第9話 ハメられた!?
次なる目的地、冒険者ギルドへ行く…というのを決めたのは、
「アンタ、冒険者じゃないのかい?」
そんな骨董品店の老婆の一言。
当たり前だけど、この世界で初めて見つけた街がここだから違う。
でも分からなくもない。
だって平民がこんな金貨を売りに来るなんて…冒険者じゃないと縁がないし。
もしかしたら商人だったらあるかもだけど、なら入市代ぐらいはあるはずだ。
だからその日暮らしの人間のはず…じゃあ冒険者?という感じの考察なのかな。
という訳で一応身分証になるらしい物を取りに来たのだ。
身分証はないよりはあったほうがいい、ただ依頼とかはあんまり受ける気ないけども。
…でも、冒険者って地位的に大丈夫なんだろうか?
金も無し、身分証も無し、荷物も無し、そんな人間と見間違えられるほどだ。
それで本当に証明になるのかな?
よく分からないしちょっと怪しく感じるけども、無いよりはマシの精神で行く事に。
冒険者ギルドの場所は、骨董品店の老婆に教えて貰っている。
人通りの多い中心の道から外れた場所、歩いているのは多分この街で暮らしている人が殆どで、観光で来ている様な人は居なさそうだ。
服装から予想するに、主婦だったり職人といった感じの装い。
あと屋台方式ではなく、建物で営業している店が多く立ち並んでいた。
「ここかな?」
近くの建物を二つ三つくっ付けたのかという、結構大きなサイズの建物。
他よりも目立って見えるのは、サイズだけではなく木造だからというのもある。
石造りの建物が多い街での木造、それだけでギルド自体の地位がよく分かる。
…実は石の方が高かったりしないよね?
でも細部に装飾されたゴブリンだったりのモンスターの装飾は、結構手間暇がかかってそうだ。
そうしてドアノブへと手をかけるも…中々開く勇気は出ない。
だってここは市街地からは外れた場所…まるで隔離されているみたいだ。
冒険者の地位が低いというのがあるかもしれないけど、そもそも素行が悪すぎるから地位が低いという可能性もある。
もちろんギルドには戦いを生業とする人間が集まっているんだろうし。
入った瞬間絡まれたら嫌だなあ…本当に。
だって力を貸して貰わないと戦えないし、今お金だけは持ってる。
こんなのカツアゲされるに決まってるじゃん…
「そんな緊張しなくても良いじゃん、リラックス…リラックス!」
「身分証を作り、可能なら魔女の情報を集めるだけですから」
「…そんな緊張している様に見えてる?」
まあ、あってるんだけど。
いつも通りのやり取りを得て、少し肩の力が抜けた。
そしてドアにかけた手に力を入れ、ゆっくり引いていく。
きぃぃっと木の軋む音と共に、その建物内の光景が目に入ってきた。
まず目に入った空間、まるで木で出来ているだけの日本の役所みたいだ。
なので異世界だけども、ここだけなら少し落ち着くかもしれない。
でも壁際に置かれた全身鎧の数々、これは流石に見たことなかった。
もしかしたら甲冑なら日本でも置いてある場所があるかもだけど。
そして何より、耳に聞こえてくるのは陽気な笑い声。
それは横から、そして複数人の声が聞こえてくる。
そちらへ視線を向けると、
「食堂…いや酒場かな?」
真っ昼間から酒盛りをしている男や女がいた。
一般人…とも違うだろう、だって鉄のプレートが使われた鎧を着ているのだから。
陽気な彼らは肉を貪り、それを大きなジョッキに入っているだろう酒で流し込み、ガハハと豪快に笑うのだ。
そんな楽しそうな光景とは逆にこちらはガラガラだ。
仕事は大体終わっているんだろう、多分。
早朝とかに依頼を解決しに行くのかな?
でも好都合ではあった、身分証として使うだけだしさ。
「こちら空いてますよ〜」
物珍しそうにキョロキョロと見ていたのが目立ったみたいで、受付の女性に声をかけられる。
その声に導かれる様に足を女性の方へと進めていく。
「ようこそ冒険者ギルドへ!」
そうしてカウンターを挟んだ向こう側にいる女性が目に入った。
制服だろうか、緑を基調にしたOLの様な服装に身を包んでおり…顔採用?なんて失礼な事を思ってしまうほどに可愛らしい顔立ちをした人。
あと…デカい、何がとは言わないけど…
「イデッッ!」
「大丈夫ですか?」
「あっはい、気にしないでっください」
そんな一瞬の思考、それを読み取られたのか両耳が何者かによって引っ張られる。
でも彼女は認識していない…だって天使と悪魔だから?
分からないけど、じゃあ見えてないんだろう。
「それで本日はどのようなご用件でしょうか?」
「冒険者ギルドに加入したいのですが、可能でしょうか?
それと身分証としてどれだけ効力があるかも聞きたいです」
その俺の質問、どうやら難しいものでは無かったみたいだ。
彼女の営業スマイルを崩すほどにも至らなかったし。
「ええ、もちろん本日から加入出来ますよ!登録料は銀貨1枚を頂戴しますが。
身分証としては一番初めになる見習い級から、使っていただけます」
彼女の説明によるとまずは見習い級、そこから銅、銀、金、そしてミスリル級と上がっていくそうだ。
とはいえ見習い級だと偽造対策もなく、銀級からそれが施されるらしい。
…まあこの世界で冒険者として長く生きていくつもりは無いし、あんまり縁はなさそうだけど。
「それじゃあ…お願いします」
「かしこまりました、まずはこの紙に記入を。
文字が書けないのであれば私が代筆致します」
そのサービスは断り、空白の欄を埋めていく。
名前…名字って、この世界で名乗っても良いんだろうか?
なんか貴族とか騎士だけしか家名が無い感じだったら、変に悪目立ちしそうだ。
…そんな訳で掛布段ではなく、ただのダンを名乗る事にした。
これぐらいの改変ならそんな悪くもなさそうだし、良いよね?
「ええっと、ダン様…ですね。
それでは裏で身分証の用意をしますので少々お待ちくださいませ」
そうして紙の上に銀貨1枚を置き提出すると、彼女はそれを持って奥の部屋へと消えていく。
通ったって事は、問題無しなのかな?
普通に出身地の場所に日本〇〇県〇〇市って書いちゃってたけど。
「これで大丈夫ですかね?」
「うん、後は待つだけかな…んん!?」
「よう、兄ちゃん…んぐっ、んぐっ。
冒険者になるんだろ?歓迎するぜい」
そんな会話をしていると、後ろから誰かが俺の首へと手を回して来たのだ。
恐る恐る振り返るとそこには無精髭を生やした冒険者の格好をした男。
…てか、酒臭ッッ!
そしてグビグビとまだ日も落ちていないのに、酒を水の様に飲んでいく。
本当に絡まれたんだけどぉ!?
受付の人は…まだ帰ってこない、それにセフィもルシェなんか面白がってる感じで見てるだけだ。
「あ、ありがとうございます」
「武器も持ってねえけど、大丈夫なのか?」
まさか、こっちに反撃する手段が無いのがバレてる?
確かに普段から武器は刺さない、だってその度に借りるシステムだし。
しかも馴れ馴れしく首にかけてきた腕を避けれなかった事から、反射神経があんまり無いやつだと思われてそうだ。
これじゃあ…カツアゲコースまっしぐらだ。
「えっとですねぇ…武器は天使と悪魔が貸してくれるので大丈夫です」
「…は?悪魔と天使?」
変に口が滑って全部言ってしまった。
でも、流石に意味が分からなさすぎて通じてない様子。
それは良かった…のか?
「……ということを言ってたら家から追い出されまして、持ってきた道具は道中ゴブリンの集団に襲われた時に捨ててしまい…」
「……天使をイマジナリーフレンドの様な扱い、いずれ罰が当たりますよ」
「なんで悪魔は除外!?悪魔もそんな扱いされたら怒っちゃうよ!?」
なんとか軌道修正したけど、セフィが横からジト目を向けてくる。
ルシェは俺にというより、セフィに矛先を向けていた。
…後で2人には幾らでも謝るから許して欲しい。
そんな言葉を告げられポカンとしていた男は、
「ガッハッハ!それは災難だったなあ!
金が有るならディググ商会、金が無えならオルド工房へ行け。
両方とも質の高え装備を売ってくれるからよ。
じゃあな見習い冒険者、死ぬなよ!」
「んん!?…あっ、ありがとうございます」
最後に男はバンッと俺の背中を叩き、酒場の方へと消えていく。
…なんか良い人だったらしい。
人を見かけで判断するのは良くない、本当にそう思わされる。
でも安心した、普通に戦闘の時と同じくらい緊張したし。
「ダン様、作成が終わりました。
こちらが冒険者ギルドへの所属を証明する、タグとなっております」
そうして戻ってきた受付嬢からお釣りを渡す時の様なトレイを経由して、そのタグが渡された。
このギルドと同じ様な素材の木製、そこに名前や発行したギルドの支部名などが載っている。
あと裏には木製でも偽造対策だろうか、複雑な模様が入っているのは嬉しいところ。
正直見た目はお土産のストラップとそんなに変わらない、でも感動はあった。
異国の文字が刻まれているこれは、更に異世界にきた実感を高めてくれるのだ。
とそんな感動に浸っている時、
ゴーン、ゴーン
遠くで鐘が鳴り響く。
なんだろう、時を告げている鐘なのかな?
でもなんかピリッという雰囲気を受付嬢が醸し出している。
そして、
「ちょっと!酒場にいる人達、静かにして下さい!」
細い彼女から出たとは信じられないほど大きな声が発せられた。
そうしたら、荒くれ者の集団に見えるこういうのに反発しそうな冒険者達も揃って静かになるのだ。
…そんなにやばい状況なのか?
普通に逃げ出したい気分だけど、それを許してくれる様な雰囲気でもない。
それに危ないなら、絶対ここで情報を集めた方が良いし。
「東から…魔物の大群!?
…ふぅ、緊急依頼っ!冒険者の皆さん、戦闘の準備をしたらすぐに東門まで!
もちろん全員参加していただきますっ!寝ている仲間がいるなら、直ちに起こして来て下さい!」
あの鐘が何らかの情報を伝えているんだろうか、それを職員の女性は容易に解読する。
そして冒険者の中にも同じ様な反応を返している人がいるし、結構有名なものなのかもしれない。
……全員参加!?
「あの…自分もですか?」
「そうですね、申し訳ありません。
ですが前線以外にも仕事はありますので、集合だけお願いしますっ」
…まるで罠に嵌められた気分だ。
疲れたから宿で早めに寝る…冒険者登録は明日やるから、なんて生活だったら絶対有り得なかったルート。
ただ彼女も忙しそうだし、これ以上聞くのも邪魔してしまう。
絶対あのゴブリン達より多いよなぁ…この都市の防備があるのに、これだけ慌ただしくなってるんだしさ。
「いやあ、面白くなってきたじゃん!」
「そもそも魔女討伐は人々を救うためですから、今回も大事ですよ!
今回頑張って英雄になりましょう、私達もサポートしますから!」
「…そうだね、死なない程度に頑張るよ」
やる気な天使と悪魔を引き連れ、俺達は東門へと向かうのだった。




