第16話 さよならカラゴ市
「ああ、確かに居るな。
チャンピオンの、魔女ステラだっけか?」
その名前が出た瞬間、2人の雰囲気が変わった。
…確かに聞いたことがある気がする。
俺の記憶が間違っていなければ…
「憤怒の魔女ステラ…ですかね?」
「あ〜…憤怒?かどうかは知らないが、魔女は自称しているんじゃないか?」
これは…当たりか?
もうルシェもセフィも、一言一句聞き逃さない様に静かになっていた。
「それで魔女に会ったら、お前さん達は何をするんだ?」
「…倒します、それが任務ですから」
その問いに対しては、断言で回答する。
これが条件で力を貸してもらって、生き返ったのだから。
「そうか…ちなみに話は変わるが、宿ってとってあるのか?」
「……あっ」
「その表情を見るに、無いみたいだな。
まあ、安心しろ。ギルドが運営してる宿屋を貸してやるからよ!」
「ありがとうございます!」
「じゃあね、ダン君!それに天使さんと悪魔さんにもよろしくね」
そうして2人はヒラヒラと手を振りながら去っていった。
夜会も間も無く終わり、そのまま俺はギルドの宿屋で就寝したのだ。
「ダンさん、おはようございます!
銀級冒険者の証は、こちらとなります」
「ありがとうございます」
そうしてトレイに乗せられたそれを掬い上げる様にして手に取ってみる。
今まで…というか昨日だけなんだけど、もらった木製の物とは結構違った。
やっぱり一番は表面の金属光沢だろうか。
流石に純銀とはいかずメッキぐらいとは思うけど、手にずっしりとした重みを感じる。
それに見比べると、裏面の偽造対策の模様がより細かくなっていた。
例えるならQRコードが三つ並んでいる感じで、そんな悪事をしようとは思わないほどだ。
でも銀だから錆びたりして模様が読めなくなった、なんてことは起きない…よね?
大丈夫だろう…知らないけど。
「それとこちらの書類をギルドマスターから預かっております。
中身は私たちも存じ上げませんが…」
「なんだろう…あっ」
取り出した紙は、まるで会議の書類の様に麻紐で束ねられている。
表紙を見たら一発で分かった。
『決闘都市ズィッペリンの魔女ステラについて』
そんなタイトルがつけられた物。
もしかして、わざわざやってくれたんだろうか。
それに受付嬢の人は知らないって言ってたし、自分で…
「なるほど、ギルドマスターは?」
「執務室にて、先日の後処理を済ませております」
「そっか、じゃあ邪魔しないほうがいいかな。
それではギルドマスターにありがとうと冒険者ダンが言っていた、とお伝えいただけると嬉しいです」
「言伝承りました。
それでは良い、冒険者ライフを!」
そうして俺は書類をカバンにしまい、建物を出る。
最初はビビっていたけども、こうなると少しだけ寂しさもある。
そう、今日この街を出て決闘都市ズィッペリンとやらへ向かうのだ。
もちろん目的は魔女ステラの討伐。
「約束…忘れてないよね?」
「…もちろん」
外へ出る門へと向けられた足はグインとターンし、出店へと向かう。
カバンには報奨金の金貨や、ゴテゴテの装飾がされた宝剣?が入っている。
多分出店の食べ物を買い占めても余るぐらいあると思う。
だからもう盗まれたら、膝から崩れ落ちてみっともなく泣いてしまうぐらいには痛い。
本当に気をつけて、肌身離さず持ち歩くしか無いのだ。
屋台を回るといっても、ルシェは昨日腹が膨れ上がっているほど食べていた。
そんな状態での買い食い…まさか金貨一枚無くなるとは思わなかった。
そして釣られる様にして、お腹いっぱいになるまで食べた俺。
…この後、長距離移動があると知っていて。
二人揃って、乗り合い馬車の中でセフィに説教された事をここに記録しておく。
そうして馬車に揺られ5日間、 途中で村に寄りながらも目的地まで進み続ける。
最初の1日目は、とんでもない悪路に加えて満腹状態。
何度も吐きそうになる地獄の時間で、ものすごい後悔した…。
でも5日も乗っていたら、結構慣れるみたいだ。
乗り物酔いはしなくて、景色を楽しむ余裕さえあった。
「見えてきたぞ、決闘都市だ!」
そんなテンションの高い御者のおじさんの声で、う〜んと思い切り伸びをしながらそちらへ顔を出す。
確かにあった、カラゴの街に匹敵するほどの巨大な城壁が。
間違いなく都市にしか無いレベルの防御だ。
それにカラゴ市では無かったものの、溢れ出る活気からか街が延長されていた。
これはスラム街…なのかな?
間違ってたら失礼すぎるし、流石に聞けない。
外敵から守るのは粗末な木の柵だけ、それに守られた家屋はツギハギで統一感の無い作り。
日本にいた時にドキュメンタリーで見た光景とかなり近いのだ。
でも門はその壁外の街を潜り抜けた先にあるはず。
そんな訳で、そのスラム街疑惑のある街を通り抜けていく。
やばいところなのかな…なんて思ってたけど、
「安いよ、安いよっ!バタの実が赤字覚悟の銅貨5枚だよ〜!」
「こっちも負けてねえぜ!港湾都市ダイコウで作られたカライゾの干物が銅貨30枚だ!
酒のアテに一つどうだい!」
結構活気のある街だった。
人の往来も道が埋まるくらいで、むしろ馬車で通っていいのか?なんて思ってしまうほど。
そんな喧騒にも負けない売り場のおじさんおばさんの口上に目を引かれる。
あの手に持って掲げてるバタの実…いや、あれカボチャじゃないか?
どうやらこの翻訳って理解できる様にしてくれるだけで、それが地球でいう何かというところまでは教えてくれないらしい。
じゃあカライゾの干物は…全く分からん。
あんまり魚に詳しく無いからアレだけど、車のハンドルぐらいでかいのはわかる。
味は…名前の通り辛いのかな?
港湾都市ダイコウ、暇があったら行ってみたいけどそれも当分先かなあ…。
ぜひ新鮮な魚を食べてみたい、内陸だからか焼いた魚しかないしさ。
いやでも、こんな異世界で生魚は危険すぎるか…なんて思ってたら、門まであっというまだ。
ただ今回の手続きは楽、だって御者さんが全てやってくれるし。
一応荷を改めると同時に、顔と一緒に全員の身分証を見せるだけだ。
「それでは、ようこそ決闘都市ズィッペリンへ!」




