第23話 午後の部の噂
「出場者への武器の貸し出しはこちらで行っておりま〜す」
試合開始も間近、そんな時間に俺はこの貸し出ししてもらえる武器達を見ていた。
剣や槍、弓や杖を始めとする武器ももちろんあり、他には大きな戦斧や矛…鞭なんかまである。
その中の一本の剣を試しに手に取ってみると、結構綺麗だ。
レンタルのはずだけど、しっかりとその前に手入れされてるのか刃こぼれもしていない。
そんな色々と目移りしてしまう光景だけども、借りる物はもう決まっていた。
「え〜と、この盾を借ります」
「はい、かしこまりました。
借りられる武器は1つまでですが、本当によろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
そうして俺は、盾を手に入れたのだ。
…武器じゃない?でも、ここに置いてあったし…。
円形で多分鉄で出来てるこの盾、裏にある持ち手を握っているけど結構ずっしりとした重みがくる。
作り的に片手で持つ物だし、両手で持つと取り回しが悪い。
サイズ的には胴体部分がすっぽりと入るぐらいだから安心だけども。
とはいえ、この予選は当たり前だけど敵を倒して生き残るゲーム。
…なのに剣とかじゃなくて盾で良いのか?と思う人がいてもおかしくない。
それはそうなんだけど、1つ大事なことがある…
流れ矢とか魔法で死なないか?
そう、俺がもう少し強かったら良いんだけど…矢とか別に斬れないし避けれるか心配だ。
間違いなく相手はゴブリンより力が強いし、飛来する速度も段違いだろう。
だから点ではなく、面で受けれる盾を選んだという訳だった。
それに、攻撃は…ルシェからの力が担ってくれるだろうし。
カラゴ家から貰った宝剣も腰に刺していた…絶対戦闘用じゃないけども。
盾を選んだのは、一応他にも理由があるんだけど…ね?
「よっ、ダン!」
「うわっ!…え〜っと、さっきの方ですか?」
そんな左手に持った盾を眺めていると、後ろからドンっと肩を組まれる。
その人……良く考えたら名前知らないや。
会ったのはアレだ、控え室にいた時だ。
午前の部を観に行っても良い、というのを教えてくれたのと同時に…ルール違反の手を組む行為を持ちかけてきた人だった。
「ああ、そういえば名前言ってなかったな!
俺の名はザックだ、よろしく!」
「はぁ…よろしく…お願いします。
それで、また何かご用ですか?先ほどの話なら断ったと思いますが…」
そう、ルール違反はしたくない俺は誘いを断った。
だからもう繋がりもないし、あっちにも喋る理由は無いと思うけど…。
「まあまあ、俺たちもう友達だろ?
そんな水臭いこと言いなさんなって!」
…友達、いやちょっと喋っただけだけどね!?
「…それで、何か?」
「俺も、反省したさ…だからもう、あんな狡いことはやらねえさ」
「そうなんですね」
それは、良いことだ。
一応これお金が賭けられてるものだし、流石に八百長まがいの行為は良くない。
「だから…」
「だから?」
「俺たちはゲートから出て近いと思うけど、戦わない様にしないか?」
…前言撤回、全く懲りてないじゃないか!
なんかもう面倒くさくなってきた。
「…なんでですか?」
「いや、俺にとってダンは恩人だろ?
じゃあ剣を向けたくないじゃないか!」
「だったら、そっちだけやれば良いんじゃないかな?」
そう言うと彼はモゴモゴと口を動かす。
これ以上絡まれても嫌だし、
「…じゃあ、良いですよ。
お互いに攻撃しないだけですからね?」
「…ッ、本当か!ありがとう!!」
オッケーする事にした。
まあ、午前の部で中央へいち早く行ったカインの旗へ向かって走る人達は、お互い争わなかった。
あれは暗黙の了解だけど、見た目は同じだ。
位置的に誰にも聞かれてないし…まあ良いかな。
そうしてオッケーを貰った男は嬉しそうに何処かへと走っていった。
…試合もうすぐ始まるんだけど、トイレか?
…まあいっか、今はこちらの試合の方へ集中する方が大事だ。
「じゃあ、私の能力について喋ろうかな?」
そしてその隙間時間、ルシェが話し始める。
「まず、私の能力は全て悪魔の能力なんだ。
だから…悪事に使う時、そしてそれを成した時に強化されるんだよね」
「ちなみに私はその逆、正義を成す時です」
それは、知らなかった。
ルシェの力で今まで使ったのは最初のゴブリンの時と怨念銃だけ、確かに悪事ではないかな。
…でも、悪ってなんだ?
ざっくりしすぎて、よく分からない。
「う〜ん、それは私にも難しいね。
だって魔物から見たら、君も結構な悪だよ?」
それも…そうだ。
とんでもない量を倒し、挙げ句の果てには親玉?の四魔将まで。
あっちの生活は分からないけど、指名手配ぐらいされててもおかしくない。
「だから強いて言うなら、より多くの人の絶望や怨嗟が力になるからそれを目指すのも良いのかも?
…まっ、そこまでする必要は無いと思うけどさ」
…なんか嫌な能力だな。
やり過ぎると、何の力も借りてない時に刺されそうだ。
出来るだけ使わない様にしたいけど…どうだろう?
VS魔女戦の時はお世話になるかもしれない。
そうして程なく、入場の合図が宣告された。
そんな闘技場で選手が準備をしている間、観客席でも戦いが繰り広げられていた。
…もちろん、物理的に傷つく様なものではなく、
「なあ、お前は誰に賭けた?」
「固いアンデルに銀貨1枚、ただゴブリン祭準優勝者のラグナを見逃すのは惜しいし銅貨30枚って感じ。
まあこの2人なら2倍とかでも十分美味しいだろ…お前は?」
舌戦だ。
彼の話す2人の出場者、アンデルにラグナ…この2人はかなり人気の様で1、2番人気を争っていた。
オッズは2から3倍をうろうろとしている様子。
ちなみにゴブリン祭というのは、出場資格にゴブリンを一年で100匹倒す必要がある祭り。
竜王祭よりは小規模なものの、大会前に有力者が集まる貴重な大会。
そのため予想をしっかりと立てる人間は、重要視しているものだった。
「俺はやっぱりラグナだな!銀貨3枚賭けたし、あのハルバードの破壊力といったら!!」
「お前、本当にラグナ好きだな…」
とはいえ中には、選手のファンとして賭ける者もいる。
この祭りは年に一度しかないのだから。
「あと、アイツにも賭けたぞ
掲示板に載ってた、ダンってやつに。
銅貨10枚だけ、だけどさ」
「あれに賭けた奴本当に居たのかよ…。
どっかの酔狂な貴族が賭けただけだろ?」
この闘技場には、当たり前だが何個も売り場がある。
そして魔法の道具によって、リアルタイムで人気ランキングやオッズが更新されていた。
今のランキングには『破壊王』ラグナや『魔弓』アンデル、『雷爺』カリオス、『大楯』ベルトンなど過去の竜王祭で活躍を果たした者達が並んでいる。
それに竜王祭では見た事なくても、風の噂では聞いたことのある名前ばかり。
そんな中にポツンと、二つ名もないダンという名前がランクインしていた。
ランキングを見た者達は誰もが噂する、ただ誰も情報を持っていない。
そのため、ランキングを見た者達は2つに別れた。
「さっきのライラが無名から、予選抜けだぜ!?
今回賭けてたら、ドヤ顔出来るだろ?」
そんな夢を託す者と、
「確かにアレは凄かったが……今回はどうだ?
あんまりオッズも美味しくないし、だったら常連組に賭けてぇな」
現実的に見てスルーする者。
そう午前の部のライラは無名で、自分でさえも賭けていなかった。
だがダンは自身に金貨を何十枚も賭けたためオッズは10倍代とかなり低く、しかもその結果他のオッズにも変動があったのだ。
常連選手へ賭けても、いつもより美味しい結果に。
それでも夢を追う者、堅実に賭ける者…この2勢力となり、第三闘技場では舌戦が繰り広げられていたのだった。
「…ダンさん、すごいオッズですね…。
何か私たちも知らない情報があったのでしょうか?」
そんな言葉を呟く女性が、同じ銀髪の子供を横に席へ座っていた。
ぎゅうぎゅうに敷き詰められた様な上の一般座席、そこより優雅で余裕がある。
こんな来賓席に座れるのは、大商人や…貴族だけだ。
そんな席へ座る、まだ大人ではない2人はクラーク伯爵家の一員。
リーン・クラークとジュリエッタ・クラークだった。
「魔法使いのお兄ちゃん、勝てるかなあ?」
「……簡単ではないでしょうが、見守りましょう」
噂されているのは、壁や床越しでも彼女らへ聞こえてくる。
そしてその元となるランキングも、来賓席では各部屋で見れる様になっていた。
だが彼女らは知っている、その噂の彼が強くない事を…。
何度も護衛の騎士と戦っても勝利する事は出来ず、その彼を圧倒した騎士も予選を抜けれるか分からないレベルという事も。
けれども彼女達には、彼が無事に帰ってくる事を祈るしか出来なかった。
「それでは、選手の入場ですッッ!!」
『わぁああああああ!!!』
その声と共に、湧き上がるのはスタジアムを揺らすほどの歓声。
「午後の部には、午前同じく500名の参加者が参加しております。
果たして、誰が最後まで立っているのか!?誰が勝つのか!?注目ですッッ!!」
「入場された選手の皆様は、闘技場の壁へ手をついて下さいね」
そうして参加する選手達は指示通りに壁に手をつき、自身の獲物や旗を目で捉えている。
有名選手へ向ける畏怖や尊敬の籠った目線、経験の浅いのにも関わらずランクインしている者達へはマークをする様に嫉妬混じりの視線を。
ただこの来賓席からは個人の顔などまで見ることは出来ない。
でも、
「あの黒髪は…ダンさん?」
誰一人として同じ色がいない黒髪は、妙に目立っていた。
そうすると遠目でもよく分かる、
「狙われて…いる?」
明らかに近くの選手達がそちらを気にしているのを。
でもそれは彼も気づいている様で、向かい合う様に姿勢を保っている。
そんな彼は360度…いや、全く背後を気にしていない。
それは、
「……今回は見逃しましょう」
彼女にも分かってしまった様だ、手を組んだ事を。
背後は全く知らない男だが、そちらも全く気にした様子はない。
それが背中合わせ…であることは明らかだった。
ただそんな決まりは有名無実化しており、それが行われるのも少なくはない。
竜王祭運営は面白い展開を…英雄を望んでいる。
そのためこれらの悪事は、英雄へ到底なり得ない者への足切りとして機能していた。
どうせこの程度の困難を乗り越えれない者なら英雄に…利益をもたらす目玉選手にはなれないのだから。
「お兄ちゃん頑張って!!」
「それでは…」
「とはいえ、ちょっと残念……まさか!?」
「竜王祭スタートです!!」
『うぉおおおお!!!』
彼女の驚きの声は、直後の開始の合図でかき消された。
彼女の目が捉えていたのは背後の男が静かに振り返る場面。
その手に持つ、キランと光る刃物が彼の背中へ突き出され……




