第27話 本戦開始
試合終了後、クラーク家へと向かった俺たちは…すごい歓迎を受けた。
何回か顔を合わせただけの関係だったものの、会う人会う人全員から祝福の言葉をかけられたのだ。
それにジュリエッタさんのご厚意で、いつもより豪華な食事だった。
いつもは大皿に盛られた料理を、後ろのメイドさん達が取り分けてくれるという方式。
だが今日はフレンチの様なコース料理だった。
量は少なくなるはずだけど、俺らには指示されているのか当主の彼女らより多く盛られている。
確かにお腹は減ってるのだけど…大丈夫なのか?
ツッコむ事も出来ず、最初に叩き込まれたマナーを守り口に運んでいた。
「ふごいね…この、ほにく!」
ルシェは屋敷の人達にバレない様、俺の目の前に置かれたメインのステーキに齧り付いている。
相変わらず、すごい量食べるなあ…。
セフィは…控えめな量だ。
少しだけ食べたぐらいで、今は机の上に腰を下ろして休んでいる。
「まさか、ダン様があそこまでお強いとは…」
「お兄ちゃん一番強かったね!!」
「ありがとう、ございます。
無事予選突破出来て、ようやく安心できますね」
2人の嬉しい言葉だけど、ここはあくまでスタートライン。
魔女への挑戦状を手に入れるには優勝以外ない。
ここからは歴戦の猛者との一騎打ちが続くのだから、言葉とは裏腹にそこまでリラックスは出来ていなかった。
「サントスとの戦いでは、爪を隠されていたんですね」
「…申し訳ありません、本番以外ではあまり使うことは出来ず…」
「いえっ、別に責めてるわけではありませんからっ!」
こちらが遠回しの嫌味だと受け取ったのだけど、それは彼女の意図とは違ったらしい。
ワタワタと手を振り、違うと身振り手振りで伝えてくるし、杞憂だったみたいだ。
まあ…間違ったことは言っていない。
こういうあくまで練習の様な時だと、2人は力を貸してくれないし…。
だから本気で戦うところを見せてくれ、と言われたらこちら…というか俺が困ってしまう。
そしたら普通にいつも通りサントスさんにボコボコにされ、彼女の謎がさらに深まってしまうだろう。
「…私からは、あそこまでの力を手に入れた経緯や過去は聞きません」
「ご配慮ありがとうございます」
「ですが、ダン様の竜王祭が終わるまで…クラーク家は全面的にバックアップしますから!
もし必要な物があれば揃えさせますから遠慮なくっ!」
彼女は机から乗り出す勢いでこちらに訴えかけてくる。
それは非常にありがたい、まだ宿の空きもないだろうし…。
本当にありがたいのだけど…
「何故…ここまでしてくれるんですか?」
というのはどうしても思ってしまう。
だって助けた分は、もう十分に返してもらってる。
暖かく綺麗な部屋も、美味しい食事も…すごい贅沢なもてなしをしてもらっている。
そしてそれが今では当たり前に感じられるぐらいに…。
「もちろん、リーンを助けてくれたというのも多分にあります。
ですが一番は…貴方が庭でサントスと戦っている時、何度も立ち上がり挑む姿に感銘を受けましたから。
今は、貴方の活躍が見たいのです…いちファンとして、ですね」
「…竜王祭の戦いの方ではないんですね」
「それももちろん凄かったですよ!
ですが、私は庭で修練を行っていた貴方の方が好ましく思います」
それにあの時はちょっと怖かったですしね…と彼女は冗談混じりに付け加え、笑みを口に浮かべた。
そっか…ファン、今までの俺ではあり得ない扱いだ。
…まあ、何度も立ち上がったのはルシェとセフィが怖かったからというのもあるんだけどね…。
でもあの時痛い体を動かしたのは、良かったみたいだ。
…2人はなんでそんなにニヤニヤしてるのさ。
確かに俺もこう言われて悪い気はしないけども!
だって彼女は美少女、むしろ地球だったらこちらがファンになっていると思う。
とはいえ別にファン以上でも以下でもないし、何も起きないんだけどさ。
流石にどれだけ結果を残しても、生まれ持った身分の差は埋まらないのだから。
そうしてその日は談笑しながら夜がふけていき…就寝。
それから2日後…
「本日から、竜王祭本戦が始まります!
激闘の予選を勝ち抜いた猛者達の中で誰が生き残るのか、その目に焼き付けよッッ!!」
『わぁあああああ!!!』
いよいよ本戦が始まった。
予選は全10個の闘技場で行われ、午前の部と午後の部で5人ずつ…つまり100人が予選を抜けている。
そしてそこに前回活躍した者や、他の大会で権利を得た者達28名を加えた…総勢128名のトーナメント方式で行われるみたいだ。
だから7回勝てば優勝…これが長いのか短いのか、あんまり実感は湧かないけども…。
本戦に行ったとはいえ、今日と明日は2戦しないといけないという過密スケジュール。
でもここからは1勝するだけで人生が変わっていくほど重い。
気を引き締めていかないと…ね。
「それでは選手の紹介を…実況は私、プラスが行いますっ!
まずは東門から登場する選手の紹介です!」
薄暗く長い廊下、そこをコツンコツン…と音を響かせて進んで行く。
「その男はぁ、第3闘技場午後の部に現れたダークホース。
幾多もの実力者を正面から力でねじ伏せ、旗を勝ち取り…本戦行きを決めました」
「…行こうか、セフィ」
「ええ、勝ちましょう」
「ねえ、私はッ!?」
「この竜王祭に吹き荒れる台風の目となり、栄光を掴めるのか!?
冒険者ダァ〜〜ン!!!」
そうして暗い廊下を抜け…光に全身が包まれた。
『うぉおおおおお!!!』
一面の歓声が、地面を揺らすほどに襲いかかってくる。
あの激動の予選…まだ俺たちが今日の初戦なのにそれぐらいのボルテージまで上がっていた。
そうするとこちらまで浮きあがっちゃって、手なんかも振ってしまう。
そうして歩を進めていき、足元の印を見て止まる。
「西門、それを迎え撃つはッ!」
「竜王祭、数多もの選手が登場するこの年に一度の祭典。
そんな中、不可能と言われたそれを成し遂げた選手が昨年現れたッ!
全ての出場選手のデータを記憶し、最適な戦闘方法を瞬時に叩き出すその戦闘スタイル!」
「昨年、Top8入りを果たし、予選免除となったこの男!
『ファイト・ライブラリー』ゼンッッ!!」
『わぁああああああ!!!』
俺が出てきた時よりも大きな歓声が会場を包む。
正面の薄暗いゲートから出てきたのは、細身な男。
人のことは言えないけど、あまり戦闘をこなす様な見た目ではなかった。
軽鎧の上から白衣を着て、眼鏡をかけたその姿は…まるで研究者だ。
そうして彼は目の前まで来ると、
「よろしく頼むよ」
「…よろしくお願いします」
自然体で握手を求めてくる。
そうしてガッチリと手を合わせたところで、
「君の秘密はもう知っているよ」
彼は急に語り始めた。
なんだ…秘密って、俺が力を何者かから借りていることとか?
「予選で使ったあの能力…他人から魔力を奪う力だろう?」
あっ、あれの事か。
でも確かに他の人にはバレていなかったと思う。
他人から突っ込まれるみたいな事は無かったし。
すると彼はそんな俺の顔を見て得意げになり、
「どうやら、当たり…みたいだね」
メガネを片手で治すポーズをしながら、その推理を確かめる。
「もう私の脳内には10通りの勝利パターンが用意されている。
覚悟していたまえよ…」
「なるほど…」
そうして彼は、戦闘の初期位置まで戻っていったのだ。
彼が言う敵から魔力を奪う能力…確かにあの時使っていた。
でも今日は能力も、
「それでは本戦一回戦…試合開始ですッ!!」
『うぉおおおお!!!』
そもそも借りる人から…違うのだから。




