第29話 魔法礼賛
「竜王祭…数多もの英雄を憧憬する者達の登竜門とあり続けた祭り、それも今回で300回目の開催となりました。
1万28人居た参加者も、立っているのは今や2人だけ…」
「だから決めるべきでしょう…どちらが一番強いのかッッ!?
この戦いに勝利し、一生遊んで暮らせるほどの富と王国での栄誉を勝ち取るのはどちらの選手なのかッ!?」
『うぉぉおおおおおおお!!!』
その瞬間スタジアムが大きく揺れた。
パラパラと崩れた砂が天井から、暗い廊下へと降り注いでくる。
ここからは残念ながら見えないけども、すごい熱気だ…。
それに感化されて、こちらまで体が熱を帯びてくる。
「今日もよろしく…セフィ」
「はい、任されました」
「もしピンチになったら…私のも貸してあげる〜」
「ありがとう、ルシェ」
そうして歩を進めた先には、眩いほどの光が待っている。
あの先が…決戦の地だ。
「それでは順に紹介していきましょう。
では東門より登場するのは…この選手!」
「予選を抜けた際にはダークホースとも呼ばれたが、もうその呼び方を使う者はいない。
カラゴ市の防衛戦では多くの魔物を討ち取り…四魔将の一人さえも喰らった。
その実力はクラーク伯爵家にも認められていたほどっ!!」
…そんな事まで知ってるのか。
最初にクラーク家に迎えられた時から知られてたかは、アレだけども…。
「本日も自分の勝ちに全額ベット!!
その自信に裏打ちされた確かな実力と実績により、堂々のオッズ1.1倍!
栄光を掴めるのか!?冒険者ダァ〜〜ンッッ!!!」
『うぉおおおおおお!!!』
そうして俺は歓声に応える様に右手を挙げながらの入場だ。
…あんまり全財産賭けたこと言わない方が良くないか?
個人情報はガバガバだ。
…というか、1.1倍!?
そんな勝っても美味しくないなら、別に賭けなかったんですけど…。
もう取り消し出来ないから諦めるしかないんだけどさ。
「西門から登場するのはこの選手ッ!!」
「ダン選手同様、第三闘技場から予選出身者。
その軽い身のこなしと巧みな剣技で敵の攻撃を寄せ付けず、決勝まで駒を進めてきました」
紹介が始まり、反対側の通路から相手が姿を現す。
「未だローブに姿は隠したままです。
本戦唯一の女性選手…『正体不明』ライラぁああああ!!!」
『うぉおおおおおお!!!』
そうしてスタスタと彼女はフィールドを歩いてくる。
顔も目深に被ったローブで影になって見えず、歓声に答える様な仕草もない。
試合前の握手は…しないか。
もうあちらは地面に設置されたスタート地点に足を添えている。
じゃあと、俺も静かにスタート地点へと着く。
「どうやらもう、挨拶は戦いの中で交わす様です。
それでは行きましょう」
手の中で光の粒子が溢れる。
「第300回竜王祭決勝戦…スタートですッ!!」
『おおおおおおお!!』
開始の合図と共に突っ込んでくるお相手…ライラ。
鋭く、こちらを狙い澄ました一撃。
そして俺は開いた本の1文をなぞり…
「土の障壁」
そう呟くと書かれた文章が光り…
ガキンッッ!
喉元まで迫った剣先を黄土色の障壁で防御する。
半透明の障壁、それ越しに彼女が思いっきりのバックステップで距離を取るのはしっかりと見えていた。
「ダン選手、ここに来て…魔法を解禁か!?
それにあの周りを回っている本の正体は一体?」
流石に戦闘中に答えるわけにはいかない。
…まあ、使い方以外にはこれの正体を俺も知らないんだけど。
今手に持っているのは、この世界とは別の言語でタイトルが書かれた本。
そこには『土魔法全集』と書かれている。
そして俺の周囲には、衛星軌道を描く様な形で周る残りの本が浮いていた。
残りの3冊は、火と水と風の3種が同じ様なタイトルで。
もちろん詠唱したわけじゃない。
だって俺は魔法使いの修行をした経験なんて全くないわけだし。
だから今回のアイテムは…
「大魔法使いカイデンの『魔法礼賛』、なぞって魔法名を口にしたら詠唱を破棄して発動するというものです」
そんな順当に強いものだ。
一周回って怖いまであるけど、流石に大丈夫…
「…おい」
「……ねえ、お爺さんの声が聞こえたんだけど」
「観客席から聞こえたのでは?」
それもそうか。
流石に空耳、今はそれどころではないのだから。
相手が警戒して距離を取ってくれたから良いだけで、気付かれてずっと近接戦闘を挑まれたら不利。
だから、こちらも身体能力強化を。
分からないけど土の属性本で…
「素早い相手に土は悪手じゃよ」
「やっぱ、空耳じゃない!?」
「こういう時は、速度特化の風属性をじゃな…」
なんか知らない爺さんの声が聞こえるし、体が勝手に動いてるんですけどッ!?
俺の体は周囲で漂っていた風属性の本を掴むと、ページがパラパラと自動で捲られていく。
そして指まで勝手に動かされ、
「…風の強化魔法」
もう言うしかない。
いやまあ、強化魔法はどちらにせよやるつもりだったんだけどさ。
「…さっきよりスローに見える」
「風の強化魔法の副次効果じゃ」
踏み出したお相手…ライラの一撃。
先ほどはギリギリだったけど、今は…見てから余裕で反応できている。
「風の爆弾」
お互いの体の丁度中間地点の発生した風の球。
それは収縮し……弾け飛ぶ。
ゴォォオオオオオ!!!
直後に体を突風が襲う。
気分は台風の中、中継を行うリポーターだ。
相手は地面に剣を突き刺し耐える構え、俺も…あれ、剣持ってなくね?
…ちょっと待って、俺の体が飛んでいきそうなんだけど!?
「馬鹿者!こんな至近距離で打つではない!」
「それッ…知らなかったんだけどッ! 対処法はッッ?」
あまりの突風で声も届き辛いし、そもそもページが勝手に捲られていく。
だから指でしっかり押さえないと開き続けれない。
「土の壁で防ぐんじゃッ!」
風音でかき消えるぐらいのアドバイスは何とか届いた。
思考するだけでその本は手元に現れ、ページも力強く風に逆らって捲られていく。
そうして自動で開かれたページを手のひらで抑え、
「土のッ壁!」
キーワードを叫ぶ。
するとつま先辺りから、ググッと地面が盛り上がってきて大きな土塁となる。
急造なものの、こちらの体を相手側から見えなくさせたぐらいには大きい。
ただ今も風は吹き荒れている。
多分彼女は今も耐え続けているだろうし、少しだけ余裕はあるはず、
「お爺さんの正体って…」
だからこれを一応聞いておくべきだろう。
でも大体察しはついている、これだけ『魔法礼賛』を熟知した人間、
「いかにも、儂がその製作者の魔法使いカイデンじゃ」
製作者以外あり得ないのだ。
「ねえ、セフィ。 これ呪いのアイテムじゃない?」
「そんなはずは……私が使っていた時はこんな事象なかったのですが」
彼女達もこのお爺さんの存在に気づいたみたいだ。
もしかしたら、こちらの心を読んで知ったのかもしれないけど。
「儂が天使の前に姿を現したら消されてしまうじゃろ?」
「それもそうですね」
今まではずっと隠れていたのか。
だから現在の持ち主であるセフィも知らなかったわけだ。
「それにしてもお主、この本で魔法が撃てるとは…相当な魔力を持っているようじゃの?」
「そうですか?初めて言われましたけど…」
誰にも言われたことないけどな…。
セフィとルシェ、それに魔法使いならカーラムさんとかにも。
「それは、そいつらが節穴だったのじゃろ」
「…セフィ、この本燃やして良い?」
「駄目ですよ…この試合が終わってからです」
「冗談じゃから!本心ではない!」
本だから、顔は見えない。
だけども何となく、頭に入ってくる情報には焦っている感じが伝わってくる。
…カーラムさんには、俺が心の中で謝っておこう。
確かに魔力で困ったことはない…使わないけど。
別に魔法が使える訳でもなかったしさ。
でも今日だけは違う。
「カイデンさん、力…貸してもらえますか?」
「…しょうがないのお、この試合の間だけじゃぞ?」
この本があれば俺は…魔法使いだ。




