第19話 模擬戦
そうして俺達は室内から、外の庭へと移動する。
それはただ屋敷を案内して、という訳では無い。
いや、もしかしたら少しはあるかもしれないけど、主目的では無かった。
「戦っていただくのは、クラーク家の護衛隊で頑張ってもらっているサントスさんです」
「ご紹介に預かりました、クラーク家護衛隊所属サントスと申します。
リーン様の件では、大変お世話になりました」
「あっ、はい。銀級冒険者のダンです、よろしくお願いします」
そうして俺は、サントスと名乗る彼と握手を交わす。
その手はゴツゴツとしていて、努力の証が感じられた。
俺は…男だから多少は硬いと思うけど、指で突っつくとぷにぷにしている。
戦いを見せて欲しいというのは彼女の冗談ではなかったらしい。
それをお世話になる身、しかも平民が断るのもアレだ。
そのため、話の流れ的に受けるしかなかったのだ。
「それで、ダン様は魔法使いなのですか?
妹がそう呼んでいましたが…」
「いえ、それは魔法に見える…いわば大道芸の一種ですから。
戦闘には剣や銃…遠距離の武器を使っておりました」
「なるほど!そちらも気になりますが…剣を使えるなら、サントス?」
「はい、ジュリエッタ様。
ダン様、こちらにご用意しておりますので、お好きな方をどうぞ」
そんな話の流れで出てきたのは、木剣?
2つある中から、差し出されたので好きな方を手に取る。
見た目も変わらないしどっちでも…まさか、
「この試合、私が審判を務めますね。
…それでは、両者構えッッ!」
ちょっと時間が…なんて言ってられない。
ワタワタとしながら剣を正面に構えると、柄を握った手からじんわりと汗が浮き出る。
そういえば、対人は初めてかもしれない。
「初めッッ!」
敵となるサントスさんとは5mほど距離があった。
もしかしたら、異世界の人と比べて俺は戦闘が上手いのか?
それに剣や銃を初めて持ったのに使えてたし…
「…負けました」
アレって、夢だった?
空を切った俺の剣、その隙を彼は逃すことなくこちらの首元へ剣先が突きつけられていた。
「…勝者、サントス」
彼女も捻り出す様な言葉の出し方で勝者を告げる。
普通だったら何度も打ち合ったり、鍔迫り合いがあるはずのだけど……うん?
全く歯が立たなかった。
まだ現実を受け入れきれてないかもしれない。
「…もしサントスさんが竜王祭に出たら、どこまでいけると思いますか?」
「そうですね……優勝候補を避けれた上で、運が良かったら予選を抜けれるかもしれません」
無理ゲーかな?
もしかしたらサントスさんが優勝経験者だったりしたら…なんて思ったけど、そんな期待は露と消えた。
そんな彼との差、高校時代に剣道で全国へ行った友達がいたのだけど、その子と遊びでやった時以上に差を感じた。
いやこれ、大丈夫か?
「…ダンさん、竜王祭は命を落とす者もいます。
それでも挑戦なされますか?」
こちらが弱すぎて、ジュリエッタさんに気を使わせるほど。
……なんかこっちが申し訳なくなってきた。
とはいえ、
「挑戦はします、もし死んでしまっても…その時はその時です」
「なんでそこまでしてっ……理由を聞いてもいいですか?」
「それは…困難だからこそ、超えた先に得るモノがあるでしょうから」
そんな言葉を感情的になった彼女へぶつけると、ハッとした表情になる。
いや、内心では全く思ってないんだけどね。
普通にこれが魔女との挑戦権を得るために必要なプロセスだからやるだけで。
だからか、ルシェはこちらに胡散臭い人を見る目を向けてきている。
セフィに至っては、
「稀代のペテン師ですね」
なんて言葉も言ってくる。
…うるさいな。
もう心までボコボコにされてる気分だ。
じゃあ素直に、魔女を殺しにきました…なんて言った方が良かった?
でもそれを今の状況で言ったら、流石に出場を止められそうだ。
無謀すぎるし…というかこの屋敷から追い出されても不思議じゃない。
普通にそんなことを言ってたら、そいつは頭がイカれてるし。
…でも、彼女にその言葉は随分刺さったみたいで、
「そんなっ、立派な考えで挑戦を…分かりました。
でもこのままだと危険です、サントスと少しの間でも訓練しましょう。
…どうですか?」
「…それじゃあ、お願いします」
「では、僭越ながら私めが教導役を務めさせていただきますね」
「私たちクラーク家が全力でバックアップしますから!
安心して竜王祭に臨んでください!」
両手でぎゅっとしながら、彼女は熱心に語りかけてくる。
…来世の俺はペテン師か、それとも宗教なんかを作ってるかもしれない。
そんなむしろこっちがびっくりしてしまう程の熱意だけど、サポートはありがたく受け取らせてもらう事に。
「それではまず、基本の姿勢から…」
「あ〜、疲れた」
「お疲れ様です、ちょっとは強くなりました?」
「…ほんのちょっとぐらい?」
問いかけを投げてくるセフィに対して、その値を少しだけ指を開く事で示す。
こんな会話、貴族の邸宅敷地内だと…もらった部屋以外では出来ない。
そう今は、決闘都市の大通りを歩いていた。
相変わらず人でごった返しているけど、この人数を本当に都市内で泊められるんだろうか?
ちょっと不思議な気持ちになる。
そんな事はさておき、このあと大事な用事もあるという事で早めに終わってもらったのだ。
人との用事…ではない、異世界の知り合いはほとんどカラゴ市だしね。
その目的地は…どうやら見えてきたみたいだ。
「受付所…まだ混んでるのか」
そう、まだ竜王祭のエントリー登録を済ませていなかった。
一応当日参加は出来るらしいけど、試合の準備はほぼ出来ないと思う。
その場合適当に振り分けられるため、10分後本番だったりするらしいし。
なので出来るなら必ず事前登録をと、ジュリエッタ様にもサントスさんにも強く念押しされたのでここにいる。
まあ、流石にここまで言われたら事前登録するけどね。
そうして、日も暮れてきたのにも関わらずまだ行列は続いている。
そんな時間に並んでいる人は、揃いも揃って疲れた顔の人達。
きっとこの人混みでメチャクチャにされた人なんだろうなあ…というのが推測だけど、多分当たってるはず。
そして暇なので並んでいる人を見ていると、少し思った事がある。
それは、
記念受験みたいな人多くない?
というもの。
流石に声に出したら失礼すぎる…思ってるだけでアレか、ごめんなさい。
でも普段は畑を耕してます、なんて格好の人もいるのだ。
いや、決して格好から差別してるわけじゃない。
背中に背負ってるのだ…1mぐらいのシャベルを。
確かに戦争に使われたなんて話は聞いた事はある、でも明らかに農業用だ。
多分草の汁っぽい、緑色が付いてるし。
でも明らかにヤバそうな奴もいる。
今受付している、全身を真っ黒なローブで覆った人間。
フードで顔まで隠れており、喋らないため性別すらも分からない。
でも漏れ出ているのは、あの魔族やギルマスの様な存在から漂う強者の気配だ。
「お次の方どうぞ〜」
そんな彼?は、足音1つ残さずに人混みへ消えた。
とはいえ、次は俺の番。
しっかりと話を聞かなければならない。
「それではルールを説明致しますね。
まず行われる予選の名は『生存遊戯』…何百人も集められた中から、5人が残るまで戦い続けるものです」
なるほど、いわゆるバトルロイヤル方式なのか。
確かに、それぐらいしないと人数が減らなさそうではある。
…まあ、クラーク家の人から聞いてるんですけどね。
だからサントスさんも運が必要と言っていたのだ。
流石に全方向から襲い掛かられ、数対1になったら基本的には勝てない。
もし勝ったとしても、他から来た人間が弱った体を容赦なく刈りにくるだろう。
「そして特殊ルールとして、一人倒すごとに銀貨10枚プレゼントされます。
これは途中で敗北したとしても、持って帰ることが可能です」
そう、これが記念参加が多い理由だ。
銀貨10枚もあれば、1人なら結構節制すれば一年暮らせるかもしれないぐらい。
猛者を倒して銀貨10枚はしょっぱいけど、記念参加の人を狩って10枚ならめちゃくちゃ美味しいということらしい。
…まあ、それを専門に狩るのを生業にしてる初心者狩りみたいな奴もいるらしいけどさ。
中々恐ろしい世界だ。
「それにもう1つ、闘技場のフィールド中央には旗が設置されています。
その旗を1分握り続けることが出来れば、先着一名様限定で自動的に予選から抜けることが出来ます。
その場合は、残った人達で残りの4枠を争って貰う事になります」
どうやら、特殊アイテムもあるらしい。
その旗とやらは…本当に成功するのかな?
真ん中で旗を握るという事は、片手が塞がったまま360度攻められ続けると同義。
流石に無理だと思うけど…。
アレなのかな、攻められる方向を絞るというので合理的に考えたら、闘技場の壁を背にする事になる。
それだと地味で変わり映えせず、観客がつまらない。
だから、力自慢達が中央で派手な戦いをする様に促す…って事かな?
「ダンはどっちで行くの〜?」
それはもちろん……地味でつまんない方でしょ。
「それはつまんないなあ〜」
いや普通に矢がありだから、流れ矢で死んじゃうし。
せめて数対1を軽々こなす実力が必要だ。
それが出来るかは……悪魔と天使次第なんだけどさ。
「それは…お楽しみって事で」
「そうですね、とはいえ訓練は続けましょう。
基礎というより、生き残る技を盗めると…今後にも生きそうですし」
非力な俺はそれを待つしか出来ないのだ。
できるだけ良いモノを貰えるように祈っておこう。
…誰に?
う〜ん…創造神様にかな?
悪魔から借りるとして、神様に祈るのはおかしな話かもしれないけどさ。




