第28話 試練?
そうして火蓋が切って落とされた本戦一回戦。
開始早々から仕掛けてくる…と身構えてたのだけど、
「おっとゼン選手はダン選手から距離を取る。
これが用意してきた作戦なのか!?」
実況の言う通り、彼は一目散に走り…距離を取った。
これは…罠だろうか?
確かに握りしめたレンタルの盾では、到底その距離を詰めることはできない。
投げても途中で落ちるだけだ。
そして彼の口元からは、魔法の詠唱が聞こえてくる。
これはッ、
「火球!!」
一直線に飛んでくる火の球を、横に飛び込むようにしてかわす。
ヘッドスライディングの様な体勢…あっ、彼が詰めてきたらッ……ん?
慌てて起き上がるも全く彼は近づいてこない。
あくまで、距離を保ったまま再度詠唱を始めているみたいだ。
これは…まさか!?
「おっとゼン選手、今回は魔法使いスタイルでの戦闘だぁ!!
ダン選手はこの牙城を崩すことが出来るかッッ!?」
ニヤリと笑みを浮かべる彼、これが…作戦か。
近接戦闘をすると魔力が奪われるため、ずっと距離は保ったまま。
今までこちらは遠距離攻撃を使わなかったため、勝てないでしょ?って言っているのか。
「これは…中々」
「いや、そんなこと言ってる場合じゃないんだけどッ!!」
もう一度、背後で着弾する火球から逃げながら叫ぶ。
爆風で背中を押される様に吹き飛ばされながらもなんとか受け身を取り、土の地面を滑っていく。
「じゃあ、これで良いですか?」
キラキラと光る粒子が手元へ集まってくる。
そして具現化された武具は…
「剣…?」
それは到底この状況を覆してくれそうにないもの。
…というか、
「この剣、あんまり凄さが感じられないんだけど…」
今まで振ってきた物、戦いで見てきた物…それと比べてあまり強さが感じられない。
これが、本当に凄い武器…なのか?
「よく分かりましたね」
「…おいっ!」
なんでこんな時にそんな事を!?
ちょっと変な会話してたから、もう避けれない。
手から剣が消えた…はずなのに何かを握っている感触が…
「思いっきり振って!!」
聞こえた言葉のままに、動いた腕。
そしていつのまにか剣で魔法を斬り…
「……魔法を跳ね返したぁあああ!!」
数倍に膨れ上がった火球が、一直線に彼へと飛んでいく…
「成長しましたね、ダン」
「ありがとう……って、いやいや死にかけたんだけどね!?」
「勝者、ダン!!」
『うぉおおおおお!!!』
あちらも…どころか俺も予期してなかった魔法の跳ね返し、それは彼を一撃でノックアウトするだけの破壊力があった。
プシューと倒れた彼の体からは、蒸気のようなものが噴き上がっている。
…死んでないよね?
かなり火力が高かったものを、数倍返ししてしまったんだけども…。
「ゼン選手ですが、重傷を負ったものの命に別状はなく…回復薬で治る範囲だそうです!
それでは、最後まで戦い抜いた彼にも拍手をお願いします!!」
飛び出してきた救護班、どうやら検査していたみたいだけど大丈夫だったみたいだ。
それは本当に良かった。
これで、心置きなく…次の試合に備えられる。
試合の準備?…いや、違う。
それはというと、
「…ダン様の勝利、見事的中でございます。
オッズが3.5倍ですので…金貨2782枚のお戻しとなります…」
この賭けの事だ。
俺はまず、予選の時点で53枚賭けた金貨が15倍で795枚に増やし…それを全て自分に賭けた。
その結果が、こんなあり得ない数字となった金貨の量だった。
「…これ以上増やしてどうするんですか?」
これにはセフィも呆れ顔だ。
銀行もないこの世界、流石に持ち歩くなんて嵩張りすぎる。
それに暗殺してでも奪おうとする輩なんて、星の数ほどいるだろう。
「それでは…午後の試合はどう致しましょうか?」
「もちろん全額、ダンに賭けておいてください。
「承知…致しました」
それだけ言われたけども、全額自分に賭けておく。
やっぱりお金が倍々ゲームで増えていくチャンスを捨てるって無理じゃない?
こんなチャンス、二度とないんだからさ。
「もう一生遊んで暮らせるぐらいありそうだけどねぇ」
それは…まあ、そうなんだけども…。
「君が初出場で、竜王祭決勝進出を果たしたダン君だね?」
「は、はい」
そんなルンルン気分で屋敷へ戻った俺を待っていたのは…2人の貴族だ。
それもジュリエッタやリーンとは違い、こちらより二回り以上年齢を重ねた男女。
呼ばれた夕食会では、最近はこの屋敷での食事に慣れてきていたのに再び緊張が走っていた。
「それに、カラゴ市では四魔将の1人と戦い勝利したとか」
「…良くご存知で」
そう俺がカラゴ市防衛の戦いで活躍したことは途中でバレている。
隠していたわけじゃないけど、別に言っても得にはならないし…むしろ警戒されるだけ損だと思っていたため口にしなかった。
でもこれだけの大イベント、隣のカラゴ市から訪れた人も多い。
多分カラゴでは名前も広まっていただろうし、その人達を経由して広まったんだと思う。
「陛下がこの事件を取り上げ、領地持ちの貴族達へ悪魔が潜んでいないか調べるように…とお達しがあったからね。
同封されていた、手紙に君の活躍も一緒に書かれていたのさ」
「…なるほど」
…そんなこと、俺に話して良いのか?
この家にはお世話になっているけど、目の前の男性とはそんな関係でもないのだし…。
そんな我が物顔で屋敷を扱う男性の正体はもちろん、
「という訳でクラーク家へ君をスカウトしにきたのさ、冒険者ダン君!
カラゴ市防衛戦でも活躍し、竜王祭でも力を示した君を!」
ジュリエッタさんやリーン2人の父親でもある、クラーク伯爵家現当主ダイセン・クラーク…様だった。
…そんな人がいきなり現れたら、そりゃあ食器を持つ手が震えちゃうよね!?
貰ったのはありがたい申し出ではある。
…けれど、
「申し訳ありませんが…」
「……理由を聞かせてもらってもいいかな?」
残念だが、断ることしか出来ない。
やはり、
「私の目的は、竜王祭を優勝し…魔女ステラと戦うことですから」
一番に優先すべきは旅の目的…魔女の討伐なのだから。
「そうか…まだ若いのに…」
するとその当主は目を細め…呟く様に言葉を溢した。
明るく照らされた室内、それとは裏腹にどんよりとした空気が広がる。
…やっぱり、この話題は良くないな。
誰も言葉を切り出せない状況が続く。
だけども…パンと1人の女性が手を叩き、
「暗い話はこの辺で終わりにしましょっ!!
それで…ダンさんは、もうご婚約された方はいらっしゃるのですか?」
「ええッ!?」
「これだけの竜王祭の活躍、終了後は商人や貴族からお見合い話の嵐でしょう!
なら、うちのジュリエッタも…」
「うちの娘はそう簡単には渡さんぞッッ!!」
「もうっ!2人とも!ダン様が困ってますよ!」
無理やり話題を変えてきた。
そう彼女は…レイナ・クラーク、2人の母親だった。
…いやいやいや、無理やり話題を変えるとしても、もっと他の手段が…。
さっきまでニコニコしてた当主様がお怒りなんですけどッッ!?!?
笑みを浮かべるレイナ様や、机から立ち上がるジュリエッタさん。
それに加えて、机を乗り出さんばかりの当主様に…ビビって仰け反る俺。
そうして夜は更けていく…。




