第26話 予選突破
これで俺の予選は終わり。
でも持て余した力が…勿体無い。
ああ、あっちから喧嘩売ってきてくれないかなあ…。
そうすればまだ…戦えるのに、
「って、アイタッッ!…何するのさ、セフィ」
「…悪に呑まれすぎですよ。
力を借りるのは良いですが、堕ちるのはダメです」
ゴツンと彼女は手に持つ杖で頭が殴られた。
一応強化された体なのに、普通に痛いんだけど!?
…というか俺、
「そんな…呑まれてた?」
「ええ、発想は良かったですけど…引き出し過ぎですね。
適合率の高さは分かりましたから、次からは気をつけましょう」
適合率…ああ、そういえば最初に創造神様に言われたなぁ。
なんか、レアな死に方をした人間は力を引き出しやすいとか何とか。
あれがセフィの言う適合率なのか。
「じゃあ、次からは気をつけます…」
「いや、私は良かったと思うけどなあ」
そう言いながら、後ろから後頭部へ抱きついてきたのは…ルシェ。
こんな事はよくあるけども、そのまま頭を撫でてくるのは初かもしれない。
「いや、でも堕ちる直前だったらしいけど?」
「まあまあ、それでも良いじゃん!
私と同じ…堕ちた存在になろう…」
「そっちの方がきっと…楽しいよ」
初めて聞く甘ったるい彼女の囁きが右耳から脳へ沁み込んでいく。
つい快楽に身を委ねてしまいそうになる…
「ダメですよ、そんな事をしては…。
私が…許しません」
でもそれに対抗する様に、セフィが左耳から囁いてきた。
いつもの彼女からは想像もつかない甘い声が…脳の深いところまで染み込んでくる。
左右からの悪魔と天使の囁き…まるで2人の演者がいるASMRみたいだ。
そんな幸せ空間?で頭がクラクラとする。
まだ闘技場のフィールド内で入退場ゲートへ歩いている最中なのに…。
とりあえず、
「分かったから! ここまではもう、よっぽどの事がないとやらないから!」
「ちぇっ、残念」
「それは良かったです。
足を踏み外されるとこちらも困りますし…」
出来る限りやらないことを誓っておく。
セフィは喜んでいるけど、ルシェはちょっと不満気味みたいだ。
…先ほどからこちらの肩に座るとツンツン頰を突いてくるし。
「でもこんな事になるなら、今度からはもうちょっと優しくすべきですかね?」
「…それは、まあ」
最近はあれだけど、カラゴ市に着く前ぐらいはヤバかった。
あれは血も涙もなさすぎる。
普通に2回ほど死にかけてるしさ…。
俺は、褒められて伸びるタイプなのだ。
…間違っても、死にかけるたびに強く復活する雑草魂は持ち合わせていない
「じゃあ……」
「……?」
セフィは片手で顔を抱き抱える様に、そしてもう片方の手で頭を撫で始めてきた。
何だ?と思っていると、
「ダン君、予選突破よくできまちたね〜!」
「……は?」
「えらいえらい、してあげるからね〜!」
セフィの甘い声…でも今度は頭に全然入ってこない。
…どういう事!?今、何をされてる!?
って…いやいやいや、
「そういう事じゃなくない!?」
「……違うんですか?地球ではこうやって子どもに褒めると聞きましたが」
「いや、一応22歳なので…」
「まだ、子どもじゃないですか」
一応もう酒もタバコもギャンブルも出来る年齢なんだけども…。
彼女達からしたら、見た目が違うだけで人間は皆赤子みたいな感じかもしれないけどさ。
そういえば天使は人類に試練を与えるって言ってたけど、今もその時も…人類は子どもに見えてるんだよね?
じゃあもしかして天使達の試練って…日本で言うところの「はじめてのおつかい」みたいなノリなのか?
……まあ、いっか。
一応俺の試練は終わったはず…だしね。
そうして完成の中俺は入退場ゲートまで行くと、
「ダン様ですね、予選突破おめでとうございます!
お部屋をご用意させていただいておりますので、そちらまで私がご案内させていただきますね」
明らかに今までと待遇が変わった。
今までも丁寧ではあったけども、ここまでじゃなかったと思う。
そうして闘技場のスタッフの人へ連れられ、
「試合終了まではこちらでお待ちくださいませ」
階段を登った先で案内された部屋へと入室する。
そこは、
「…VIP席?」
闘技場を上から見下ろせる様な場所。
それに1つ1つの調度品が貴族の家にあっても不思議じゃない見た目をしている。
こんな荒くれ者ばかりの闘技場には似つかわしくない豪華さだ。
これが勝者の特権…
「いただきっ!」
「あっ…」
ピュンとテーブルの上に盛られたフルーツの山へ飛び込んでいったのは、ルシェだ。
そして葡萄を口一杯に頬張ったまま、ぴょこんと姿を表す。
「…それ、食べていいの?」
「ひいでひょ!…ゴクン、まあダメだったら代わりに謝っといてね」
…それぐらいなら全然いいんだけどさ。
よくホテルにある、飲み食いした分だけ請求されるタイプかと思ってたけど…流石にないか。
でも一応予選は抜けた訳だし、これぐらいの贅沢はいいの…かな?
そうして部屋のベランダに設けられたスペースに座り、林檎を皮ごと齧りながら高みの見物といく
どうやら試合はまだ続いているみたいだ。
目立った選手を片っ端から狩ったため、少し選手が落ちていくペースは下がったみたいだけど。
そう、ランキングに載っている者達は人数の不利をひっくり返す実力を持つ者達。
それが無くなったならば、
「どうやら選手達は徒党を組み、残りの有名人を狩っていく様ですッッ!!」
こんな酷い光景になってしまう。
……いや、思いっきりルール違反な気もするけど。
試合前から取り決めとかじゃなく、試合中ならオッケーっていう感じなのか?
そうして袋叩きにされる選手と共に、何かを握りしめながら崩れ落ちる観客。
…多分、あの選手に賭けていた人だろう。
こういう展開は塩試合になると共に、こうやって理不尽に落ちていく。
ここはやっぱりバトロワ形式の悪いところだ。
そうして黒ローブのライラとやらが旗を取り切った午前と比べて、決め手を欠いた午後の部は倍以上続き終わった。
ちなみに一桁の俺を除き、結構オッズは荒れて泣いた人も多かったそうな…。




