの剣は激しくぶつかり、金属音が鳴り響く。
燃え盛る炎の温度は、肌に触れても不思議と感じられない。
それにこの重さをあまり感じられないのは…身体強化のお陰?
「両方じゃよ」
「ありがとう」
先ほどからやられてばかり…今度はこちらの番だ。
「火の弾」
撃ち出した炎の弾丸、それと共に体を飛び出させ彼女へ斬りかかる。
そうして…初めて彼女へ防御を選択させた。
ギリィギリィギリィ!
鍔迫り合いとなり、耳に入ってくるのは金属の擦れ合う不愉快な音。
牽制がてらに撃った魔法は、もう華麗にかわされてしまっている。
力は…こちらの方が上か。
お互いに身体能力を向上させる魔法をかけているから条件は同じ。
だけども、
「儂が極めた魔法じゃ、そこらのひよっこには負けんよ」
この本は全て大魔法使いが使う時と同じ魔法をいつでも出せる、というもの。
いつどんな時でも、最高水準を叩き出してくれる。
だから魔法の点では負ける気はしない。
…ただ、
「おっと…」
剣技では完全に遅れをとっていた。
鍔迫り合いから解放されたと思った瞬間、返す刀が的確にこちらの首を斬り落とそうと放たれる。
何とか防御は出来てるんだけども……ジリ貧だ。
先ほどはこのジリジリとした展開を嫌がって、大技を切ったんだけど…あまり良い展開にはならなかった。
だから今のまま続けるしかなく、何度も剣を打ち合わせるだけ。
そしてその風圧でか、ファサリと一瞬だけ…それも相手している俺だけ顔が露わになった。
炎の剣で照らされた顔…まるで日に焼けていない白い肌に、エメラルドグリーンの瞳がこちらの一挙手一投足を捉えていた。
ドレスで着飾られたら貴族の令嬢と見間違える程だろうに…この剣技。
あんまり年齢は離れていないと思うけど、どれだけの鍛錬を積んだらこんな高みまで来れるのか…。
力を借りて戦っている俺と、1人で渡り合い…優勢盤面を続ける鍛え上げられた力、ものすごい強さだ。
だからこそ気になる、
「なんで、そこまでして優勝を目指してるんです?」
その理由を。
お金?それとも名誉?または、別の何かか…。
とはいえ彼女は寡黙だし、答えてもらえないだろうなあ…
「…それを言えば、お前は負けてくれるのか?」
つい驚いて、眉を上げてしまう。
少しだけ高い…可愛らしい声だ。
この剣技の黒ローブ姿からはギャップが凄いけど、覗いた顔からは違和感ない。
…いや、まずは答えるべきだろう。
こちらから質問したんだしさ。
といっても、
「いやっ?負けるつもりはないですけど」
「…そうか、じゃあ…」
目的は優勝者のみの特権、魔女ステラとの戦い。
準優勝では意味がないのだ。
それを言葉に込めたからか、彼女はもう交渉なんてすることもない。
ただ呟きを溢し、更に鋭さを増した一撃を…放つだけだ。
「なら、ここで負けてもらう」
「…やってみなよ、ライラさん」
負けは俺にとって、爺さんにとって許されないのだ。
……背中に悪魔と天使の怖い視線が突き刺さってるし…。
剣戟を交わし…その最中に目線を本へ向けた瞬間襲ってくるのは彼女の刃。
彼女は流石にもう気づいている、この本がないと俺が魔法を撃てないことを。
だからこうして…発生前にしっかりと潰してくるのだ。
「…対魔法使いの戦い方、熟知されてるみたいで」
「それは、ど〜も」
嫌味は受け流され、鋭い刃と共に襲いかかってくる。
う〜ん……困った。
「手助けしてやろうか?」
「…お願いします」
まるでAIアシスタントみたいな、質問にだけ答えて貰おうかと思っていたけど…ちょっと負けそうだ。
もし万が一にも負けたら後が怖すぎる……。
だから恥を忍んで、おんぶに抱っこで助けてもらうことにした。
「じゃあ、儂の言う通りにせい」
「はい」
そうして俺は指示に従い、火の本を開く。
すると、すかさず彼女は距離を詰め妨害しようとするのだ。
そこで俺は……本を捨てた。
「〜〜ッッ!?」
驚愕している彼女の顔は、しっかりと見えている。
俺は右手を前に出し、
「火の嵐」
そう唱えた。
体勢を崩した彼女は、もうその場で防御するしかない。
だから体が焼け…
「……えっ?」
る訳もない。
……俺『魔法礼賛』なかったら魔法使えないしね。
今までの試合で一切使ってこなかったブラフ……いや、予選でザックを狩った時は使ったけど、それぐらいだけ。
それはこの場面で、あまりに効果的に刺さったのだ。
「しまっ…!?」
もう炎の剣は手放され、今は水の本が手に握られておりページも、もう開かれている。
今度は…ブラフでは済まない。
「奥義…海神の息吹」
向けた手のひら、そこから放たれたのは魔法書の中に数個しかない奥義。
そのうちの一つ、海神の息吹により無から大きな波が現れる。
そうしてその波はこちらが指示した方向へと進んでいき…全てを飲み込んでいくのだ。
バシャンッと彼女を闘技場の壁へと叩きつけたところで解除する。
…もちろん、観客には影響がない魔法だ。
水のアトラクションぐらいには、ビチョビチョになってしまったかもしれないけど…。
それよりも今は戦いの最中だ。
敵から意識を逸らすのは、まだ早い。
「ごほっ、ごほっ」
彼女は濡れたフィールドに横たわり、咳を繰り返す。
どうやらあの水を飲んでしまったのだろう。
そして立ちあがろうとするも、泥で滑り転んでしまう。
今まで傷一つなかった黒のローブは、もうボロボロで泥が跳ねて汚れてしまっていた。
「……火の剣」
静かに俺は、剣を取りゆっくりと近づいていく。
彼女もフラフラと立ち上がり、剣を構えた。
そうして最後の一合で、彼女の緩んだ手から剣が吹き飛ぶ。
もう彼女に残された手段は…無かった。
「おとうさん……ごめんなさい…」
首に炎の剣を当てると、力が抜けた様に彼女は地面へと崩れ落ちたのだった。
「優勝はッ、冒険者ダンッッ!!」
『うぉおおおおおおお!!!』




