第10話 天使と悪魔の合体技
「皆の者、よく集まってくれた。
私はエーデル・パリスタン…カラゴ家騎士団の団長を務めている」
馬車の荷車だろうか、周りに集まった兵士や冒険者より少し高いところから演説が始める。
カラゴ家…ここがカラゴ市だから、治めてる貴族とかのお抱えって事かな?
ただもう鉄のヘルムによって顔は見えなくなってしまっている。
これ…自己紹介されても、分からなくない?
でもそんな呑気な事を考えているのは多分俺だけ、全員真剣な表情をその団長へと向けていた。
「緊急時の為、手短に話そう。
敵軍は全て魔物で構成されていると今の所は見ている。
ざっくりと4種、ゴブリンにハーピィ、ナーガにオーガだ」
そうして横から各魔物達についての情報の補足が入る。
ゴブリンは戦ってそれとあんまり変わらないから、重要なのは他の3種。
ハーピィは醜悪な人面に手足が鳥になった様なモノらしく、空を飛ぶそうだ。
なのでハーピィと戦うのは前衛…ではなく後衛の仕事らしい。
ナーガは女性の上半身に下半身が蛇になったモノ、それで重要なのは…目を合わせると少しの間体が止まってしまうらしい。
だからもし喰らったら一瞬でミンチだ。
実際やってみないと分からないけど、一番怖いかもしれない。
そして敵の主力と思われるのが、ゴブリンを更に大きくし朱色で塗ったような体に一本角が生えたモノ…オーガだ。
5m近くの巨体らしく、力自慢のため正面からは戦うなと念押しされた。
よっぽど力が強いんだろう、俺も地面のシミになりたくないし気をつけないと。
こうやって少し実感が湧いてくると手もちょっとだけ震えてくる。
ゴブリン20体以上なんて、可愛いモノだったのかもしれない。
…いやまあ、あの時も死んだと思ったけどさ。
「諸君らの武運を祈るッッ!!」
『『『おおおおお!!!』』』
負けない意思を示す様高らかに手が上へと掲げられ、地面を震わせるほどの声が響き渡る。
俺も少し不安な気持ちをかき消すべく、全力で乗っかった。
そして編成分けが迅速にされていく。
どうやら作戦をざっくり言うと、まず後衛が一撃をお見舞いし…それを確認した後に前衛が出ていくという感じらしい。
こんなに立派な城なのに籠城しないのは不思議だ。
…と思ってたんだけど、それはどうやらオーガのせいらしい。
近接戦闘じゃないと倒せないほど分厚い皮膚を持つそれは、容易に城門を破壊してしまうみたいなのだ。
一応深い堀に跳ね橋の構造…とはいえ投石とかで破壊してくるかもしれないし、近づけたくはないという事らしい。
ちなみに全部盗み聞きしたものなんだけどね。
同じ疑問を持つ人もいたみたいだ。
ともあれ、
「えっと…今回は早めに力を貸して貰いたいんだけども。
多分いつもみたいに戦場でだと、流れ弾で死にそうだしさ」
こっちの交渉を先にしないと。
でも、
「もちろん、そうですね。
今回は出し惜しみ無しでいきましょうか、ルシェ?」
「いやっ、アタシは今まで出し惜しみしてないけどね!?
…まあいいよ、とっておきのを貸してあげる」
「マジかっ!?」
今回はものすごくスムーズにいった。
それだけ大変な任務という事だろうか、こっちも気を引き締めないと…
「あれ、2人から同時に借りれる…の?」
そういえば2人から同時に借りたことは、なくないか?
銃と鎧が同じ時間に顕現した事はあっても、戦闘には使用してないと言ってもいいはず。
「ええ、大丈夫ですよ。 むしろ…」
「強くなるからね!
天使と悪魔の力を同時に借りて、パワーアップした状態…その名は」
「「天魔融合」」
そんまんまじゃん!…なんてツッコむ隙は無かった。
今までは武器だったらその形、鎧の時も体を覆う程度…でも今は光の奔流で目が見えない。
先ほどまで見えていた青空でさえも。
そうしていつもより少し長めの光が続き、ふと晴れた。
これで変身は終わり、かな?
力は…確かに漲っている気もするけど、手をグーパーするだけでは分からない。
そしてそんな動きをする手には、もう武器が握られていた。
右手には青白い光を放つ剣、左手には銃…で合ってるのかな?
拳銃というには大きく、ライフル…ほど銃身が長い訳でもない。
まあ拳銃のでかい版、という言葉が一番この形を表しているかも。
というか、
「…ねえ銃と剣って、同時に持たされても扱いきれる気がしないんだけど…」
力は確かに感じるけどッ、どうするんだ?
だって同じ剣を持つ二刀流が難しいのに、別の武器を持つなんて。
片方盾とかの方が嬉し…
「…ルシェ、貴方剣や盾持ってるでしょう?」
「いやいや、そっちが合わせてよ!
アタシ盾とかあんまり持ってないしさ…アンタも遠距離の方が好きでしょ?」
「いやいや、英雄は剣を持つ者と相場が決まってます。
ですよね、段さん?」
…というのは冗談ってことになりませんか?
言い争っていた2人は、俺の顔へ吐息が当たるぐらいまでグイッと詰め寄ってくる
手を広げてガード出来るような隙間も…ない。
そうして逃げる様に顔を横へ向けると…
「えっ?」
きらんと光る槍の穂先がこちらへ向けられていた。
たまたま…いや、その槍を手にした彼の目もこちらを捉えている。
そうして周りの様子を見てみると、彼らも同じ様な目だ。
「…ば、ばけもの」
「あの翼は…」
そうしてヒソヒソと話す言葉が聞こえる。
…翼、2人が見えてるのか?
いやでも、明らかに視線は俺に向いていた。
取り敢えず刺激しない様に剣を腰に下げた鞘へ収め、銃はベルトへ挟む。
そう思うと確かに格好は変わっている。
さっきまでは地球で普通に暮らしていた格好だったけど、今はセフィの着ているようなローブの色違いを羽織っている。
まるで雨雲の様な、どんよりとした灰色だ。
そしてローブの中を覗くと、着けているのに気づかないぐらい軽い鎧を装着している。
確かにいきなりこの格好になったら驚く…でも槍を向けるほどかな?
実際刺しては来ないし、あっちも半信半疑なんだと思うけど……まさか。
俺はフリーになった手、それを背中へと這わせていく。
もし、もし本当にあるのならここに…
「翼だ…」
あった。
フサフサで、あったかい。
でも触っている手には感触がくるものの、背中に触られている感覚は無くて…
「っていやいやいや、何で翼生えてんの!?」
「天使と悪魔の融合ですからね、翼ぐらい生えますよ」
「そうそう、別にあっても困らないし良いじゃん!
便利だよっ」
そんな必死の訴えも、生まれた時から生えてるだろう2人には伝わっていない。
いや、今これのせいで敵と戦う前に殺されそうなんだけど!?
「おいおい、なんの騒ぎだ…って翼!?」
「あっ、ギルマス! 丁度良いところに…実は」
後ろからそんな野太い声が聞こえる。
ギルマス…何かの略か?…ああ、ギルドマスターか!
ここに来るのって多分冒険者ギルドしかないだろうし。
じゃあその人に一旦仲裁して貰えれば…
「あっ」
「んっ?ああ、さっき加入してた見習いか?」
首の辺りまで、しっかりとした金属の鎧で包まれた男。
そして露わになっている顔、ものすごい見たことがある。
あの無精髭を忘れるはずがない、というかさっき会ったばっかだし!
「ええと、貴方が冒険者ギルドのマスターだったんですか?」
「いかにもっ、俺が冒険者ギルドカラゴ支部のトップ…アラン・カーンだ!」
そんな質問を投げると彼は、待っていたという様に自己紹介を返してくれた。
どうやら本当に偉い人だったみたいだ。
「それでお前さんは…悪魔か?いや、あちらさんの味方か?」
そしてギロリと睨みつけられる。
それはヒュンとタマが縮み上がるぐらいに怖い。
でも、返答を返さないと彼の腰にもつけられた剣で首が切り落とされそうだ。
「い、いえ人間です」
「じゃあ、その翼は何だ?」
「これは…天使と悪魔から力を借りた時に…付いてきたんです」
そんな事を聞かれても、こんな嘘みたいな理由しかない。
だって俺も頼んでないし…。
そして彼の目は、腰につけられた銃と剣へと向けられる。
その目が一瞬大きく見開かれたのは、気のせいだろうか。
更に言葉を付け加え、
「もし敵であれば、ここまで潜入したなら流石にこのタイミングで姿は表さないかと…」
これを言うしかない。
苦しく聞こえるかもしれないけど、実際そうだとは思う。
流石に俺が本当に悪魔でも、こんな形で姿を晒したらタコ殴りで死んでしまう。
もしこれでも納得してもらえないなら……逃げよう。
分からないけど、空飛べたら逃げれそうだしさ。
「まっ、そうだな。
それで、お前さんは遠距離攻撃出来るのか?」
「…出来る、と思います」
どうやら説得は成功したらしく、戦いの話へと変わる。
銃で他の魔法使いとか弓使いとどれだけ張り合えるか分からないけども、一応遠距離ではあるし。
当たるかどうかは…何百何千も敵がいれば当たるでしょ!の精神で。
「そうか、じゃあお前さんも後衛組に合流してこい!」
「はいっ、分かりました」
戦場には…しかも乱戦になりそうな場所へと行きたくはなかった。
でもこうなったらなる様になれ、という感じだ。
元気よく返事を返し、門が開くのを待っている後衛組の方へと足を向ける。
「よろ…しいのですか?」
「ん?ああ、まあ…この街を守る仲間だろ?
こんなところで争ってる暇なんてねえぞ、お前らもさっさと配置につけ!」
さっきまでこちらへ槍を向けていた兵士とギルマスが喋っているらしい。
そしてその言葉を聞いた兵士たちは、納得したのか多分持ち場へと移動していく。
これで少なくとも…後ろから刺されるなんてことは起きなさそうだ。
結構助けられたし、この後の戦果で恩返しできると良いんだけどね。
門に向かうにつれ、ピリピリとした空気が肌を突き刺してくる。
多分この後衛が実質的に先遣隊だからだろう。
跳ね橋はもう降ろされ、簡易的な陣地が橋の向こう側へと作成されている。
俺はジロジロと…多分翼を見られながら、合流まで漕ぎ着けた。
多分こんな怪しい人間でも惜しいぐらいには、人手が足りていないのかな?
そうして後衛達の配置が告げられ、
「後衛組、前進せよッッ!!」
上からかけられたのは、多分騎士団長の声。
東門の上に作られた司令官達が集まる城楼、そこから叫ばれたんだろう。
そしてそれを聞き遂げた左右の兵士達の合図で、後衛組が動き始める。
こうしてカラゴ市防衛の戦い、その火蓋は切って落とされた。




