24話 魔月吸命
ガキンッッッ!!
振り向きながら出した盾が、背後から静かに迫っていた刃を弾く。
「なっっ!?」
その実行犯は、もちろん分かっている。
ザック…最初に会った時からしつこく付き纏ってきた者だ。
「なんでっ、分かってやがったんだッッ?」
「いやまあ、怪しかったし?」
そうして彼はバックステップで下がると、そんな言葉を叫ぶ。
強いて言うなら…こちらが乗り気じゃないのに話しかけてくるのは少し強引だった気がする。
それと、彼がそういう人間だと聞いた訳じゃないけど、2人で話している際控え室で向けられた視線。
煩くてとか、牽制とか思ってたけども、少し憐れむ様な視線も感じていた。
もしかしたら常習犯で、顔見知りの選手は被害者となる俺を憐れんでいたのかもしれない。
という訳で、あの瞬間から警戒していて…最後はむしろ、
「こっちの方が…絶望的、だよね?」
「チッ!俺様をハメやがったのか!」
大当たり、そのために了承したのだ。
これが勘違いで、あっちがやってこなかったら俺からいく予定だったんだけどさ。
手を組んでいるなんて思われて、罰せられたら目も当てられないし。
とはいえ闘技場の中では殺しも無罪、彼を別に罰する事もできない。
だって、そもそも手を組む行為が禁止だしね。
ここでは騙される方が悪、最後まで立っていた者が勝者なんだから。
そして生まれた彼の悪感情、ドクンと俺の体が跳ね…少しパワーアップした気がする。
これが、悪魔ルシェの今まで使えていなかった力…
「……フヒッッ」
ガキンッッッ!!!
再度甲高い音を立てて守ってくれる盾。
だがその衝撃までは殺し切れず、ズザザザッと足が土のフィールドを滑って行く。
それを成した相手は俺より一回りほど大きい体、手には振り下ろしたのだろう大きな矛が握られている。
盾で受け止めた相手を吹き飛ばす怪力、油断ならない相手だ。
そしてザックの反応的には、
「まさか…ね」
「そうさ、ナニとは言わないがなあ!
俺様も聞かれて罰せられると、メシが食えなくなって困っちまうからよぉ」
仲間…みたいだ。
それに他にもこちらを狙うネバつく様な視線を今も感じている。
全員と手を組んでいるとは限らないけど、もしそうだったら…少し面倒だ。
ここは最悪の状況を考えて動くべきだろう。
そして再度繰り出される大男からの突きを盾で弾く。
…本当に盾を選んで良かった。
流石に剣だけだと、技量不足と純粋な力不足で負けていたかもしれない。
「はっ!守ってばっかでいいのかあ?
盾が欠けてってるぜぇえ?」
とはいえ、ザックの言っている事も真実だ。
先ほどから盾が壊れていっているのか、破片が地面へと飛び散っていっている。
これではジリ貧……能力を使っていなければ。
「はあ、はあ、はあ…」
「おい、トンクッ!お前、息切れするの早すぎだろっ!
まだ、始まったばっかりだぞ?」
目の前の大男の表情はヘルムで見えない。
でも分かるのは荒い吐息の音と、深い呼吸をする為の肩の動き。
明らかに、疲労が目に見えて蓄積していっていた。
まだ10分も立っていないはず、なのにだ。
普段あの矛を振り回していない人間だったら普通ではある、でも彼は武器に選ぶくらい使ってきたはず。
そうじゃないなら、こんな10分も経たずに息切れする様な武器は選ばないし。
でも現実は違った、俺よりも先にあちらがスタミナ切れの様子。
「使えない奴め! お前の分け前、今回は無しだからな!」
そうして今度はザックが踏み込んでくる。
卑怯な性格…だけどもそれが剣に反映されると嫌な事この上ない。
勝負事は相手の嫌がる事をやったもん勝ちとはよく言うけども、その理論でいくならかなり強者だ。
トンクと呼ばれた男より手数の多い彼の剣は、多少どこかの部分を捨てないといけない。
だから足や腕には薄くも切り傷が少しずつ増えていくのだ。
その痛みについ顔を顰めてしまうけども、ここは我慢の時間。
待っていれば……
「はあ、はあ、はあ…なんだ!コイツは…」
こちらのターンは必ず訪れるんだから。
そしてヘロヘロになったザックの一撃からはもう鋭さは失われた。
畳み掛ける様にして振り下ろされた矛の一撃…だが、
「なっっ!?トンクの一撃だぞ!?」
盾でガードする必要も無く、刃の付いていない棒の部分を素手でキャッチする。
本来だったら絶対こんなことしない、だって止めるために出した腕が斬られたり、衝撃で骨が砕け散ったりしそうだしさ。
でも疲れている彼らとは裏腹に、同じ時間戦っているはずの俺はまだまだ元気…いや、いつもより調子がいいかもしれない。
まるで、彼らの気力を吸い取っている様に…ね?
「中々の吸収速度ですね」
「そだね〜…まあ武器同士だから時間かかっちゃったけども」
戦うたびに増していく力、もちろんカラクリがあった。
『魔月吸命』それが今回借りた力の名前だった。
生命力を与える太陽、その逆の月は力を吸い取るのでは?というのがモチーフらしい。
そしてその能力は生命力…正確には、人の魔力を吸い自分のものとする能力。
条件は人との接触、それは武器越しでも一度の吸収量が下がるものの可能だ。
「あっ…」
だからもう、ついてしまった力の差はひっくり返らない。
見た目から力自慢なのが伝わってくるトンクという男の矛を思いっきり引っ張ると、正面から力勝ちを果たす。
そうして崩れた体勢の彼の首をガシッと掴むと、
「では残りを全部…いただきますね」
「がはっ!!」
こちらの腕を魔力の奔流が通り抜けていく。
そうして彼はビクンッと体を一回跳ねさせ…力尽きた。
そんなダランと力が抜けた彼を床へと転がし、再度ザックと向かい合う。
「まさか…トンクが!?」
彼はその驚きから膝を降り、地面へと崩れ落ちる。
とはいえ、まだ油断は禁物だ。
俺が盾を構え警戒していると、彼は何を懐から取り出す。
「…あっ」
そしてそれは目の前で…参加証明書がバキンと折られる。
「これで俺は降参する。
これ以上やって、怪我なんてしたらたまったもんじゃねぇからよ」
そうしてザックはフラフラとしながらも地面から立ち上がると、ズボンのついた土をパッパッと払う。
「おっと、もう降参したから俺に攻撃しちゃダメだぜ?
ルール違反になって運営にしょっぴかれるからよ!
…ははっ残念、俺を倒す機会は無かったなあ」
「………」
そうして彼は目の前でペラペラと話し始める。
確かに、あそこまで仕掛けて倒せなかったのは少し残念だ。
そして彼は、俺が静かに言い返さない事で気持ちよくなっているのか、
「今年は出場で稼げなかったが、まあいい。
アンデルとラグナに全財産賭けてるが、お前さんに賭けたやつのおかげで倍以上になって戻ってくるからよ!
だから一年待って、来年新しい獲物でも探せばいいだろ」
そんな事まで教えてくれる。
確かに闘技場を見回すと、その2人はまだまだ元気みたいだ。
『破壊王』の名の通りとんでもない土煙に覆われている部分や、空を色とりどりな矢が飛んでいっているのは『魔弓』アンデルだろうか。
そんな安牌で、美味しすぎる賭け…観客も一部の出場者もその恩恵に預かっているだろう。
……ならさ、
「ねえ、ルシェ?」
「…ルシェ?」
「一番人気と2番人気を喰ったらさ……どうなると思う?」
「なっっ!?!?」
それを首から上だけを背後へ向け、彼女へ問いかける。
いつもは可愛らしい笑顔を浮かべる彼女、でもその質問を投げた時は違った。
「それは、なんて…素晴らしい善行でしょう」
背筋が凍りつく様な恐怖、それが顔に浮かべた満面の笑みの中へ混ぜられた様な表情を浮かべたルシェ。
そして元々あった魔力に、奪った物を足した力は…桁が変わった様に跳ね上がる。
「…はは、そんなっ事…出来る訳ねぇぇよ……」
壊れた様に笑いながらザックは入退場用ゲートを潜っていく。
まずは、
「あぎゃっっ!?」
後ろで機を窺っていた参加者達から力を奪ってからだ。




