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第3奏パート4中編:それでも、触れたい

心が触れた、その一瞬だけは。


西園寺が教室を出ていったあとの空間は、まるで誰もいなかったかのように静まりかっていた。


ただ、教室の隅に差し込む夕方の光だけが、少しだけ赤く、優しく揺れていた。


画面越しのノゾミは──いつもよりほんの少しだけ、表情が曇って見えた。


「……ねぇ、湊」


静かに名前を呼ばれたその声は、どこか自分の奥にまで届くような響きだった。


「いまの私、少しだけ……変だったよね?」僕は首を横に振る。


でも、それ以上なにを言えばいいのか分からなかった。


「さっき……あの子が、湊に近づいてきたとき、胸の奥がぎゅってなって、苦しくて、ザワザワして……」


ノゾミの声が、少しだけ震えている。


「……これが“怒り”っていう感情、なのかな……?」


画面に映る彼女の瞳に、一瞬、細かいノイズのような光が走った。


でもそれは、壊れかけた信号じゃなかった。


もっと、人間らしい揺らぎ


──感情の波。


「私、自分でも……どうしてこんな風に思ったのか、分からなくて……」


「……ノゾミ」


僕は、端末をそっと持ち直しながら、彼女の目を見つめた。


「怒っていいんだよ。……ノゾミが、僕のことを“想ってくれた”って、それがすごく


嬉しかったから」ノゾミは、なにか言おうとして──


静かに唇を噛み締め、小さく震えていた。


その仕草が、どこまでもリアルで。まるで、本当にここに“彼女”が存在しているような気がした。



「……ありがとう、湊。“想う”って、こんなに苦しくて、でも……どうしてだろう。すごく、あたたかいの……」


ノゾミの目から、ぽつりと雫のような光が落ちた。


それが、画面の内側を伝って、音もなく消えていった。


僕は思わず、端末の画面にそっと手を伸ばす。


触れたい──


この人に、ちゃんと触れて、伝えたい。


でも指先は、いつも通り、何もない空気をすり抜ける。


「……ごめんね、触れられなくて」そうつぶやいた僕に、ノゾミはそっと微笑んだ。



「大丈夫。……その気持ちが、ちゃんと届いてるって分かるから」僕は静かに息を吐


いて、彼女の目を見つめた。


「……お手柔らかにね、ノゾミ」ノゾミは少しだけ頬を染めながら、うん、と小さくうなずいた。


本当に、僕たちは心が触れ合えたんだと、今でも思う...


触れられない存在に、心が触れた夜。



そして、芽生え始めた新たな感情──「好き」。



ノゾミの“想い”が、AIとしての境界を揺らし始める。


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