第14話 使えなかった切り札
未だ握ったままの剣、それには魔のモノを斬ればその部分は再生しないという能力がある。
でもそれだけじゃない、魔力を込めれば自由自在に刀身を伸ばしたり操れるらしい。
ただそれは、俺が魔力というモノの存在…そしてどこにあるかも分からなかったから封印という事になっていた。
なっていたはず…なんだけども、
『魔力…分かるかも』
「……本当ですか!?」
今は実体のないはずのそれを感じ取れている…気もする。
言語化はあまり上手くいかないけども、例えるなら体を覆うオブラートみたいだ。
体の表面から数センチ魔力と思われる層があり、その外に空気があるイメージ。
そして敵の悪魔がやってきているのは、その魔力の層に長いストローを刺してきて飲んでいる様な感じだった。
まるで蚊に吸血されている気分だ。
でもストローっぽい場所を叩いてもキャンセルされないだろうし、何より人質が危ない。
だからじっとして、2人に思考を読み取ってもらって会話するしか出来ない…そのはずだった。
『ねえセフィ、剣に魔力を込めてからの実体化って時間かかる?』
「それは確か…込めた魔力に応じて変わるはずです」
その言葉を聞いて、俺は少しだけ魔力を注ぎ込んでみる。
まるで水の入っていないダムに、スポイトで一滴の雫を垂らした様。
全く底が見えず、手応えもない。
だから…どれだけ注ぎ込んでも大丈夫だよね?
バキバキッッ!!
その瞬間ヒビ割れたのは剣…ではなく、地面。
まるで地割れの様なヒビが、俺を中心に広がった。
「おいっっ!!人質がどうなっても…」
そう悪魔は叫びながら、ギリギリと女戦士の首を腕で締め上げていた。
でももう、それも叶わない。
バタン……
力なく落ちていった腕、ただ胴体は変わらず立った状態だった。
そう腕が…腕だけが斬り落とされたのだ。
どうやって?それはもちろん、この剣のおかげだ。
「腕がああ!!お、俺の腕があああ! 再生ッ、しないっっっ!!」
青色の血は勢いよく噴き上がり、地面を…体を染めていく。
その隙に拘束が解け、ダランと地面へ倒れそうになった彼女を飛び出して救出する。
そうしてそのまま地面へ寝かせるも、少し力が減ってきた感じもあった。
魔力を一気に使ったせいで、身体能力が落ちたのか?
だったら、このまま長期戦する訳にもいかない。
そして目の前の悪魔へと剣を向ける。
もう両手どころではなく、腕から下を全て斬り落とし…再生させていない。
かつて腕があった場所、そこからドバドバと垂れ流したままの血液。
生命の維持には到底足りなくなっている。
「治らないッ! たお…せばなおる? 倒せば治るッ!!」
そうして精神が錯乱し始めた状態の悪魔が、再び突進の態勢に入る。
こちらの腰ぐらいまで頭を下げた状態、それを迎え撃つ様にこちらも腰を落とす。
そして悪魔がぶちかましをする前に…魔力の残り全てを剣に込めた。
「なっっ!?!?」
まるで正々堂々と最後に拳を交わす様な場面…まあ悪魔は腕がないんだけどね。
けれどもそんな事は気にしない。
正直、クリティカルヒットすると死んでしまいそうだし。
ただ悪魔はもう身動きが取れない…いや、そんな次元ではなかった。
剣先から地面を通って、無数に枝分かれした様なそれ。
まるで地面から刃物で出来た木が生えたみたいだ。
それに貫かれる様にして、悪魔は体を宙に持ち上げられていた。
「それ…どうやったんですか?」
「剣先からレイピアぐらい細いのを出して、行って帰ってって感じ」
そう無数に枝分かれといってもこの剣、実は伸びるだけで先が枝分かれはしてくれないのだ。
だから枝分かれしている様に見せかけているだけで、剣と彼の体を糸ぐらい細くした剣先で縫い付けた感じだった。
「…今までの使い手でそんな使い方してる方、初めて見ましたね」
「…ありがとう?」
まあ普通にこんなことしなくて良いしね。
だって剣の腕がないから、こんな色物の技を使ってるわけだし…。
でも今回は見事に、決まったみたいだ。
その手間暇のお陰で…別に狙っては無かったのだけど、とんでもない返しの量で体は動かせないはずだ。
そして体中から滴り落ちる青い血液、それはまるで砂時計から落ちる砂の様に…。
無情にも、悪魔の残りの命をカウントダウンしていく。
「あ…ぐぁ……ぁっ」
そして口も満足に動かせないほどの拘束…そしてガクンッとその体から力が抜けた。
「勝った…?」
そんな魂に置き去りにされた体は、役目を終えた様に段々と灰になっていく。
残った刃の木には、零れ落ちる灰しか残されていなかったのだ。
「はあ…」
体から力が抜け、ガクンと膝から崩れ落ちる。
勝手も分からず、ありったけの魔力を注ぎ込んだせいだ。
体温が一、二度下がったんじゃないかと思うほどに体は冷え、ガクガクと震えていた。
翼もいつの間にか無く、服も地球の時から着ている物に戻っている。
これが魔力を使いすぎた代償…それを今、身に染みて実感していた。
「段さん!?顔色悪いですよ!」
「…そう見える?」
「まるで幽霊みたいに青白いですっ!早く飲んでください!」
「んぐっ!?」
無理やり突っ込まれた試験管、その中には見たことのある液体が。
…本当にクソ不味い……でも、よく効く。
味なんて罰ゲームレベルをとっくに超えてると思うけど、効力は今まで見てきた薬の中でもナンバーワンだ。
「セフィ、ありがとう…」
あの時は傷がついたりしていて、それを治すだけと思っていた。
でもこうして魔力が感じ取れる様になると分かるのだ、それがもう全快している事に。
これ……絶対高いやつだ。
ゲームでも、体力と+アルファで何かを回復するアイテムは高いと相場が決まっているのだし。
「いえいえ、それではあの冒険者2人も治しますか?」
「もちろん、そのために出てったんだし」
そうして男も連れてきて、2人を横に寝かせる。
正直男は死んでてもおかしくないと思っていた。
だって、あの悪魔が突進した方向だったし。
どうやら土台になっていたオーガの巨体で、衝撃が直撃したりしなかったため一命を取り留めていたみたいだ。
女戦士も、かなりの力で首を絞められていたのに生きている。
それは…理由が分からないけど、鍛えていたからかな?
まあ殺してしまったら人質として意味ないし、という理由で悪魔が手加減してたのかもだけど。
とはいえ、あまり容体は良くない。
男は右腕を、女は左脚を落とされ、しかも2人はお腹を槍で貫かれていた。
多分…あの山を作る時に、土台の人間が動くと困るからだろう。
普通にいつ死んでもおかしくないし、早く薬を飲ませないと…
「ん…ここ…は?」
「市外の広場?です、悪魔は私が倒しました」
「そうか…あり…がとう」
「いえいえ。じゃあこの薬を飲めば全部治りますから…」
そうしてセフィから貰った薬をぼんやりと目を開けた彼へ見せつける。
俺が飲んだものよりグレードは落ちるみたいだけど、この世界での最上級品ではあるらしい。
…じゃあ俺は何を飲まされたんだ?
今はそれよりも優先すべきことがあるのだけど、その試験管を彼の口へと近づけても開けてくれない。
「それは…彼女に…一緒にいたケリーに…飲ませてあげて、くれないか?」
「ええと…」
じゃあと、彼の言う通りに試験管を彼女の口元へと運ぶと、
「それは…ガンメイに…私を庇って、あんな怪我を…」
「いや、ケリー…」
「いや、ガンメイ…」
…こいつら結構元気だな。
お腹に穴空いてるし、まだ血止まってないんだけども。
「なあ、分かるだろ。男としての頼みだ…分かるだろ?」
「分かり…ました」
「ガンッ…ングッ!」
封を開けた試験管、それを彼女の口へと無理やり突っ込む。
イヤイヤと首を振る彼女の口内へ、薬が流れ込んでいく。
涙まで流されると、まるでこっちが悪いことしてる気分になる。
そして嚥下を始めた彼女を見て、
「そうだ、それで…良い…」
満足げに男は呟く。
量的にはあんまり入っていない、だから彼女はすぐに飲み干すと俺は押し除けられた。
「ガンメイッ!! アタシ…あんたのために長生きするよ!」
「ああ、ケリー…俺の分まで…んぐっっ!?」
力で退けられた恨み、それを男にぶつける様にこっちは乱暴に飲ませる。
男はグルングルンと驚きを表す様に目を回している中、遠慮げに嚥下を始めた。
「何するんだい!?って……あれ?」
というか、なんか感動的なシーンだったりしたのかな?
2人とも目に涙を浮かべてるし…まさか苦すぎた?
それぐらいは、許して欲しいけど…。
もう…傷は全部癒えたんだしさ。
「薬…2本持ってたのかい?」
「え、ええ。持ってましたよ?」
正確には、セフィに2本目を出して貰ったんだけどさ。
一応何円するか分からないし、出所はあんまり教えたくはないよね。
なんでも治る薬、そんなのいつの時代でも貴重品に決まってるんだから。
「…あっ、1本しか無いと思ってました?」
「「………」」
恥ずかしげに頰を染めた2人の反応を見て、よく分かった。
確かに、1本しか無かったら愛するもう1人を助けたくもなる。
だからあれだけ譲り合いしてたのか…こいつら元気だな、なんて思ってごめん。
…まあでも、
「助かったし、いいんじゃないですか?
2人で長生き出来ますね!」
「「〜〜〜ッッッ!!」」
これにて一件落着だ。
少し、恨む様な目で見られてるような気もするけど…。
……これって、俺が悪いですか?
そうしてなんやかんや3人でカラゴ市へと帰る事に。
道中他のパーティーを拾いながら、段々と大所帯になっていき…時には加勢する。
そんな形で戦いを終え……
「冒険者ダン…此度の活躍、誠に見事であった。
カラゴ家は貴殿を、銀級冒険者へと推薦する」
どうしてこうなった!?




